ダンジョンコアになった俺は最強のダンジョンを目指す!

宇宙 のごみ

ダンジョン、盗賊に勝つ






 ……何故だ、何故だ、何故だ!
 何故だ、何故だ、何故だ、何故だ!!


 俺の頭の中ではそんなことばかり駆け巡る。
 殺意の塊がその力を持って命を刈り取っていく。


 白刃の光が煌めく度、一人、また一人と声を上げることも無く仲間の首が落ちていく。


 俺達は盗賊団の中でも統率がとれていて、力のあるグループだった。
 国家の騎士団も気軽には手が出せないような盗賊団。


 挑発も上手くいっていた、偵察も無事成功させた。
 何もかも上手くいっていた。


 それなのに!
 あのコボルと名乗った魔族が現れてからの状況は悪夢としか思えない。




 俺は元Bランクの冒険者、周りの部下もそれなりだった。
 力を合わせればAランクのモンスターであるワイバーンですら倒せただろう。


 ここは出来たばかりのダンジョンの筈だ。
 俺は何かを間違えたのか? いつものように奪って、殺して、犯して、嗤う。
 どこで見誤った?


 この状況。
 何が起きているか、中途半端に力を持ってしまった俺は生き延び、理解する。


 ……あの魔族達に、嵌められた。
 圧倒的に少ないモンスター、罠も何もないダンジョン。


 いざなわれたのだ。


 おかしい、何もかもが通常のダンジョンとは違う。
 人間の性質を理解している。


 人間の世界を知らない魔族が作るダンジョンなんてなんの脅威も無いと思っていた。
 出来たばかりのダンジョンはダンジョンマスターの力を如実に表す。
 なんの変哲もない森林階層、少ないモンスター、若いダンジョンマスター。
 警戒すべきところ何て無かった。


 しかし、このダンジョンは力を偽っていた。




 ……このダンジョンは弱すぎた・・・・
 あいつらは、1体のモンスターにすべてを与えたのだ。




 自分を俺達に育てさせ、能力で劣る人間が生み出した抗うためのすべを看破し、飲み込む。
 俺はこのダンジョンが暗く、深い悪意により生み出された一匹のモンスターにしか思えなかった。




 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい
 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい


 逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ
 逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ






「あぁぁぁああああぁぁぁあぁあああああああ!!」

















 この大広間ではコボルが盗賊達の首を刈り取っていく様子が見える。
 それを食い入るように見ているのはミラだ。


 ミラの初めて見せる感情は狂気、恐れ、喜びそんなものが入り交ざった極めて歪なものだった。




「ミラ、気分が悪かったらあの部屋に行って寝てくると良い」
 この状態を良しと出来るはずが無いので俺の部屋で休むよう促す。




「……いい」
 ミラはそう短く返し再び目をモニターに向ける。
 そしてその惨劇を食い入るように見つめるミラからはやはり狂気を感じた。


「まぁ、それならいいけど」
 心配しての事だったけど、見届けたいのだろう。
 自分を貶めた盗賊達の末路を。




「なぁエンジェル」
 少し手持無沙汰になった俺は、気になっていたことがあったのを思い出しエンジェルに話しかける。
 スライムに話しかけるなんて少し前の俺なら「お前、頭大丈夫か?」なんて言っていただろう。


「キュ、キュキュ?」






「あのさ、エンジェルって……本当にスライムか?」
 こいつは、なんかおかしい
 人型でもないのに、俺たちの言葉を理解し、「キュ!」などと鳴き出す。
 そう、俺の知ってるスライム、というかルナの飼ってるスライム達は鳴かない。




「キューン!」
 飛び跳ねながらスライムは俺の質問に答えてくれる。
 どうやら自分に興味を持ってくれたことを喜んでいるようだ。


「キュ!! キュキュ!」


「ふむふむ」


「キュキュー! キュッ!!」


「なるほどなるほど」


「キュキュ―ン!」


「……何言ってんだかわかんない!!!」
 

「キュキュキュ!!!!!!!」


 エンジェルが カッ! と効果音が鳴りそうな位分かりやすく憤慨しているのが分かる。
 そして俺の元へ突進してくる。


「うおっ!」


 強……! 速… 避…… 無理!!


