ダンジョンコアになった俺は最強のダンジョンを目指す!
戦闘訓練、始めちゃダメでした。
……時間を忘れすぎた。
俺がそれに気が付いたのはコボルト達が疲弊し、床に伏してからだった。
今考えると途中で「チョッ……マテよ……」とか言ってた気がする。
そう俺は戦いに熱中しすぎたのだ。
正直、こんなに体が自由に動くのは楽しすぎた。
バトル漫画のようにバック転で剣閃を回避出来たら楽しいでしょ。
なんて自分に言い訳をする。
そして実は今、目前には結構な感じで怒っているルナがいる。
そう、今俺は怒られている。
「ねえ、ユーヤ……」
何このトーン、こ、こわい!!
いつも優しいルナから出てる声なの? 同一人物? マジで?
「ハ、はい!!」
思わず声が裏返ってしまった。
「ユーヤってダンジョンコアだよね……ユーヤの胸に付いてるコア、壊れたらユーヤ死んじゃうの分かってるんだよね……?」
そう、俺は胸に付いてるコアが壊れたら死ぬのだ。
ちなみにダンジョンも無くなる。
「わ、わかってます!」
「…………ダンジョンコアになったユーヤのレベル上がらないんだよ? ユーヤがそういったんだよね? 俺はダンジョンとして成長しないとレベルは上がらないって」
俺のレベルはあくまでダンジョンのレベルなのだ。
それをルナに伝えたのも俺、もちろんわかっていた。
ようは特訓しても技術以外はなにも身に付かない、効率が悪いのだ。
時間が無い今の状況じゃ尚更。
「はい……」
わかっていたことなのになぁ……。
こういう特訓が異世界っぽくてつい浮かれてしまった。
「私がアイアンソード出して渡したとき、コボルトの特訓に使うって言ってたよね? 私、ユーヤは危ないことしないで。って言ったよね?」
「つい、楽しくなって……ごめん」
……正直考えが甘えに傾いてた。
考えればそう、俺は弱点が露出してる状態、心臓が飛び出してるようなもんだ。
剣戟の一発でも胸に掠りでもしたらルナの目標が消えるのだ。
その危機管理が足りていなかった。
俺は……。
「……ユーヤは私を魔王にしてくれるんでしょ?」
「…………ユーヤは全部やろうとするけど、そういうことは……魔王になる私が頑張るから、一緒にやろうよ……」
あぁ、ダメだな。
そのルナの悲しげな表情を見てやっと気付く。
女の子にこんな顔させちゃうなんて男失格だ。
とか、そんなこと言えるほどプレイボーイでもないけど。
二度とこんな表情させたくないって思ってしまった。
何を勘違いしてたんだろうな、俺にとっては第二の人生、なんだか簡単に考えすぎてたのかもしれない。
俺はルナを守るためにダンジョンコアであることを受け入れたんだ。
思えばルナはずっと気を使っていたように思う。
多分ルナは仕事の割振にも言いたいことがあったんだと思う。
引け目とか色々考えてたんだと思う。
俺はルナのことを考えてるつもりになって、本人の気持ちを考えていなかった。
「あぁ、ありがとう。あと...ごめん」
「――――俺がルナを魔王にするよ」
俺はこのダンジョンを世界最強のダンジョンにする。
誰にも攻略はさせない。
「……わかればよろしい!」
その時のルナはかわいらしい笑みを浮かべていて、
その笑みは魔王らしくなくて、思わず見とれてしまった。
「アルジ、オチタナ」
「マオウサマ、カワイイデス!」
いつの間に体力を回復したのか雄コボルトがボソッと余計な一言をすかさず放り込む。
一緒に雌コボルトもルナに何か言っている。
「うるせぇよ!」
そういえばコボルト達とも2時間も一緒に特訓してただけあって結構仲良くなった気がする。
結構な軽口もたたきあったりもする。
ちなみに俺はコボルって呼んでたりする。
「ルナ、そこのコボルト今から特訓したいって」
「え? ホントに? じゃあ私と戦おうよ! 私も魔王になる身。剣術身につけたかったんだー」
「エッ……オレソンナコトイッテナ……」
「じゃあルナ、宜しくー。俺はスライムの様子でも見てくるよ」
「マオウサマ、ガンバッテネ」
なんだろう、コボルからは恨めしそうな顔で見られてる気がする。
まあ俺をからかった罰だな。
ほんの冗談のつもりだったけどルナが嬉しそうにしてたしコボルには頑張ってもらおう。
◇
そしてルナが戻ってくる頃は、それからさらに6時間後のことだった。
頑張りすぎでしょ……。
コボルはとてもゲッソリした顔をして森へ戻っていった。
「ルナ、おかえり」
「ただいま、ユーヤ」
先の一件以降、空気がより柔らかくなった気がする。
以前のどこか気を使いあった会話ではない。
「そうだ、あのコボルトどうだった?」
「私の知ってるコボルトより、随分知能が高いような感じがしましたね! あんなにスラスラと話すコボルトは見たことありませんよ!」
「そうだったのか。でも思い返すと確かに最初よりスムーズに会話できるようになってるかもなあ」
「おそらく、これが"成長"の力なんだと思いますよ!本当に飲み込みが早くて、私とは剣術と魔法を教えあったりしてお互いに特訓をしたのですが、コボルトくんはもう魔力を練るところまで成功していました」
「まじか! なんとか開放までに魔法を使えるようになってくれると助かるね」
「任せてください! こう見えて私、魔法を教えるのは上手なんですよ?」
「そうなの? 今度俺にも教えてよ!」
「オッケーです!」
そういってドヤ顔をしているルナを見て笑ってしまう。
「あー、今笑いましたね? ホントに教えるのは上手なんですから!」
なんて、他愛もない話をずっとしている。
今日はいつもより夜更かしをして、
ずっとルナと話していた。
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