それでも中二病はカッコいい

第1話 プロローグ


 人生の中で、1度は中二病。という言葉を聞いたことはあるだろうか。

 主に中学二年生に、多く見受けられる。と言う事実から、その名前が付けられた。そしてそれは永劫続く病。1度掛かるとその魅力に囚われ、その事だけしか考えられなくなる。

 波が過ぎる者もいるだろう。だが、その者には、次に何倍もの羞恥心が襲ってくる。そうなれば終わり、その記憶は自身の黒歴史となって心に刻まれることだろう。

 そして今、ここにもそんな不治の病にかかってしまった、哀れな高校生がいた。



✤✤✤


「えー、ここの未来形と未来進行形の違いは───」

 英語の授業中、静かな空間で先生が板書しながら説明をしている。

 そんな中、1人の女子生徒が消しゴムを落とす。慌てて取ろうとしたが、消しゴムに伸ばした手は、目的のものにはたどり着かなかった。

「これ、お前のか?」

「え?」

 どうやら親切な生徒が近くに来たので取ってあげたようだ。

「あ、ありがとう。如月きさらぎくん」

 感謝の言葉を述べて、消しゴムを受け取る女子生徒の顔は僅かに赤い。

「あぁ、気にするな」

 このまま終わるかと思われた会話は、というか終わっておけばよかった会話は、如月と言われた男子生徒によって、続けられた。

「待て、まだ話は終わってない」

「へ?あ、うん。なに?」

 如月のイケメン加減も相まってか、女子生徒は満更でもなさそうに、先生にバレないように顔を如月の方へ向け、話を聞く体制になる。

「その腕、どうしたんだ?」

 見てみれば、女子生徒の右手は包帯でぐるぐる巻きになっていた。

「....あ〜これ?ちょっとバレー部でしくじっちゃって」

 今ここで聞く? という顔の女子生徒だが、やはりここでもイケメンに助けられ、快く返事が帰ってくる。

「ふむ、言いたくないか。まぁいい」

「え...?」

 自分は確かにバレー部で怪我をしたと言ったはずだ。だが何を勘違いしたのか、如月は妙に雰囲気を出して話す。

「まさか..力を制御できてないのか....?先程の落下物に気づく速度といい、少しトロイんじゃないか?いい修行場を提供してやろう。毎日3時間そこで修行すれば、トロイお前でも、4ヶ月程度で、その力を、制御できるようになるだろう」

 前半は全く何を言ってるのか分からない女子生徒だったが、後半で自分がけなされていることに気づく。

 オマケに、お前お前、と言うだけで、1度も自分の名前を読んでないことに気づくと同時に、その女子生徒から感情が消えた。

「あ、うん、気にしなくていいから、もう話し掛けてこないで」

「ふむ、そうか。ならば何も言うまい」

 キツく言ったにも関わらず、如月の平然とした態度に、イラッときた女子生徒は、もう少し言ってやろうと口を開く。

「ってか何その話し方。普通にキモイんだけど、もしかして如月ってアニオタ?」

 イケメンに対して、少し言いすぎたかな。と思う女子生徒。だが、言いたいことを言えてスッキリしたらしく。そんな心配は一瞬で消え去った。そしてちゃっかり呼び捨てになっていた。

「....なんだ?俺の言っていることが分からなかったのか...? はぁ....朝、凄いオーラを出して教室に入ってきたのがお前だったからまさかと思ったが....俺の思い違いだっか....すまないな、俺がさっき言ってたことは忘れてくれると助かる」

 謝罪されたにもかかわらず、失望され、結局トロイという部分は訂正しなかったことに、女子生徒の中の何かがプツンと切れた。

「あ、あんた!いい加減にッ!」

 ついに女子生徒も、如月の事を名前で呼ばなくなり、怒りを露わにする。だが、その声量は、完全に教室中に響き渡る大きさだった。

 「篠崎しのざき!煩いぞ!廊下に立ってろ!」

 篠崎と呼ばれた女子生徒は、唖然としているが、状況を理解すると、静かに「はい...」と言って廊下へ向かった。

 教室を出る最後の方で、如月に恨みの篭った瞳を向けたが、当の本人は気づいていないようだった。

「やれやれ....なかなか尖った娘だな」

 一部始終を見ていた周りの生徒が思った事はただ一つ。

(((お前にだけは言われたくない)))



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