甘え上手な彼女3 秋編

Joker0808

第4話




「んで、ここが視聴覚室。まぁ、そこまで使わないけどな」

「あ、ありがとう……」

「なんか疲れてないか?」

「う、うん……少しね」

 高志は昼休み、泉を連れて学校内を案内していた。
 泉はクラスの異様な雰囲気に慣れることが出来ず、既に疲れきっていた。

「まぁ、少しうちのクラスは変わってるからな」

「少しどころじゃない気が……」

 二人がそんなことを言いながら、教室に戻っていた。
 その途中、高志と泉の前を優一が猛ダッシュで駆け抜けて行く。

「ん? 今のは優一か?」

「えっと……確か同じクラスの人だよね? あんなに急いでどうしたんだろ?」

「まぁ、なんとなく察しがつくけど……多分もうすぐ……」

「優一さぁぁぁん! なんで逃げるんですかぁぁ!!」

「ほら来た」

「?」

 高志がそう言うと、目の前からまたしても猛ダッシュで誰かがやってきた。
 今度は女子生徒のようで、手にはないかを持っている。

「よう、芹那ちゃん」

「あ、八重先輩! こんにちは!」

 走ってきたのは優一の彼女の芹那だった。
 高志が声を掛けると、芹那は立ち止まりしっかりと挨拶をする。

「あれ? 今日は紗弥さんじゃなくて、男の人と一緒なんですね!」

「いや、いつも紗弥と一緒って訳じゃ……無いことも無いな……」

 よくよく考えると芹那の言うとおりでことに気がつく高志。
 ぽかんとしている泉を見て、高志は芹那を紹介する。

「あぁ、ごめんごめん。この子は一個下の一年生で、秋村芹那ちゃん。んで、こっちは今日転校してきた泉だ」

「秋村さん、よろしく」

「よろしくお願いします! 泉先輩!」

「そう言えば、優一を追いかけなくて良いのか?」

「あ! そうでした! 今日こそは……ウフフフフ」

 どこからともなく取り出した荒縄を持って、芹那は不気味に笑う。
 優一の逃げていた理由を何となく察した高志は苦笑いをした。

「それじゃあ、私はこの辺で!」

「お、おう。ごめんね、呼び止めちゃって……」

「いえ、大丈夫です! 優一さんの行くところは、このGPS昨日で分かりますから!」

「それって発信機……」

「それじゃあ、先輩方! 私はこれで!」

 芹那はそう言って、再び優一を追いかけ始めた。

「ね、ねぇ八重君……彼女はなんで荒縄を?」

「いや……その……気にしない方がいいよ?」

「えっと……那須君は彼女と付き合ってるの?」

「う、うん。まぁ……」

「なぜ目を反らすんだい?」

 芹那がかなりのドMなんだとは言えず、高志は話しを反らして教室に戻る。
 そして、教室に戻ったら戻ったで、待っていたのは男子と女子の熾烈な戦いだった。

「おいコラ西城! いい加減にしろよ! 俺たちのどこが馬鹿で気持ちが悪いんだよ!」

「いや、全部だけど? 屈み貸してあげようか? 不細工が写るから」

「あ、本当だ……じゃ、ねーだろ!! そういうことを言ってるんじゃねーんだよ!!」

 またしても朋香と赤西らしい。
 毎回よく懲りずにやるものだと高志は思いながら、そーっと泉を連れて教室の自分の席に戻る。

「あの二人は仲がメチャクチャ悪くてな……この喧嘩も日常茶飯事なんだ」

「そうなんだ……でも、なんで仲が悪いの?」

「それは俺も知らないんだが……昔かららしい」

 高志と泉はそんな二人の様子を教室の隅で見ながら、食事を始める。

「はぁ……お前も昔はなぁ……」

「何よ」

 赤西はため息を吐きながら、朋香を見て何かを思い出す。
 そして肩を落としながら話し始める。

「女ってもんは、歳を重ねるごとに……」

「何が言いたいのよ、煮え切らない男ね」

「別にぃ~、年取るごとに可愛げが無くなると思っただけだよ~」

「はぁ!? アンタ、そんなにぶん殴られたいの?」

「可愛い女子はそんな事いいませんー! これだから可愛げの無い女は……」

「うるさいって……言ってんのよ!!」

「あうっ!! あぁ……お、お前……俺の息子を……」

「うわー痛そ……」

 朋香は赤西の言葉にとうとう我慢できづ、赤西の玉を蹴り上げる。
 男なら誰でも一度は経験したことのある激痛に、その場の男子は顔を曇らせる。
 
「ふん!」

 朋香はそのまま教室を出て行ってしまい、今日も勝者は朋香で幕を閉じた。
 クラスの生徒達は、何事もなかったかのように食事に戻る。
 そんな光景にも泉は違和感を覚える。

「み、みんな慣れてるんだ……」

「まぁ、泉もそのうち慣れるさ……」

「そ、そうなのかな……」

 とんでもない学校に転校して来てしまったと考える泉であった。





 放課後、高志は帰宅の準備をしていた。
 いつものように紗弥と一緒に帰ろうと、紗弥に声を掛けたのだが……。

「え、委員会?」

「うん、ごめん……」

「いや、謝ることないよ、そりゃあ実行委員だもんな……」

「うん、今日から忙しくて……」

「いや、気にしなくて良いって、そっかそっか、じゃあ待ってるよ」

「え! 遅くなっちゃうよ?」

「いや、大丈夫だよ。どうせやることもないし」

「本当に?」

「あぁ、紗弥を暗い夜道に一人にするほうが心配だよ」

「高志……」

「紗弥……」

 見つめ合い、いつものようにイチャつく高志と紗弥。
 クラスの男子はそんな姿を嫉み、嫉妬の炎を燃やし、女子はそんな男子に軽蔑の視線を向ける。

「くそ! 高志のやつ!!」

「相変わらずイチャイチャしやがってぇ~」

「うらやまけしからん!」

「アホね」

「ホント男って馬鹿よね」

 そんな教室の状況を見ていた泉も、嫌でも高志と紗弥の関係には気がつく。

「八重君も結構大変なのかもな……」

 イチャイチャする高志と紗弥を見ながら、泉も肩を落とす。
 そろそろ帰ろうと、泉は鞄を持って教室を出る。
 すると……。

「きゃっ!」

「うわっ!」

 教室の入り口で泉は誰かとぶつかってしまった。
 泉は少しよろけただけだったが、ぶつかった女子生徒は倒れてしまった。

「ごめん! 大丈夫?」

 泉は直ぐさま倒れた女子に手を差しのばす。

「あぁ、ありがとう。ごめんねぇ~」

 そう言って顔を上げたのは由美華だった。
 笑って答える由美華を見て泉はドキッとした。

「おぉ、転校生君じゃん! 学校早く慣れるといいねぇ~、じゃあまた明日ね~」

「う、うん……また……」

 泉は廊下を駆けて行く由美華の背中を見つめながら、少しの間ぼーっと立ち尽くす。

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