甘え上手な彼女3 秋編

Joker0808

第5話




「っち! 西城の野郎!!」

「おい赤西! しっかり練習しろ!」

「うるせぇ! お前らも練習してないだろ!」

「あ、バレた?」

 赤西は部活中にもかかわらず、グランドの隅でサボっていた。
 赤西の所属するサッカー部はあまり強くもなく、練習もそこまでキツくない。
 無理せず頑張るがもっとうのサッカー部だ。

「なぁなぁ赤西!」

「なんだよ」

「お前のクラスの西城って彼氏居るの?」

「はぁ? 居るわけねーだろ。それとなんで俺に聞くんだよ」

「いや、お前って西城と幼馴染みなんだろ? 俺、西城に告ってみようと思ってさ……」

「お前マジか!? あんな暴力女のどこが良いんだ?」

「いや……その、可愛いじゃん……結構キツい性格も良いし」

「やめておけって、そんな事より他に可愛い奴を見つけてだな……」

「なんだ? もしかして、お前も狙ってるのか?」

「はぁ?」

 同じ部の友人からの言葉に、赤西は何を言っているんだこいつはといった表情をする。
 
「俺が? 西城を? ないない、あの西城だぞ」

「そうなのか? なら安心だ。それじゃあ俺、明日告ってみるよ」

「いや、お前俺の話聞いてたよな!? なんでそうなるんだよ!」

「いや、実はお前が西城と付き合ってないかを確かめるためにちょっと話しを聞いたっていう感じなんだ」

「そう言うことかよ……まぁ、頑張ったら」

「なんだよ、チームメイトが意中の相手に告白しようとしてるのに、冷たいなぁ~」

「俺にとってはどうでもいい話だからな、それよりソロソロ練習しないと、キャプテンが怒るぞ?」

「それもそうだな」

 そろそろキャプテンに怒られてしまうと感じた赤西は、練習に戻って行く。
 赤西は西城の事を昔から良く知っていた。
 だからこそ、あれだけ強く言えるのだ。

「西城……昔は可愛かったがなぁ……」

 昔の事を思い出しながら、赤西は今日もボールを蹴り始める。





 高志は紗弥の委員会が終わるのを教室で待っていた。
 待っている間、スマホでゲームをしたり写真の整理をして時間を潰す。

「今年も後三ヶ月で終わりかぁ……色々あったなぁ……」

 写真を見ながら、高志は今年の出来事を思い出す。
 紗弥と付き合い。
 文化祭が有り。
 夏休み前には、自分が原因で紗弥を悲しませてしまったりと、本当に色々あったんだと高志は振り返る。
 スマホの写真は、紗弥とチャコの写真がほとんどで、何度見ても飽きない。

「お待たせ、高志」

「あ、紗弥。もう終わったのか?」

「うん、お待たせ、帰ろ!」

「そうだね、チャコが寂しがってるかもしれないしな」

「ウフフ、そうね」

 夕焼けが沈み始め、暗くなり始めた道を高志と紗弥は手を繋いで歩く。
 電車もいつもと乗る時間が違うため、少し人が少なく座って帰る事が出来た。
 紗弥と高志は、いつも通り仲良く話しをしながら自宅までの道を帰る。
 こんな帰宅の時間もあっという間に感じてしまうほど、二人に取っては至福のひとときの一部だった。

「そう言えばね、委員会に行ったら色々聞かれちゃった」

「え? 何を?」

「んっと……高志のどこが好きかとか、もうキスはしたのかと」

「な、なるほどな……他のクラスの奴らも居るもんな……そうなるのか……」

 恥ずかしい反面、高志は紗弥と付き合っていると言う幸せがなんだか誇らしかった。

「高志の事、優しくて良い彼氏だねって言われてね。私、嬉しかったよ」

「そ、そうなのか? そんな事を言ってくれる人も居るんだな……」

 今までは男子からの嫉妬や陰口くらいしか耳に入ってこなかった高志だが、こうして良いことを言ってくれる人も居るんだと思うと嬉しくなる。

「でも、私ね……そう言われた時、少し不安になっちゃった」

「え? なんで?」

「だって……夏休みの時みたいに、また高志が……取られちゃう……」

 顔を赤らめながらそういう紗弥に、高志は胸がきゅんとなるのを感じた。
 顔を赤くしながら恥ずかしそうにしている紗弥を見て、高志はやっぱり紗弥は可愛いなと改めて思う。
 こんな表情を見せられては、絶対に浮気など出来ないし、しようとも思わない。

「だ、だからね……きょ、きょうは……その……私の家に来ない?」

「え……え!? さ、紗弥の部屋!?」

「う、うん……」

 もう付き合って四ヶ月になろうとする高志と紗弥だが、毎回一緒に遊ぶ時は基本的に高志の部屋が多い。
 紗弥の部屋など、数回ほどしか入った事がない高志は、今日の紗弥が何を考えているのかがわからなかった。

「い、良いけど……でも、お父さん居るんじゃ……」

「だ、大丈夫! 今日はお父さん、出張で居ないから!」

「どおりで最近静かだと思った……」

 高志は一度自宅に戻り、晩飯は紗弥の家でごちそうになる事を知らせる。
 鞄を置き、高志は必要な物だけを持って、紗弥と紗弥の家に向かう。

「なんか、母さんが持って行けってさ……」

「あ、これってこの前、高志のお母さんが買ってた高級チョコだよ」

「なんか、元々紗弥の家に持って行くつもりだったらしいぞ?」

「ごちそうさま、あ! でも、太っちゃうかも……」

「き、気にするほどじゃないよ! それに……さ、紗弥は少し肉が付いても可愛いと思うよ……」

「もぉ! 馬鹿!」

「さ、紗弥! い、痛いよ……」

 高志の言葉に紗弥は顔を赤くしながら、ポカポカと高志の頭を叩く。
 こんな光景が、高志と紗弥の家のご近所でも、最早名物となり始め。
 近所の人々は、若い二人のカップルを暖かい目で応援していたりする。






「ただいまぁ」

「あら、おかえりなさい。あら? いらっしゃい高志君。珍しいわね」

 紗弥の家に入ると、紗弥のお母さんが出迎えてくれた。
 エプロン姿で片手には愛用のフライパンを持っている。
 
「お邪魔します、紗弥のお母さん」

「ウフフ、もうそんな他人行儀じゃなくて、お母さんって呼んでも良いのよ? もう半分家族みたいなものじゃない」

「か、家族!?」

「あら? 可笑しな事を言ったかしら? だって、紗弥と結婚したら事実上……」

「お母さん! 高志が困ってるでしょ!」

 イタズラっぽく笑いながら紗弥のお母さんは、紗弥をあしらう。
 結婚などというワードに高志は反応し、頭の中で紗弥との結婚生活を妄想してしまっていた。

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