わたしのおねぇちゃんはエルフでした

うほごり

わたしのおねぇちゃんはエルフでした

「うぐっ…………ぐすっ…………ひっく……!」
「よしよーし、泣かないで〜」


 あれは、まだ世界が戦争をしていた頃。
 当時10歳の私は故郷の森近くまで迫っていた戦線から逃げ出すために、遠く離れた疎開地に向かっていた。
 お母さんに手を繋がれ、エルフの仲間達と荒野を歩き、大河を渡り、草原を駆け抜ける。
 森をたって2週間ほど。目的地である疎開の森まであと少しといった所で、私達は戦火でボロボロとなった人間の村へ立ち寄っていた。
 そこで私は1人の少女と出会った。
 基本的に金髪である私達エルフとは異なる、夜のように真っ黒な髪をした4歳程度の人間の少女。
 母親と思わしき死体の側で、ただただ泣きじゃくる。
 私はその少女がとても哀れで、そして可哀想に感じた。自分よりも幼い少女が母親と死に別れて、悲しそうに泣いているその姿を見て、放っては置けなくなってしまった。
 だから私はその少女が泣き止むまで側にいた。髪を撫で、優しく包み込むようにハグする。
 少女からしたら見ず知らずの、しかも異種族にそんなことされてきっと戸惑ったと思う。でも、あの頃の私はそんな事に気付かずに、「大丈夫、大丈夫」と無責任な言葉を投げかけていた。
 それでも、その少女は次第に泣き止み始め、ポツポツと言葉を話し始めた。


「お、おかあさまぁ…………ぐすっ……」


 やっぱり、その死体は少女の母親だったみたいだ。
 こんなに小さな子を親と引き離すなんて戦争はやっぱりひどい。


「よしよーし。私がいる。大丈夫」
「……ぐすっ……おね、ぇちゃん……だぁれ?」
「私はリィラ。エルフだよ。あなたの名前は?」
「……ケイ」


 珍しい名前だなっとその時の私は思った。
 エルフの中ではあまり見られないから人間特有の名前だと思う。


「ケイちゃんは、行く当てある? お父さんとか」
「………おとうさまは……せんそーにいったっておかあさまが」
「そっか」


 この時期は戦争末期。人間は男なら歳に関わらず戦場へと駆り立てられると聞いていた。生きてるのかもわからない父親を待っている余裕なんてケイちゃんにはない。だから――


「……よかったら、私と一緒に来る?」


 こんな小さな少女を放っておくなんて私には出来なかった。お母さんに頼み込めば子供1人くらいなら一緒に連れて行ってくれる……そんな根拠のない自信を持っていた。


「………………」


 ケイちゃんは母親の方を見る。涙で真っ赤に染まった顔を手で拭う。それはまるで決別するかのように。4歳で本当の親と死に別れてしたケイちゃんのこの時の気持ちは私にはわからない。でも、きっとケイちゃんはこの頃から強かったのだと思う。私ならこんなに早く決断なんてできなかった。


「……うん、……ついてく……リィラおねぇちゃんに」


 私の手をギュッと握り、私を見上げてケイちゃんはそう言った。そんなケイちゃんの真っ直ぐな眼から私は眼がそらせなかった。




 それから私はお母さんにケイちゃんを一緒に連れて行って欲しいとお願いしに言った。
 ケイちゃんは異種族。同盟関係の人間とは言え無関係の少女を疎開地に連れて行っていいか大議論になった。私も子供ながら必死に説得しようと……泣いておねだりした。
 どうにかこうにかケイちゃんと一緒に疎開地に行けることになって、ケイちゃんはエルフの仲間達に迎えられた。
 ケイちゃんは人見知りするのか、疎開地に着くまでずっと私の側を離れなかった。寝るときも水浴びのときもご飯のときも一緒。
 疎開地に着く頃には、ケイちゃんと私の仲はグッと深まっていた。




   ■■■




 ――ケイちゃんと出会って1年が経った。
 ケイちゃんはすっかりエルフの生活に慣れ、私と一緒にお母さんのお仕事のお手伝いをしたり、先生に魔法や弓術を習う。
 エルフと違って人間のケイちゃんはあんまり魔法も弓術も得意じゃないみたい。でも、私の真似をするその姿は可愛い。もうケイちゃんは本当の妹のようなものになっていた?


