ダンジョンコアになった俺は最強のダンジョンを目指す!

宇宙 のごみ

新種、登場 続





 下卑た笑いを浮かべたレッドキャップがこちらへと歩を進める。
 その動きはとても緩慢かんまんで、その足音は死を実感させるような音をしていた。






 このままじゃ殺されるか……。


 はぁ、これじゃ休んでもいられないなぁ。
 そんなことを思い、腹部に深々と刺さったナイフを引き抜く。




「――――ヒ―ル」
 患部へ手を当ててそう呟くと淡い光を纏って傷口を癒していく。
 覚えたばかりの光属性初級魔法 "ヒール" それはちょっとした切り傷が塞がる程度の回復魔法だ。
 随分と心もとないがそれでも多少の気休めになる。
 何とか立ち直るとレッドキャップへと向き直り再び相対する。




「ヒヒ……」




 レッドキャップは一歩一歩、踏みしめる。
 まるで鎌を持ち、ゆったりと死をもたらす死神。








 そして俺の目の前から姿を消す。


 いや、消えたように見えるだけか。
 足元の小石が爆ぜ、鋭い痛みが腹部へ突き刺さる。


 既に目では捉えきれない、危険を察知しても身体がついてこない。




「ガハッ……!!」
 ふいに見える足元には大量の血、目前で俺を殺さんとするレッドキャップ。




 血が逆流し口から溢れる。
 いっぱいに広がる鉄の味、そして血のにおい。


 もう限界だ……!もう限界頂点だ……!!


 でも、
 「……こっちは、……倒れてられねえんだよ!!」




 ここまでやられても。
 それでも尚、立ち上がる。


 もう視界が霞んでまともに見えない。
 世界がゆがむ、自分の立っているのかわからない。














「ヒヒッ……。バイバイ」






 こいつは勝利を確信しているのだろう。
 その表情は愉悦ゆえつに満ちている。




 俺は息も絶え絶えだ。
 それにレッドキャップにはまだまだ余裕があるのだろう。








 しかし、それでも勝負のアヤはわからない。










「……。お前、勝ったと思ったか?」








「ヒヒッ……。ヒヒッ!コロス……」










 残念だったなぁ。
――――お前のその場所、危険地帯だ。










 突如後方で膨れ上がるルナの膨大な魔力。
 発動体制に入ったのだろう、とてつもない魔力の奔流ほんりゅう




 それに気づいたのかレッドキャップはルナを見る。






 ルナは自分の全てを振り絞って魔法を発動していた。
 それは、黒の飴玉のような小さい球体だった。








「―――― "オスクリタ・フルスタ" 」


 闇属性上級魔法。
 ルナの手から放たれた球体は真っすぐに一筋の線を引いていく、世界を真っ二つに分けたような錯覚さっかくさえ覚える、そんな軌跡きせきを残して。


 それはまるで、流星のように。
 異質の速度、無音の加速。
 黒の流星は音もなく命を摘み取る。


 それは風を切り裂く音さえ飲み込んで。
 胸を貫く流星、レッドキャップが前のめりで倒れこむ。








 ドサッ




 ルナも魔力が尽きたのだろう、後ろでは倒れていく音がする。
 この状況、今すぐ休めるところへ運んであげたいが俺も限界だ……。


 魔力欠乏でなら死ぬことは無い。




 ルナには悪いがもう、動けそうにないや……。
 俺も……。
 もう、休もう。




 そう考えた時、未だ脅威が去っていないことを感じとる。










――――ヒヒッ


 背筋の凍るような不気味な笑い声。
 ホントにッ、心臓を貫かれて尚……。


 今にも倒れこみそうな身体から力を振り絞り前を見据える。






「……化け物が」




 そしてレッドキャップは胸を押さえながらそれでもわらって、立ち上がる。
 傷口から流れる血液の色は人間とは違う生き物であることを主張するかのようだった。






 レッドキャップは歩を進める。


 怖い。


 こいつから感じる恐れの根幹、狂気。
 心臓を貫かれても、首を折られても起き上がる。






 死なない……!!


 狂気を具現化したような存在。




 そいつは俺の前に立ちふさがると、剣を振りかぶる。


「…………」
 こいつだけは、ダンジョンが崩壊したあとでもルナ達が生きていけるよう、ここで殺すしかない。




 しかし、考えても考えてもこの状況の打開策は見つからない。
 その足音は世界が終わるまでのカウントダウン。






 随分と足音が近づいてきた、衣ズレの音と金属の音。




 そして、レッドキャップが剣を突き立て、俺を殺すための刃が振るわれた。














――――キィン!!
 弾けるような剣閃とともに俺を守るように立ちふさがるのはコボルだ。


「……おい…………やめ……ろ」
 もう声も出ない。
 コボル達も満身創痍だったが多少でも回復したのか……?






「……。ナニヲイッテイル、オマエハアルジだ。ココでシヌノハユルサナイ」


「サアカカッテこい、バケモノ! コノダンジョンデ……スキカッテサセンゾ」




 そう言ってレッドキャップへ飛びかかる。




 レッドキャップの傷は深い。
 満身創痍どころか通常であれば死んでいる。
 おそらくあいつは殺すためだけに魔力で心臓を動かしているのだ。


 しかし、それでも分が悪いのは明らかだった。
 DランクのコボルトとCランクのレッドキャップ。
 明確な能力差がある。




 打ち合いで、明らかに力負けしている。






「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
 コボルが雄たけびをあげる。


 こいつは魔力強化の扱いに於いては俺より長けている。
 いまや力で剣を扱うだけのただのモンスターではない。




 そして息も付かせぬ剣戟の応酬が3分ほど続いただろうか、ついに剣先がレッドキャップの腕を捉え、切り落とす。
 スパンと小気味の良い音と共にレッドキャップの腕が宙を舞う。




 やった……!


 これで勝ちの目が……。






「ヒヒ……」
 腕を切り落とされる寸前、レッドキャップは嗤っていた。




「ッヒヒヒヒ……グヒッ!」
 競り勝ったはずのコボルが後ろへふらつく。
 プレートを付けていたはずの胸部が周辺が血にまみれている。




 な、まさか……あれは……!




「魔法……?」
 剣を持ってる、片腕を犠牲にして……。












 そして、無慈悲な刃が振るわれる。


 仲間が……、死ぬ。
 世界が灰色に変わっていく、とてもゆっくりだ。
 俺の身体までもがゆっくりだ。


 伸ばした手は届かない、脚は……、動かない。












「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 」




 死を連れてくる、死神からは逃げられない。

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