「――――グホォ!」


 なんて威力だ。
 めっちゃおなかいたい。


「キュキュ!!」
 すごい勝ち誇ってるのが分かるような表情、いや体の動きをしている。




「なに遊んでるの……。あのお頭盗賊、こっちにくるよ?」
 そんなことをしている俺達をルナは呆れたように見てそう言った。
 スライム好きのルナでもTPOを弁えているようだ。


「あぁ、コボルに一人生かしといてって頼んどいた」 
 モニターに目を向けるとお頭盗賊が最下層に降りる階段を降りているところだった。


「そうなんだ」


「試したいことがあってね。一人生かしてほしかったんだ」






「ここは俺に任せてよ」


 そうこうしている間に足音は近づいてくる。
 ふと、ミラを見ると足音が近づくたびにビクッとしているのが分かった。
 モニターから目を離し、釘付けになっている。


「ミラ、部屋に行ってていいぞ?」




――――バァン!
 その時、最下層・大広間への扉が開け放たれる。


「オイ、逃すかよ! ミラ!! てめぇは俺のもんだろうが……。何やってやがる!」


 鼻息を荒くした盗賊はミラへ怒号を浴びせる。


「…………。」
 ミラはアイツが現れた途端に瞳に影を差し、表情を無くす。


「おい! 聞いてんのか?」
 この盗賊は俺たちが居るにも関わらず威圧するように声を荒げる。
 俺達だけであれば勝てるとの算段だろうか。




「……はい……ご主人様」
 ミラは奴隷契約がなされている、こいつには逆らえない。 
 盗賊はこの状況に生きる活路を見出したのかニヤリと笑っている。


 ……屑だなぁ。


「しかし、ミラァ! 良くやった。よし、そいつらぶっ殺せ」
 ミラに俺たちを殺すことなど出来るわけないだろう。
 ミラみたいな少女に俺たちは殺せない。しかし盗賊は確信している、ミラの事を俺たちは攻撃できないと。 


「はい……ご主人様」
 そう言って懐から隠し持っていたのか、ナイフを取り出す。




 ――――冷静、だった。


「へぇ」


 ――――"魔力強化"


「いい子だ、ミラ! そのままそいつを……クォッ!」


 一瞬で間合いを詰めて放った蹴りを盗賊は腕でガードする。
 メキメキと骨の軋む音と共に俺の蹴りを受けた盗賊をガードごと、壁まで弾き出す。


 ミラは強くない。
 別に無視してても構わない。


 ふむ、そしてやっぱり俺はステータスが高い方らしい。
 コボルほどでは無いだろうが、ルナやミラが蹴りだけでガードの上からあそこまで人間を吹っ飛ばせると思えない。




「クッ、ガハッ…… て、てめぇも力を隠してやがったのか!!」


「俺だけじゃないさ、ルナも、コボルも一度も本気なんて出していない」


 盗賊はその言葉に目を見開き驚いている。


 ここは魔王の統べるダンジョン。
 優しい魔王の代わりに裁くのが俺の役目。


 を与えるため、俺は歩を進める。


「あ、お、おい! 来るな! ミラがどうなってもいいのか? アイツは俺に逆らえない」
「ミラァこっちへ来い!!」




「ダメだよ、ミラはルナが抑えてる」
 後ろではルナがミラを組み伏せている。
 ……もう詰みだ。




「ッ! 本当にッ! お前らはあの時、わざと!!」




「あぁ、そうだ」
「――――お前如き、1秒で殺せる」
 そう言って自身の魔力を爆発的に増加させる。
 あの日から、魔法の訓練を怠った事など一度もない。


「ミラッ!! お前! 何とかしろ!! またあの時のような目にあいたいか!!」
 しかしミラは動かない。
 そもそも抵抗すらやめているように見える。


 それを見た盗賊は明らかに恐怖に顔を歪ませている。


「おい、やめろ……やめてくれ……」


 放つは聖属性 上級魔法
 正を持って罰を与える、それはまるで神罰の代行のように。






「……悪かった! もうしねぇ! 真っ当に生きる!! ……だから……!」




「――――"聖伐ハイリゲンビルト・エルンテ"」


「命は奪わないよ? ……まだ・・、ね」


 俺の手から伸びているのは光で出来た1本の紐、その先にはギロチンの刃を模したものが形作られている。
 そして聖伐は、意志を持ったように動き出す。


 飛来する光の刃は盗賊の首を切り落とさんとばかりに迫る。


 「上級……魔法……?」
 盗賊は使用した魔法の位を知り、恐怖に顔を歪ませていた。
 恐怖によるものかダメージか逃げようとする意志はあることが分かるが脚は動いていない。


――――バツン!


「があぁあああああああああああぁあああああああああああ!!!!!」




「あ……あ……」




「あ……」


 そして、盗賊の意識はそぎ落とされる。
 この魔法はを奪い、時間を奪う。罪の重さを世界が計り、意識を奪う。


 この盗賊は数十年、もしくは一生目覚めないかもしれないな。






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