甘え上手な彼女3 秋編

Joker0808

第52話

「そ、そんな事言われても……」

「わからない?」

「うん……」

「そうよね……私もわからなかったし……」

 紗弥は昔の自分の事を思い出しながら、由美華に話し始める。

「昔、私が事故にあって高志に助けてもらった時は、まだ高志を好きだったかどうかわからなかったわ」

「そうなの?」

「えぇ……でも、同じ学校になって、色々と高志を知っていくうちに……どんどん好きになっていったの……」

 紗弥は頬を赤らめながら、自販機の脇の大きな窓の方に向かう。

「由美華ももう少し、泉君を知ってから答えを出しても良いんじゃ無い?」

「泉君を……知る……」

 転校してきたばかりの泉の事を由美華は良く知らない。
 考えて見れば、どんな料理が好きなのか、どんな趣味を持っているのかも知らない。
 知っているのは、名前と学校での様子くらい。
 しかも知り合ってまで半年も経っていない。
 何も知らない泉の事を由美華は始めて、知りたいと思うようになっていた。

「そっか……確かに私……泉君の事何も知らない」

「うん、だから……」

 紗弥がそう言いながら由美華の方を向こうとした瞬間、窓の外の中庭を見た紗弥はフリーズした。
 そんな紗弥の様子に気がついた由美華は不思議に思い、紗弥に尋ねる。

「どうしたの?」

「……た、大変な事態よ……」

「え? 急にどうし……え!?」

 由美華は紗弥の方に寄っていき、紗弥の視線の先にある中庭を見る。
 中庭を見た瞬間、由美華は思わず声を上げてしまった。
 その理由は……。

「あ、アレって……」

「高志よね……」

「き、キス……してる……よね?」

「由美華にもそう見えるのね……」

「お、男同士で……」

「良かった……私の目が腐った訳じゃ無かったのね」

「いや……腐ってた方が良かったかもよ……」

 紗弥の視線の先には、高志が誰かとキスをしているように見えていた。
 しかも男と……。





「で? どうした? 何かあったか?」

「あぁ、高志に彼女が出来てからずっと言おうと思ってたんだ……」

「そうなのか? 何か大切な……」

「高志、僕は君の事が好きなんだ!」

「話しでもあるのか……って……はい?」

 高志は倉島のまさかの言葉に耳を疑う。
 
「えっと……すまん……もう一回言ってもらっても……」

「僕は高志が好きなんだ」

「あぁ……と、友達としてってことな……」

「一人の男としてだよ」

 高志はその一言で背中から汗が噴き出すのを感じる。 なんと答えたら良いのかわからず、高志は戸惑ってしまう。
 高志は物陰に隠れている優一に視線を送り助けを求める。
 しかし……。

(逃げやがったあの野郎!)

 既に物陰に優一はおらず、中庭には高志と倉島の二人だけ。
 しかも、少しづつ倉島は高志に近づきつつあった。

「ま、まて! お前は男だろ!?」

「関係無いよ……女子なんて汚らわしい! 男の方が良いと思わないかい?」

「いや待て! この一年でお前に何があった!!」

「高志……僕はずっと……」

「顔を赤らめるな! ジリジリ寄ってくるな! なんか怖い!」

「高志……逃がさないよ」

「や、やめろ! な、何をする気だ!」

 高志は倉島に肩を掴まれる。
 意外にも強い倉島の力に、高志は倉島の拘束から逃れる事が出来ない。

「高志……」

「な、なんで顔を近づける! やめろ! 落ち着け! 考え直せ!」

「大丈夫……高志も直ぐに目覚めるよ……」

「何が!?」

 逃げようとする高志を倉島はガッチリと掴んで話さない。
 少しづつ近づく倉島の顔から逃れようとする高志。
 しかし、高志の健闘空しく、その唇は倉島に奪われてしまう。
 そして、高志はそのまま倉島の元を離れて走り出す。
「はぁ……はぁ……」

 旅館内に入り、高志はそのまま玄関先で崩れ落ちる。
「はぁ……け、汚されちゃった……」

「何やってんだ馬鹿」

「イデッ! な、何しやがる! 人がショックを受けてる時に!」


 

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