「おねぇちゃん、おかあさんがおふろにはいれ、だって」


 自室で寝転んで本を読んでいた私を、ケイちゃんがお風呂に誘ってきた。にひひっ、ケイちゃんはまだ1人じゃお風呂に入れないのです。だから私が一緒に入ってあげるのです。ケイちゃんかわいい。


「ケイちゃん、お風呂に持って行くおもちゃは1個だからね」
「わたしはおもちゃもっていかないよ。いつもおもちゃをもちこんでるのはおねぇちゃん」
「私はケイちゃんが遊ぶかなぁと思ってですね」
「あそばないもん」


 そっかー、と呟きながら私は木でできたおもちゃを手に持つ。防水魔法がかけられてあってお風呂で使っても腐食しないおもちゃだ。
 ケイちゃんの眼が、私の手のおもちゃを追いかける。やっぱり遊びたいじゃない。かわいい。


「このおもちゃでいい?」
「うn…………、あそばないからね!」
「はいはーい。じゃお風呂行こっか」


 私はケイちゃんの手を握って、一緒にお風呂場に向かう。ケイちゃんは私と手を繋ぐの大好きらしい。すきあらば手を握って来る。だから私は先回りしてケイちゃんの手を握ってそれを防ぐ。お姉ちゃんの先を行こうなんて100年早い。


 お風呂で私はケイちゃんの髪を洗う。
 ケイちゃんの綺麗な黒髪を水で洗った後に、櫛を使いながら香油で洗う。エルフが作るこの香油は汚れを落としつつ髪にいい匂いを付ける、女の子の必需品です。


「ケイちゃん、けっこう髪伸びたよね」


 拾った頃は肩に触れるくらいだったケイちゃんの黒髪は、背中くらいまで伸びていた。


「おねぇちゃんと、おなじくらいまでのばしたい」
「それは……まだまだ伸ばさなくちゃね」


 私の髪は腰よりも長く伸びている。エルフの女の子は長髪を好む傾向があって、私もその例にもれない。
 正直長い髪って洗うの大変だからめんどくさいのよね。


「おねぇちゃん、こうたい」


 ケイちゃんの髪を洗い終えると、今度は私の後ろにケイちゃんが来た。
 ケイちゃんに香油を渡して、私はケイちゃんに背中を向ける。


「〜〜♪ 〜〜♪」


 ケイちゃんは鼻歌を鳴らして、私の髪を洗っていく。ケイちゃんと出会うまでは私は自分で髪を洗っていた。ケイちゃんと出会ってからも最初はそうしてたんだけど、いつの日かケイちゃんが私の髪を洗いたいって言い始めて、こうして髪を洗うのを任せることにした。


「ケイちゃん、髪洗うの上手くなったね」
「うん! おねぇちゃんのかみあらうのたのしい」


 好きこそモノの上手なれ、だね。……ってことはアレだね。ケイちゃんが私の事好きって事だよね。いやー、モテモテだね。


 ケイちゃんに髪を洗ってもらい、私はケイちゃんと一緒に湯船に浸かる。
 そしてケイちゃんを膝の上に乗せて、抱き寄せる。ケイちゃんは私が持ってきたおもちゃで遊んでいる。やっぱり遊ぶんだね、かわいい。
 そう言えば、ケイちゃんの耳って丸いんだね。エルフの尖った耳とは違うね。
 モミモミとその耳を触る。プニプニしてる。


「んんっ、おねえちゃんくすぐったい」
「にゃは〜、ケイちゃんはここが弱いのかぁ〜。それそれ〜」


 この後めちゃくちゃ拗ねられた。








 私達の住む森は、夜は異様なほど静かな時間が流れる。虫の鳴き声も鳥の囁きも風の音も、何一つ聞こえる事はない。これはこの森を結界が包んでいるからだ。不可視不可知不可侵の最高レベルの結界魔法だ。


