ロリドワーフ・ハイドワーク〜TS転生して地世界生活〜

うほごり

第4話「先輩からの言葉」

 コツンコツンと靴音が響く。
 ドワーフの村の最奥、指導者の住む屋敷よりさらに大きな神殿。丁寧な細工が所狭しに施されている。


「ここは初代指導者様が造られた神殿になります。基本的には祭事などのイベントを除いて使われることはありません。そして……」


 マレラが先導してボクを案内してくれる。
 ゴドルは神殿の正面で待機だ。どうやら神殿は祭事を除いては男は進入禁止らしい。男女不平等だね。


「ここは私達ドワーフの国宝が安置されている宝物庫になります」


 マレラとボクは扉の前で立ち止まる。
 石の扉……いや金属?
 初代指導者の石像と同じ漆黒の物質で出来ている扉だ。黒曜石が近いかもしれない。
 ここまでの道のりとは違い、飾り気は一切ない。しかしその表面は滑らかで丁寧に仕上げられていることがわかる。
 しかし……。


「鍵穴どころか取っ手すらない。どうやって開けるんだこれ」


 グググっと押してみるがビクともしない。押してダメなら引いてみろって……、取っ手がないから無理だな。


「これどうやって開けるの?」
「この扉は魔鋼石が使われています。ですから、魔力を持つ私達女性なら開けることが出来ます」


 マレラが扉に触れる。
 扉に複雑な刻印が浮かび上がる。緑色に光る刻印がトクントクンと鼓動するように明滅する。
 不意で気づくのが遅れたが今『魔力』と……。


「魔力!? マレラは魔法が使えるの?」
「いえ、使えませんよ」


 あれ、使えないの?
 てっきり『魔力』を持ってるって言ってたから使えるもんばかりと。


「私達ドワーフの女性は生まれつき魔力を持っています。それを魔鋼石に注ぐことで、このように動かす事が出来るだけです……今は」
「……今は?」
「現在新たな魔鋼石が採取出来ないので、新しい『依代』を作る事が出来ないのです。私達が魔法を行使するには『依代』が必要になってくるのですが、その素材が手に入らない……だから今は私達は魔法は使うことはできません。今できるのはこのように既に造られた『依代』を動かす事だけです」


 例えるなら魔法を使うには『依代』……つまり『杖』に当たるものが必要で、そのための素材が今は取れないから魔法が使えない。そんなところか。


「それなら目の前のこの扉を壊したりして再利用出来ないの?」
「……もう一つ問題点がありまして、魔鋼石を加工するには熔鉱炉が必要なのです。その熔鉱炉にも今は私達は行く事が出来ません」
「マジかよ、なんでそんな現状に……」
「『邪鬼』です。熔鉱炉、採掘場、この二箇所に地上から侵入してきた『邪鬼』が巣食っています。この『邪鬼』を追い払わないと私達は新しい『依代』を作る事が出来ないのです」


 なるほど。つまりこれが……。


「ドワーフの抱えてる問題な訳だ」
「その通りです。私達が最も至急に解決しなければならない問題がこの二つです」


 『邪鬼』って奴がどんな奴かは知らないけれど、ゴドル達筋肉ムキムキマン達が倒す事が出来てないってことはそれだけ恐ろしいってことか。……無理じゃね。ボクにどうしろと。


「と、とりあえず中に入ろうぜ」
「そうですね。ではでは救世主様どうぞ。ここが宝物庫ですよ」


 マレラに続いて宝物庫に足を運ぶ。
 宝物庫の中は乱雑に散らかっていた。短剣、槍、盾、兜……などのような武器関係から鏡や黒い水晶玉などの祭事道具。あとは……


「書物か」


 糸で紙束が閉じられただけの書物。中は手書きなので印刷技術はなかったらしい。書かれている文字は明らかに英語でも日本語でもない。もちろん読めな……読めるぞ。
 知らない文字なのに頭に内容が勝手に入ってくる。これは歴史書のようだ。


「言語チートくらいは貰っていたみたいだな。ありがたい」
「救世主様、国宝はこの奥です」


 マレラの指し示す方向。
 石の棺……いや、宝箱。宝物庫の扉のような黒光りした石で作られている。たぶんこれも魔鋼石なのだろう。


「では、開けますね」


 マレラが手をかざす。刻印が浮かび上がり、カチリという音と共に蓋が外れた。マレラは中に手を伸ばして国宝を取り出す。


「救世主様、これが国宝です」
「王冠?」


 西洋の王冠のような物が現れた。日本に住んでて実際に見るものでは無いので、珍しげにボクはそれを受け取る。
 ボクの手が王冠に触れた瞬間、王冠が小さく輝きだした。えっ、なにこれ。
 王冠はグニャグニャと形を変え小さくなっていく。そして……。


「これはティアラ……だったかな」


 半円を描く王冠。三日月のようなその形は確かにティアラだった。というかなんで形が変わったの? ボクが女の子だったから?


