甘え上手な彼女3 秋編

Joker0808

第53話

 玄関先で落ち込む高志を優一が蹴飛ばす。

「優一! お前どこに行ってたんだよ!」

「悪い、便所行ってた」

「悪いで済むか! お前が居なかったせいで俺は……俺は……」

 高志は地面に這いつくばり、ため息を吐く。
 そんな高志の肩に優一は手を置く。

「まぁ……なんだ……今回は俺も悪かったよ……」

「なんでそんな優しいんだよ!」

「いや……流石にアレを見たらな……」

「若干引いてるよな!」

「あ、やめろ! 触るな! このホモ野郎!!」

「ちげーよ馬鹿!!」

 高志は距離を置く優一に掴み掛かっていく。
 優一はもの凄く嫌そうな顔をしながら、高志の手を振りほどこうとする。

「やめろ! 俺にそんな趣味は無い!」

「俺にだってねーよ!! 見てたなら助けろよ!」

「どうせ同意の上だったんだろ!」

「んな訳あるか!!」

 言い争いながら、高志と優一はお互いの浴衣を掴み、取っ組み合いを始める。
 するとそこに、騒ぎを聞きつけたのか、足音が二つ近づいてきていた。
 そして、その足音は高志が気がつく前に鳴り止む。

「高志………」

「え……さ、紗弥?」

 高志達に近づいて来た足音の正体、それは先ほどまで高志と倉島の一部始終を目撃していた、紗弥と由美華だった。

「高志……やっぱり……」

「え? な、何?」

「女の私より……男の方が良いの……」

「な、何を言ってるんだ?」

 紗弥は涙目でそう言いながら、高志から一歩、また一歩と下がって行く。

「だから……私に何もしてこないの……」

「さ、紗弥どうした? 落ち着け、俺は何も……」

「高志の馬鹿ぁぁぁぁ!!」

「え、え? えぇぇぇぇ!!」

 紗弥はそう叫ぶと、走って行ってしまった。
 残された由美華はなぜか凄く優しい表情で高志に言う。

「八重君……あの……私は良いと思うよ……男同士……」

「はっ! ま、まさか!! 見て……た?」

「うん……でも、紗弥が居るのにアレは……ダメだよね?」

「いや、違うんだ! アレは!」

「良いの! 私もそうだから、気持ちは良くわかるよ……それに……まさか那須君ともそんな関係だったなんて……」

「「は?」」

 言われて高志と優一は、お互いの状況を確かめる。
 お互いに浴衣ははだけ、上半身はほぼ裸。
 高志が優一に覆い被さるような形になっており、誤解を受けても仕方の無い体勢だった。

「待て! 俺とこの変態を一緒にするな!」

「俺は変態じゃねー!!」

「う、うん……大丈夫……わ、わかってるから……」

「「わかってねーだろ!!」」

 頬を赤く染めながら言う由美華に、高志と優一は説明を始める。
 そして数分後……。

「なるほど……じゃあ、無理矢理されたと」

「そうだ」

「八重君の意思では無かったと?」

「そうだ」

「でも、那須君とはそういう関係と?」

「そうだ……ん? いやちげーよ!」

「まったく……人が紗弥に恋の相談をしているときに……」

「いや、聞いて下さい御門さん! 俺だって野郎とキスなんて……」

「同姓愛を馬鹿にしないで!!」

「なんで怒るんだよ!」

「なんでも良いけどよ……高志は宮岡の事を追いかけなくて良いのか?」

「追いかけたいよ! でも女子の部屋には行けないし……」

 紗弥が走り去って行ったのは、女子のへやが固まっている廊下で、見回りの先生も多い。
 それにソロソロ消灯時間なので部屋に戻らないと見回りの先生が来てしまう。

「部屋に戻って電話で説明するよ……」

「わかって貰えると良いけどね」

「御門からも言ってくれよ……アレは誤解なんだって」

「これは八重君と紗弥の問題でしょ? なら自分で解決しなさい! 私だって色々と大変何だから」

「あぁ……泉のことか」

「酷い女だ、こっぴどく振ったらしい」

「泉……泣いてないと良いけどな……」

「し、仕方無かったのよ!!」

 言われてばかりも嫌なので、高志は由美華に言い返す。
 由美華は顔を真っ赤にして、高志と優一に言い返す。
「大体二人だって彼女大切にしてないじゃん!」

「馬鹿を言うな! 優一はともかく、俺は紗弥を大切にしている!!」

「大切にしてる人は、彼女を何度も泣かせません!」

「うっ……痛いところを付いて来やがる……」

「馬鹿な事してるからだ……」

「那須君も! 芹那ちゃんと手も繋いで無いらしいじゃない!」

「俺は良いんだよ。俺らはそういう付き合い方をしてるんだ。他人にとやかく言われる筋合いは無いね」

「へー、そうんなんだー」

「そうだ」

「その割には、彼女の写真を写真部から毎月買ってるんだねー」

「おい、待て。なんでそのことを知っている」

「芹那ちゃんが嬉しそうに電話で言ってた」

「あの野郎……絶対他言するなと言ったのに……」
 
 優一は眉間にシワを寄せながら、ため息を吐く。
 そんな事をしていると、玄関の方に石崎先生が欠伸をしながらやってきた。

「ふわぁ~わ……おまえら、早く部屋に戻れよー、消灯時間だぞー」

「あ、はい」

「へいへい」

「紗弥ぁ……」

 各自はそれぞれの部屋に戻っていった。
 高志と優一は自分の部屋に戻り、疲れ果てて布団に倒れ込んだ。

「おかえり、どうだった?」

「最悪だった……」

「マジで? 呼び出し相手が男で殴られたとか?」

「いや……まだ殴られた方がマシだった……」

「は? じゃあ何が……」

「聞かないで……」

「本当に何があったの?」

 部屋で待っていた土井は、高志の様子を見て首を傾げる。
 
「あれ? そう言えば赤西は?」

「まだ帰って来てないよ。どうせ西城とイチャついてるんだろ?」

「あぁ、そう言うことか……繁村は……寝たのか」

「泣き疲れてな」

「本当に酔っ払いみたいだな」

 繁村はコーラのペットボトルを抱きかかえながら、自分の布団で寝ていた。
 そして泉も……。

「泉も寝たのか」

「あぁ、なんか疲れたって言って……」

「そうか……」

 事情を知っている高志と優一は、それ以上何もお言わなかった。
 高志も直ぐにでも布団に入って眠りたかったが、そういう訳にもいかなくなってしまった。

「紗弥……」

 高志は自分の布団を頭から被りながら、スマホの連絡先の『宮岡紗弥』の名前を見ながら頭を抱える。

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