ダンジョンコアになった俺は最強のダンジョンを目指す!
ダンジョン、仕返しする。
翌日
「じゃあ、行ってくるよ」
「私も付いていくから!」
そう言ってダンジョンから出た俺にルナがついてくる。
俺の勝手な決断なのだが、今回に関しては全く諫めもしないのでやはりルナも思うところがあったのだろう。
本来であればを実行に移すのはコボルが最適なんだろう。しかし、コボルにはまだ温存しておかなくてはならない理由があるからな。
あのもう一つの視線。あれがかなり気がかりだ。
こちらを認識はしている筈なのになんのアクションも無い。
今は冷静な思考が出来ている。そのことに少し安堵する。
盗賊のアジトは脅威の度合いと密度で大体わかっているからモンスターには遭遇しないよう、点在する脅威は回避しつつ駆け、目的地へ向かう。
時間が経って頭が冷えたのか、俺は昨日の感情に違和感を感じていた。
――――殺意
日本に居たころの俺は他者が惨い仕打ちを受けたときにここまで簡単に殺すという思考に至ったのだろうか。
…………いや、無いだろう。特殊な環境に適用とした結果?
明らかに異常な思考状態ではあると思う、これから理由はどうであれ人間を殺そうっていうのになにも感じない。
そんな思考の変化に一抹の不安を感じる。
俺は走りながらルナへ問いかける。
「ルナ、ダンジョンコアを取り込むと性格が変わることってあるのか?」
「……私は聞いたことない」
少し間を置いてルナが答えた。
「そうか」
やっぱり知らないか……。
ただ、ルナは何かを考える素振りを見せる、やはり俺の言動に若干の違和感を感じているのだろうか。
自分でも違和感がある位だから周りから見たら顕著なんだろう。
沈黙の中、足を動かしてしばらく森の中を進むと盗賊のアジトらしきものが見えてくる。
近くの茂みに身を隠して近づくとそこは、アジトとは言えないような簡素なテントが複数貼ってあるだけだった。
ここはつい最近までドラゴンがいた森だ。
移動できるような住処なのは当たり前か。
……しかしここまではダンジョンから走って5分ほど、随分と舐められもんだ。
そんなことを考えつつ周りの様子を伺う。
「見張りが2人いるね」
あれは、武器を持った若い盗賊2人がやる気なさそうにしゃべっているのか。
「よし! あいつらをダンジョンに誘き寄せよう」
「俺が行くよ」
これはルナに人殺しは厳しいだろうという判断からだ。
こうして俺は前に出ようとするが、ルナは動きを抑えるようなジェスチャーをすると
ルナは腕を捲り、任せてとでも言うようにガッツポーズをする。
「私、魔王になるんだよ?」
そう言ってルナは茂みから飛び出すと一瞬魔力を大きく纏い魔法を展開する。
そして
――――"ダークランス"
この森は強いモンスターの多い危険地帯、そこを拠点に構える盗賊達もそれなりの練度だ。
そんな雑魚とは言い難い2人の盗賊はルナの姿を視認した瞬間立ち上がり即座に戦闘態勢に入る。
一瞬の事だった。
黒い槍はそれなりの速度で目標に向かって飛んでいくとドスッという音と共に1人の盗賊の腹部に突き刺さる。
相変わらず流れるような魔法発動技術だった。
魔法を覚えてみてわかる、魔法発動までのプロセスの速度。
魔力が少ない分、努力してきたことが伺える。
でも、ルナがこうも簡単に人を殺す決断が出来ると思わなかった。
よく考えると俺が元人間だから違和感を感じているだけでこの世界はそもそも死生観が違うし、根っからの魔族のルナが人間を殺せないなんて勝手な思い込みだったのか知れない。
「ゴホッ……」
腹に大きな穴を開けられた盗賊は口から血を吐いている。
アイツは長くないだろう。
「て、敵襲だ! 魔族が襲ってきやがった! ルッツがやられた!!」
そう言ってもう片方の盗賊が叫びを上げる。
その叫びを聞いたのかモゾモゾとテントの中で動きが見える。
それを見た俺は飛び出して叫んだ盗賊の腹を思いっきり殴ると
蹲っているルッツと呼ばれた盗賊の首元を掴んで全力でダンジョンへ駆け出す。
「ルナ! 逃げるよっ!」
「うんっ!」