「おねえちゃん、いっしょにねよ?」


 ケイちゃんがお気に入りのぬいぐるみを胸に抱えて、首をコテっと傾ける。殺人級の可愛さである。


「にゃはは〜、ケイちゃんもそろそろ1人でおねんね出来るようにならないとね〜」


 一応そう言ってみる。
 まぁ、ケイちゃんの答えは知っている。


「まだ……いい。おねえちゃんといっしょがいい」


 うん、かわいい。ケイちゃんは私と一緒じゃないと夜寝る事が出来ないのだ。この時だけはめちゃくちゃ素直に甘えてくる。


「そっか〜、じゃ〜しょうがないなぁ」


 ケイちゃんが私といっしょに寝たいって言ってるんだからね。しょうがないね。うんうん。


「ほーら、どうぞ〜」


 私がお布団を開けて、ケイちゃんの入る隙間を開ける。ケイちゃんは猫のように潜り込んできた。温かい。ケイちゃん体温高くて気持ちいい。
 お布団に潜り込んだケイちゃんは、私の方を向くとギュッと抱き枕のように抱きついてきた。顔を私の胸に擦り付けてくる。はぅぅ〜……っ!


「おねぇちゃん……」
「ん、なーに?」
「わたしをひろってくれてありがとう。だいすき!」


 ……ふむ、デレ期か。いや、元々デレデレか。
 愛い奴め!


「私もケイちゃんの事大好きだよ〜。ほれ〜、耳モミモミ〜」
「キャハハッ!!」


 静かな夜の森に仲の良い姉妹の笑い声だけが響く。
 そして数分後、疲れてしまったのか、次第に仲良くかわいい寝息を立て始め、夢の中へと落ちていった。




   ■■■




 エルフという種族は長命である。
 そして同時に成長の遅い種族でもある。
 生まれてから10歳程度までは他の種族の様に普通に成長するが、そこからの成長速度はガクッと落ちる。
 私がケイちゃんに背を抜かれたのは私が16歳、ケイちゃんが11歳の時。それはちょうど、外の世界で戦争が終わったという知らせを受けた時期だった。


「お姉様お姉様、ちゃんと見ててくださいね」


 そう言ってケイちゃんは矢を射る。
 その矢は綺麗な弧を描き、遥か先にあるマトの中心を射抜いた。
 下手っぴだったケイちゃんの弓術は、背を抜くと同時に私を軽く超えて村一番の腕前になっていた。


「やった! どうでしょうか、お姉様」


 私と同じくらいまで伸びた黒髪を翻し、ケイちゃんは私の側まで駆け寄ってくる。褒めて褒めて、という心の声が聞こえてくる。取り敢えず撫でておく。撫で回しておく。


「にゃはは、ケイちゃんすごいすごい。もう弓術じゃ敵わないかな」
「えへへ……。でもまだ魔法はお姉様には全然及びません……」


 魔法まで抜かれたら姉の威厳が無くなってしまいます。育つな育つな。ついでに胸も育つな。
 ケイちゃんは成長期のようで、背も胸もぐんぐん育っていきます。これではどっちが姉か分かりません。
 そしてケイちゃんが成長するにつれて、私はケイちゃんとの種族差を痛感します。ケイちゃんはもしかしたら人間の世界に戻りたいのじゃないか……、そう思わずにはいられません。


「ん、お姉様どうかしましたか?」


 いつのまにかケイちゃんを撫でる手が止まって、考え事に耽っていた私を見てケイちゃんがそう尋ねる。


「何でもないよ。そろそろ帰ろっか……」
「うん、汗かいちゃったしお風呂入りたい」
「ケイちゃんお風呂大好きだよね」
「お姉様、今日も髪洗ってください」
「はいはい」


 ケイちゃんは私と手を繋ぎ身体を寄せてくる。身体は成長しても心はまだまだ子供。あまえんぼうなんだから。


 私たちが家に帰り着くと、リビングにお母さんと長老が座っていた。真面目なその雰囲気に私たちも気を張り詰める。
 向かい側に私とケイちゃんが座るの、お母さんは口を開いた。
 曰く、戦争が終わったのでケイちゃんを人間の世界に返すべきだ。元々ケイちゃんを拾った時に、長老達はそう決めていたそうだ。
 私は下を向いたまま何も声にできませんでした。こんなにも早くケイちゃんと別れることになるなんて……。