「救世主様、これは『てぃあら』というものなのですか?」
「うん、そうだね。もしかしてマレラってティアラを知らない?」
「はい。それと先程救世主様の言われた『おうかん』も初めて聞きました」
「……王冠やティアラは偉い人が頭に被るもの……なんだけど。ドワーフの偉い人……は……何もつけてなかったね」


 ギレンを思い出す。特に何もつけてなかった。それと初代指導者の石像にも特にそんな細工はされてなかった。
 ドワーフには王冠という文化は無いのか。……となると、これを残した初代指導者は一体何を考えてこれを作ったんだ?


「考えても分からないか。とりあえず付けてみるか」


 ティアラを自分の頭に乗せてみる。
 ふむ、特に何も感じな…………!?


 次の瞬間ボクは闇に落ちていた。




   ■■■




 そこは白い空間だった。どこまでも広がるように見えて実は狭いのかもしれない。距離感覚が全く掴めない。ただどこまでも続くように見える白い景色。


「よぉ、救世主様」


 不意に背中から話しかけられて、ボクは急いで振り向く。
 そこには、上半身裸のドワーフの男がいた。相変わらずの筋肉だ。何となくゴドルに似てる気もしないでも無い。いや、むしろ指導者のギレンか。


「どうだ、こっちの世界は・・・・・・・・


 こっちの世界?
 どういう事だ。なぜこの男は他にも世界があることを知っている。そもそもこの男は誰だ。


「そんな訝しげな目で見るなって。同じ世界出身だろ? 仲良くしようぜ」
「お前も転生者なのか」
「そうだ。因みにオレはイギリス出身なんだが、お前は何処?」
「日本」
「わーお、お前ジャパニーズか。日本は何度も行ったことあるぜ。スシ、ニンジャ、サムライだろ?」


 なんてステレオタイプな外国人なんだろう。まぁ、ボクもイギリスと言えば飯がマズイって事しか知らないけど。


「いいねぇ。久し振りにあの世界の人間と喋るのは楽しいよ。じゃあ自己紹介しようか。オレの名はエドワード。お前にどう伝わってるかは知らねーが……『初代指導者』だ」


 何となくそんな気はしていたが、やはりか。あの石像とはあまり似ていなかったから確信はしてはいなかったが。


「ボクはヒカル。一応救世主って事にされてる」
「はははっ、まだ実感はないか。でも安心しろ。この空間に来れたってことはれっきとした救世主だ」
「ここは一体何処なんだ。あのティアラが関係しているのか?」
「ティアラ……? あぁ、『叡智の王冠』か。なるほど、お前が女の子だからティアラになったわけか。オレは死ぬ前にそのティアラに自分の魂の一部を封印したんだ。こうやって救世主と会話するためにな」


 だから国宝か。初代指導者からの時代を超えた手紙ってところか。こうしてボクにこの男の魂を届けるために連綿と受け継がれてきたのだ。


「単刀直入に聞きたいけど、救世主って何? ボクは普通の高校生だ。何もできやしない」
「オレも全てを知ってるわけじゃない。ただオレとお前は本質的には同じだ。謂わばドワーフが絶滅しないようにこの星が用意した救済システムだ」
「救済システム?」
「この星は生きている。自然的な意味ではない。本当に意思がある。何故ならオレは星に会ったことがあるからな」
「………………」
「やめろその痛い人間を見るような目は」


 いやだってな。星が生きているとか、星に会ったことあるとか。ナニイッテンダ。


「とりあえず聞け。この世界には四つ種族がいて、その全ては星にとって我が子同然の存在らしい。もちろんオレ達のドワーブその種族の一つで、それが絶滅しようとした時があった。それがオレが転生した時だ」
「『邪鬼』に国を追われたって聞いた」
「あぁ、そうだ。奴らはこの世界のバグだ。星にとっても想定外の存在らしい。エルフ、ハーピィ、ドラゴニス……他の種族も生活の場を奪われたらしいが、その後どうなったからオレは知らない」


