ダンジョンコアになった俺は最強のダンジョンを目指す!
ダンジョンコア、始めました
もう目の前が真っ暗になる、掠れていく景色の中、瞳に映るのはドラゴンと先ほどの少女だった。
「大丈夫ですか?」
えっ!?
なんで逃げてないんだ?
そんな風に言葉を投げかけることもできない。
そして俺は瞼を閉じていく。
完全に目の前が真っ暗になる。
あれっ?
いつまでたってもあの時感じた、死の感覚がこない……
恐る恐る、瞼を開けると心配そうな少女と何事もなかったかのような自分の肉体だった。
いつの間にか貫かれた胸の傷は亡くなり何故か光り輝く丸い宝石のようなものが埋まっていた。
それにここは……?
「え?」
「申し訳ございませんっ!!」
第一声で少女は頭を下げて謝罪してくる。
「私はルナ、あなたは私を助けようとして……申し訳ございませんっ! ダンジョンコアにしてしまいました」
再び勢いよく謝罪を行う少女。
この娘、あの時は大変で忙しくて顔が見えなかったがとてもかわいらしい顔立ちをしている。
「あの、状況がわかりません。詳しく教えてもらってもいいですか……?」
◇
「なるほど」
慌てている少女を落ち着かせて話を聞いたところ、驚くべきことが判明した。
まずはこの少女、ルナが人間はなく魔族であること、何故か俺も魔族になっていること。
そしてここがダンジョンコアを俺に埋め込んで作り出したダンジョン内部だということだ。
と、言うことはここの真上にさっきのドラゴンがいるのか?
ダンジョンコアはダンジョンを作る際に必要な秘宝のことで俺の胸に埋まっているこいつだろう。
……と、自分の胸に埋まっている輝く宝石へ目を落とす。
ルナは魔王を目指していてダンジョンを作ろうとしていたところだったらしい。
ダンジョンコアを起動するためには魔力が必要らしく、強力なダンジョンコアを作り出したくて先ほどのドラゴンを取り込もうとしたところ反撃に合っていた、ということだ。
「えーっと俺をダンジョンコアにしてしまったみたいだけど大丈夫なの?」
「あなたは私の命の恩人です!巻き込んでしまって申し訳ございませんでした……」
明らかに雰囲気とは違うこと考えていることはわかっているが伏目がちに謝るルナは正直可愛かった。
肩に掛かるくらいの赤髪、灼熱のように輝く赤の瞳は心の闘志を表しているようで、その謙虚な態度とちぐはぐな姿がおかしかった。
「いやいや、俺は大丈夫だよ」
一度死んでいる俺はこの世界はおまけのようなものだしな。
ここまで謝っている少女相手に怒る気にもなれなかったし、そもそも魔族もダンジョンコアも人間もそんなに違いを感じない。
むしろ調子がいいくらいだ。
とりあえずこの状態になってから気になっていた質問をしてみる。
「そういえば、ダンジョンコアに取り込むって言ってたよね? 俺は自我があって喋れてるんだけどこういう状態になるならダンジョンコアを取り込むって言い方をすると思うんだけどこういうものなの?」
こちらから話しかけたことで少しハッとしたような表情を見せつつ、ルナは今の状態について説明してくれる。
「はい、それはですね。ダンジョンコア起動方法のせいです。ダンジョンコアは魔力で起動するのです。そしてそれが物質であれば取り込み、生物であれば取り込まれます。」
つまり今回は俺が生きてる状態で取り込んだからこんな結果になったのか。
「へーそういうものなのか。じゃあ君は俺の命の恩人だな」
「違いますよ……私のせいであなたは命は無くなってしまったのです」
「……貴方の人生はダンジョンに縛られることになってしまうんです。」
「俺は自分の意志で君を助けたんだ。それに君は自分にコアを使って今のように逃げることもできたんだろ? 大事なダンジョンコアを使って助けてくれたんだ。これは俺の責任、まったく気にしていないさ」
ルナは驚いたような表情をしているが、これに関しては俺が一度死んでいるからこそ言える意見であるし、理解できないのは当たり前な話だ。
「2つ質問があるんだけど聞いていい?」
「は、はい。大丈夫です!」
「さっき話に出したとき気になって、なんで自分で取り込まなかったの?」
そういうと伏目がちになり、恥ずかしそうにルナが言う。
「私は魔力が少ないので……魔力を多く含むモノで起動した方が特典を得られるんです。おかしいですよね、私の魔力は魔族の中でもかなり少なくて……。上級魔法1発でも使うと結構ギリギリなんです。」
「なるほどねー」
「もう一つ、ルナ……さんはあのドラゴンを死体にしようとしてたの?」
「ルナでいいですよ、私は魔力が普通の魔族より少ないのでより強力な魔力を持つドラゴンを取り込まないと魔王になれないと考えました。恥ずかしながら夜襲を仕掛けたんです」
「そういうことかー」
「……おかしいとは思わないのですか?」
「なにが?」
「魔力が少ないからドラゴンを倒そうとした……なんて」
「いや、俺も魔力なんてないからね」
「……? 貴方からは少なからぬ魔力を感じますよ?」
えっ、俺に魔力あったの?
異世界転移したときに付けてくれたのかな。
よく考えたら必死で頭回ってなかったけど、身体能力が上がってると感じた覚えがある。
「ふむ……」
つまり、俺には魔力があってドラゴンの攻撃を回避できるような身体能力が身についている?
状況を整理をしているとルナは意を決したように問いかける。
「これから……どうしますか?」
どうするってここはダンジョンの中か、出口は……出来てないな。
ダンジョンコアになったことで意識してみると自身の置かれている状況がよく理解できた。
「現状ここはダンジョンの中で先ほどいた地上の真下です。準備期間で力を蓄えなくてはいけないため1月はここから出ることが出来ませんが、それが終わったら、私はここから出ていくつもりです……」
随分と思い詰めた表情をしている、巻き込んで死なせてしまった。
とでも考えているのだろうか
俺は気にしていないと言ったんだけどな。
魔王になりたい少女とは思えないくらい優しい娘だ。
なんとなく。
この娘を守りたいと思った。
思えば既に、惹かれ始めていたのかもしれない。
そして口を付いて出てきたのはこんな言葉だった。
「魔王になるんじゃないの?」
――――俺はあの時、確かに何かを守りたかった。守りたいと、思った。行動できた。
「でも、私は……あなたを巻き込んで死なせてしまいました」
「……魔王になるのは諦めていいことなのか? 魔王になるためにドラゴンを倒そうとまでしたんだろ?」
―――― この世界で、こんな形でも守れるなら。
「ここにいても……いいのですか……?」
―――― 一緒に進んでいきたいと思った。
「魔王はそんなこと気にしなくていいんだよ。俺は白凪裕也、宜しく」
そういって手を差し出すと安心したのだろう。
ため込んでいた感情を吐き出すように、ルナは手を取り、言葉噛み締めるように。
そして、涙を零して言った。
「っはい……ありがとうっ……ございますっ!」
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