「………………イヤ、です」


 隣に座っていたケイちゃんがボソッとそう呟いた。それは明確な拒否。


「イヤイヤイヤイヤ……」


 まるで駄々をこねる子供のようにイヤと連呼するケイちゃん。初めて会った時のようにポロポロと涙を流している。


「……わたしはお姉様と離れたくない」


 私だってケイちゃんと離れたくない。ずっと一緒に居たい。でも、私とケイちゃんはエルフと人間。いつかは離れなくてはいけない。


 ――でも、今は嫌だ。


「お母さん、長老様。ケイちゃんはまだ11歳です。ケイちゃんの能力では1人で生きていくのは困難だと思います」


 そんな事はない。ケイちゃんの実力は私が一番知っている。エルフの森でこの6年ケイちゃんが学んだ魔法や弓術は外の世界でも重宝されるもの。生活に困る事はない。
 でも心は……、ケイちゃんの精神はまだまだ子供。戦争が終わった直後の荒れた世界をケイちゃんが平気で生きていけるわけない。


「お願い。ケイちゃんが大人になるまでここに居させて!」


 私の必死の説得を聞いたお母さんと長老は「わかった」とだけ言って、リビングを出て行った。多分長老会の議題にかけるのだろう。ケイちゃんを森に残す事は長老の一存では決められないのだと思う。


「お姉様……」
「ゴメンねケイちゃん」
「どうしてお姉様が謝るのですか? わたしはお姉様がお母さん達を説得してくれたことをとても嬉しく思ってます」
「人間の成人は15歳から……。長くてもケイちゃんとはあと4年しか一緒にいられない。わたしはケイちゃんとずっと一緒にいたいよ……」


 エルフと人間。ずっと一緒に生きる事は出来ない。遅かれ早かれ別れは来る。私がケイちゃんとずっとに一緒にいたいという願いは叶うことはない。


「4年しか・・じゃない、4年だよお姉様」


 4年……も?
 どういう意味だろうと、私はケイちゃんの方に顔を向けると。
 目と鼻のすぐそばまでケイちゃんの顔が近づいていた。涙で赤く腫れた目元。それでも、もう涙は流してはいなかった。


「4年もあれば、わたしはもっと強くなれる。そして、わたしがここを離れなければならなくなる時までに、わたしはここに必要不可欠な存在になってみせる。誰もわたしをこの里から手放したくなるなるくらいの存在に」


 ケイちゃんの瞳に確かに宿る決意の炎。
 ジッと私の眼を見て、そう言い放ったケイちゃんの想い。
 熱い……。


「でも、ケイちゃん。エルフは自分達の『利益』より『しきたり』や『ルール』を重んじる種族よ。ケイちゃんがエルフの里に必要な存在になったとしても、私たちは『ルール』によって、きっとあなたを外の世界に追いやるわ」
「……うん、知ってますわ」


 悲しそうな顔でケイちゃんは、私に寄りかかって身体を預ける。暖かい。この子は大きくなっても体温は暖かいままなのね。
 トクン、トクン。
 私とケイちゃんの心臓の音だけが聞こえる時間が流れる。
 その時間を打ち破ったのはケイちゃん。


「――まぁその時は、お姉様を攫いますわ」


 ……。
 …………。
 …………聞き間違いかしら。


「えっ、今なん――」
「お姉様を攫いますわ。……ダメ、ですか?」


 私の返答に被せるように答えるケイちゃん。
 つまり自分が『ルール』で里を出ていかなければならず、私と別れるならば。逆に私の方を里の外に連れていけばいい。
 めちゃくちゃだけど――ケイちゃんは本気なんだろうなぁ。


「ニャハハ、ケイちゃんは私に里抜けをさせるの?」
「ええ。わたしがお姉様の面倒をずっと見ますわ。死ぬまでずっと……。だから――攫ってもいいですか?」


 不安と希望が入り混じる瞳。
 ここで私が拒絶してもケイちゃんの事だから表面上は平気なふりをするんだろうなぁ。
 ……私もケイちゃんと一緒にいたい。でも、里抜けをする覚悟は今はない。
 どうしよう……。
 私が悩んでいると、ケイちゃんが口を開く。