 エルフ……は森の妖精だったかな。ハーピィは空を飛ぶ鳥人間。ドラゴニス……は語感的にドラゴン人間……かトカゲかな。


「さっきの話に戻るが、オレは星に会った」
「…………ツヅケテ」
「本当だからな!? とにかくだ。オレは星の意思のような者にあって少しだけ話をしたんだ。その時に聞いたのが救済システムだ」
「なるほど。つまりその救済システムってのが救世主って事か」
「そうだ。救世主ってのはオレが名付けただけだがな。この星の四種族が絶滅の危機に迫った時に他の世界から助けを呼ぶシステム、それが救済システムだ。オレも、そしてお前も救済システムによってここに転生させられたんだ」


 つまりドワーフ以外の種族にも転生者がいる可能性があるのか。……どうせなら森の妖精に転生したかった。


「オレが死んでから何年経ったかは知らんが、お前が現れたってことはドワーフはまた絶滅の危機に陥ってるってことだ。まぁ、めんどくさいかもしれん。元々人間であるお前にドワーフって種族は中々受け入れられないかもしれない。でも……アイツらを助けてやってくれないか。先輩からの頼みだ」
「一応出来ることはやるつもりだけど、ボクなんかに何が出来るか……」
「大丈夫だ。引きこもりニートのオレでもできた。それにオレの作戦が上手くいってたら、救世主信仰ができててお前の言うことなんでも聞いてくれる信者ばかりだろ?」
「お前のせいか!?」


 ゴドルやマレラの謎の強い信頼感の源流を生み出したのはこいつだったのか。確かにこの男が初代指導者なら当たり前なんだけども。


「そう言えばオレにも子供がいてな」
「えっ、その情報いる?」
「嫁に似て可愛い子だったんだ。前世では童貞ヒキニートだったオレにもこっちの世界ではリア充だった」
「惚気が始まった!?」


 オレも平凡な童貞男子高校生だったんだけどな。何故か幼女に転生して二度と童貞卒業出来なくなったけどな。ナニコレ。


「オレが死ぬ時にみんなで看取ってくれて嬉しかった。ただ、アイツらがオレが死んだ後どうなったかが分からないんだよなぁ。ということで、後輩ちゃん、オレの代わりに調べて欲しい」
「貴方が死んだの大体1000年前らしいですよ。その情報が残ってるわけないじゃないですか」
「まじかぁ。何となくそんな風になる気がしてたけど、まさか1000年もあの地下世界にドワーフ達引きこもってるのかよ」


 地面に手をついてエドワードは落ち込んだ姿を見せる。


「先輩からの頼み、後一つ増やしていいか?」
「……言うだけなら勝手ですよ。ボクが受け入れるかどうかは別として」
「アイツらに外の世界を見せてやってくれ。この星は地球にも負けず劣らず綺麗な星なんだ。オレだって1000年もあの地下世界で暮らすためにあの場所に移住したわけじゃない。『邪鬼』を倒す手段さえ確立出来ればすぐに地上を取り戻すはずだったんだ」
「言っては何ですけど、今のドワーフの現状だと厳しいかもしれませんよ」
「だろうな。そうでなければお前が転生してくることもないだろうからな」


 やることが多くて億劫になる。
 まずは熔鉱炉、そして採掘場の奪還だ。


「まぁ、あまり期待しないでね。前世は凡人だし転生チートも無いしね」
「転生チート? オレは有ったぞ」
「はっ!? マジで?」
「おう、この筋肉だ。ドワーフのオス個体の中でもブッチギリの力持ちだったぜ」


 パワーチートか。なるほど、ならボクにも……。細い腕。腹筋ではなく脂肪でぽっこりとしたイカ腹。……いや、無いわ。


「お前はメスだからなぁ。魔法の才能とかあるんじゃね?」
「今採掘場と熔鉱炉に『邪鬼』が巣食ってて立ち寄れないって話します?」
「おぉ……。後輩ちゃん、かなり詰んでない?」
「…………」
「…………まぁ、頑張れ」


 エドワードの身体が薄っすらと透けてきた。まるで幽霊のようだ。まぁ、実質幽霊だろ。悪霊だ。


「おっ、時間切れのようだな。まぁ、後輩ちゃん。オレは少し寝るわ。何か相談したい事あったらこのティアラに魔力でも注いでくれや」
「えぇ……」
「嫌そうな顔すんなって。落ち込むぞ」


 エドワードはボクに近づくと頭の上に手を乗せて撫でてきた。鬱陶しい。


「じゃあな。まぁ難しく考えんなって。転生して偶然手に入った2度目の人生だ。めんどくせぇかもしれないけど、それが人生ってもんだ。気軽に楽しめよ」


 そう言い残して、エドワードは消えていった。最後まで勝手なやつだったな。楽しめ……か。


「まったく。簡単に言ってくれるね」


 ポロポロと白い空間が崩れていく。そしてまた闇に包まれた。





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