「ま、待て!!」
そう言っている間にもドンドンと距離を開けていく。
魔族の身体能力は基本的に人間よりは上だ。
意表を突かれたあいつらはこの盗賊を抱えてる俺にも追いつけないだろう。
「……カヒュー…カヒュー」
まさに瀕死って感じだな。
挑発は足りただろうか、こいつらは全員ダンジョン内で死んでもらわないと困るからな。
◇
ダンジョン内
あれから追手が来ないことを確認した俺とルナは、モニタールームでダンジョンの様子を伺っている。
そのモニターに映っているのは既に事切れたルッツと呼ばれていた盗賊だ。
「あいつら許せねえ! 不意打ちでルッツをやりやがった!」
「あの魔族の女は一生飼い殺して、死ねないようにして生き地獄を味合わせてやる!」
そんなことを怒鳴り散らしているのは先ほど殴りつけた見張りの盗賊だ。
そしてその周りには20人ほどの盗賊達が集まっている、実際に殺された仲間を見た盗賊達は思い思いに激昂していた。
「まぁお前ら落ち着けよ」
「でもお頭! ルッツがやられたんですよ?」
「あぁ? そんなもんあいつらぶっ殺せばお釣りがくるわ」
「……しかしあいつらも馬鹿だなぁ。自分から死期を早めたがるんだから」
そうやって興奮状態である周りを落ち着かせて喋っているのはあの時の盗賊だ。
そしてやはりリーダーだったようだ。
「まんまと引っかかってくれたね」
その様子をモニター上で見ていたルナは不敵に笑う。
その姿は普段の優しい姿ではなく魔王としての威厳を感じさせた。
まぁ、頭にエンジェルを乗せていなければ……だが。
「頭にスライム乗せながら言われても……」
どうしても気になっちゃうよね。
「う、うるさい!」
決め顔で言ってただけあって少し恥ずかしそうだ。
あの不敵な笑みを練習してたのかな。
そんなことを考えてられるくらい落ち着いている。
ルナも俺もコボルもミラも。
思考の中、先ほどの考えを纏めていく。それぞれが人間が死んだことに対して何も感じていない。
よく考えれば、許す許さないって、それが可笑しかったんだ。
魔族と人間。ダンジョンと人間。
殺して当然、相手もそのつもりで来ている。
自分に感じた違和感はダンジョンコアに、魔族になって若干変わってしまった意識の差だったんだな、と自分の中で結論付ける。
「…………。」
盗賊の一人が死んだことも盗賊達がダンジョン内に入ったこともミラは相変わらず虚ろな目でボーっと見ている。
どこか他人事なのだ。自身の精神を守るためなのか、常に何を感じているのか掴めない。
もしくはシャットアウトしているのか。
「ミラ、大丈夫?」
無言を貫いているミラにルナは話しかける。
自分に酷いことをしていた盗賊達がこの中にいるわけだし、多少は何かを感じているかもしれない。
そんな心配からの質問だろう。
「……まぁ」
ミラはモニターから目を離さず、短くそう返す。
「なにか食べたいものとかあったら言ってね」
「……うん」
なんとも味気ない会話だ。
そうしているうちに盗賊達はこちらへ向かって歩き始めていた。
そろそろ迎え撃つ準備をしなくては。
と重い腰をあげようとする。
「……魔王、今度は俺が行きたい」
しばらく留守番だったコボルがこんなことを言い出す。
わからなくもないが、我慢してもらいたいとこではある。
「ダメだ。今まで隠してきたんだから」
俺はそう言って口を挟む。
ルナも悩んでいるようだ。
対、もう一つの視線への切り札なのだ。
「……一人も逃がさなければ見られることも無いだろう?」
コボルは俺が反対することを見越していたのか、言葉を返してくる。
「まぁ、そうだけど」
「確かに、コボルならそれくらい出来そう! じゃあ今回は任せようよ」
うーん、まぁ大丈夫だろうけど、今回は敵が多いからなあ。
「……まぁ、ルナが言うならそれに従うよ」
「任せろ」
短く、それだけ返すコボルの言葉には安心感がある。
……まあ、俺が行くよりは安全か。
こうしてコボルは駆け出す。
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