「……ごめんなさい、お姉様。困らせてしまいましたね」
「こっちこそ即答できなくてごめん」
「お姉様は優しいです。里も私の事も大切な思ってくださる。だから今すぐに答えは求めません」


 ケイちゃんは私の胸元から離れると、クルッと回って笑顔を私に向けた。


「――4年後、もう一度聞きますね」


 その笑顔に不覚にもドキッとしてしまったのは、墓まで持っていく私の秘密だ。




   ■■■




 カラカラと音を立てて馬車が道を進む。
 その客車に私はケイちゃんに抱かれて・・・・座っている。


「えへへ〜、お姉様〜」


 ケイちゃんは両手で私を抱きしめながら、頭を撫でる。昔とは立場が逆転しまった。
 それもそのはず、15歳になったケイちゃんは私よりも頭一つ身長が高い。私がお姉ちゃんなのに……。


「はい、お姉様。あ〜ん」


 ケイちゃんはパンを一口サイズにちぎると、私の口元に近づけてきた。……これを食べろと。羞恥プレイかな。
 馬車の客車には私達以外にも、何人か人がいるのに。見られてる見られてる。
 多分私の事は姉に甘える妹とでも思われているのかしら。私がお姉ちゃんなのに。


「はむっ。…………もう食べないから」
「えぇ〜、まだ一口ですよ〜」


 私とケイちゃんはエルフの里を抜けた。
 ケイちゃんはこの4年で、里で一番の実力者となった。でも予想通りエルフの里はケイちゃんを外の世界に戻す事は変えなかった。だから、ケイちゃんは4年前のあの約束通り私を攫って一緒に外の世界に連れて行ったのだ。


「お姉様がわたしを選んでくれて嬉しかったです」
「私はもう後悔しそう。と言うか、なんで私を妹扱いするのよ!」
「だってお姉様が小ちゃくて可愛いから」
「むむむっ、私だってあと50年すれば追いつくもん」
「その頃にはわたしはお婆ちゃんですね〜」


 プニプニと私の耳を触ってくる。仕返しか! 昔の仕返しか!
 こうなったら私も触ってやる。
 ケイちゃんの膝の上で、グルっと回ってケイちゃんと向かい合わせになる。
 ほれプニプニ〜。


「キャハハッ、やめてくださいお姉様〜」
「ニャハハ、まだまだケイちゃんには負けないよ〜」


 日が暮れる頃、私達は人間の町に着いた。
 比較的小さな町だけど、屋台や出店などが立ち並び活気に溢れている。


「そう言えばケイちゃん。私の面倒を見てくれるって言ってたけど、お金はどうするの?」


 ケイちゃんの実力なら正直いくらでもお金を稼ぐ方法がある。エルフの魔法と弓術を完璧に身につけた人間なんて、冒険者としては引く手数多だろう。でも、冒険者なんて危険な事は私はさせたくない。ケイちゃんにそんなことさせるくらいなら、私だって一緒に働くつもりだ。


「実はもう学校の先生として雇ってもらう事になっていますの」
「えっ、いつの間に」
「この4年間わたしは遊んでいたわけではありませんわ。それなりに色々やってきましたの。だからお姉様は安心してわたしのヒモになってくださいね」


 ニャハハ、何この子。
 凄すぎて開いた口が塞がらない。


「さっ、お姉様。宿に行きましょう」
「ん、まだ早くない?」
「大丈夫ですわ、わたしがリードしますから」
「話聞いてる!?」


 ケイちゃんの手にひかれてわたしは宿に連れ込まれた。昔はわたしがケイちゃんの手を引っ張っていたのになぁ、なんて感傷に浸りながら。




 私とケイちゃんはエルフと人間。
 多分これから何度も困難にぶつかる事はあると思うし、種族の差による別れもいつかはあると思う。
 でも、今は――ケイちゃんと一緒に生きていけることを精一杯楽しもうと思う。
 ケイちゃんと一緒ならどんな事だって幸せだから。




「お、お姉様。わたしが服を脱がせてあげます」
「け、ケイちゃん!?」




 ……たぶん。



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