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無冠の棋士、幼女に転生する

うほごり

第13話「誘い」

 小学生将棋王将大会の予選から一ヶ月が経った。
 季節は六月に突入、梅雨が到来して連日のように雨が降っている。
 暗い雨の日でも目立つ真っ黄色な学童傘をさして、今日も今日とて私は桜花と小学校に登校した。


 学校では退屈な授業にうたた寝をして先生に怒られたり、掃除時間に男子と箒と雑巾で野球をして先生に怒られたり、体育の時間に、体育館の隅の方でサボってたらまた先生に怒られたり……。
 なんか今日怒られてばかりだった。
 悲しいね。女の子なんだからお淑やかにしなさいって先生から言われてるけど、私は中身おっさんだからね。やんちゃなのだ。


 桜花は優等生を演じているので先生受けも良く学級委員を任せられている。あと学校の成績もいい。先生に桜花ちゃんを見習いなさいってよく言われる。
 私だって小学一年生程度の問題で躓いてるわけじゃないからね。変な問題を出す先生が悪いだけなんだから。


 ……ということで放課後。
 外はゴロゴロと雷が鳴り、豪雨が窓ガラスを叩きつけている。これでは歩いて帰るのは危険なので、私は教室で桜花と将棋をうっていた。


「ねぇ、桜花」


 パチっとプラスチックの駒を指して、桜花の駒を取る。
 ちなみにこのプラスチック将棋盤は先生に頼んで教室に置いてもらっているもの。休み時間と放課後だけ遊んでもいいという条件だけどね。


「なーに、おねぇ」


 桜花に駒を取り返される。
 私は先ほどとった駒を桜花の陣に打ち込み攻撃の起点を作る。


「最近、私に内緒でルナや角淵くんと将棋指してるでしょ?」
「……どうして?」
「2人に教えてもらった」
「むぅ〜、内緒にしてって言ったのに〜」


 桜花は口を尖らせて不満を口にしながら、駒を動かして私の攻めを出鼻から挫こうとする。


 私と桜花はルナや角淵と最近ネットでよく将棋を指すのだが、桜花は私に秘密で連絡を取って将棋を知らないうちに指していたのだ。


「私に内緒にする必要なくない? どうして内緒にするの」
「教えたくない」


 ぷいっと顔を背ける桜花に、私は困って頭をかく。
 最近桜花がつれない。なんか私に内緒にすることが多くなってきた。
 この前なんか私の教えてない戦法を使ってきたんだよ。ルナか角淵の入れ知恵だと思うんだけどびっくりしたよ。


「まぁ別にいいけどね。桜花がルナ達と何をしてても私がとやかく言う道理はないし」
「……おねぇ、ジェラってる?」
「いやいやジェラってないから」


 おっさんは子供にジェラシーを覚えないのだ。はっはっは。……本当だよ?
 攻め駒を追加して駒損してでも桜花の守りを破りにかかる。
 するとここで桜花の手が止まる。
 桜花は基本的にあまり長考せずテンポよく指す癖がある。そんな桜花が長考する時、決まって桜花の雰囲気がガラリと変わる。


「……すー……ふー」


 深く深く水に潜るように。
 ジッと盤を覗き込む。
 この時の桜花を見ていると、見ている私も何か深い闇に引き込まれそうになる。
 昔からあった桜花の癖だが、一ヶ月前の大会が終わってからは特に顕著になってきた。将棋に対する意識が変わったからかなのか、それとも他に何か原因があるのか。
 少なくとも以前ならこのモードの桜花は終盤の詰めでしか現れなかった。しかしここ最近はこんな中盤の盤面でも、長考してくる。


 そして桜花が長考した時は決まって――鋭い一手を放ってくる。


「…………うん」
 ら
 パチっと一打。私の攻めを絶対に許さない、そんな一手。
 駒得で妥協せず、徹底的にこっちの攻めを潰す気だ。


「流石に強気すぎない?」


 桜花は受けは上手くない。
 生まれつきの圧倒的な終盤力を持つ桜花だが、無限の分岐がある中盤ではその才能は発揮できない…………のだが。


「これで……完璧!」
「……これ角淵くんに教わった?」
「教わってない。ぶっちーと将棋して覚えた」


 完全に攻めと切らされてしまった。
 角淵の捕食受けと完全一致というわけではないが、既視感を覚える程度には似ている。
 私に内緒でこっそりと角淵と対局してたのはこれを覚えるため?
 というか対局しただけで覚えられるようなものなのこれ。


「やはり……天才か」
「ナルトかな」
「まあ、冗談は置いておいて……っと」


 まだ私の不利とは明確には言えないが、有利ではないと思う。
 桜花と対局する時は常に突然の詰みに気をつけないといけない。少しでも不利になって攻め始められると、即死させられる可能性が高い。


「私らしくゆっくりといきますか」


 さっきの攻めは急すぎた。もっとねちっこく攻めるのが私流だ。安心安全ゆっくりと。
 チクチクといやらしく。ほれツンツン。


「おねぇ、やーらしー」
「はははっ、これが私の必殺技『地味攻め地獄』だぁ〜」


 今名付けた。
 やっぱり、と金は良いね。最強の攻め駒だよホント。角淵との一戦で散々苦しめられたものだよ。


 ティロリロリン。


 スマホから着信音が鳴る。この音はラインだ。ランドセルからスマホを取り出して確認する。
 私とルナと桜花の三人のグループにルナからメッセージが入っていた。


ルナ『今度の土曜日近くのショッピングモールに一緒に行かないかしら?』


 近くのショッピングモールって、映画館とかアニメイトとかあるあそこか。
 なにこれデート?


ルナ『パパがこんなイベント開くの』


 そんなメッセージの後に一つの画像が送られてきた。
 ショッピングモールで開かれるイベントの広告のようだ。


「桜花、ルナが今度の土曜にショッピングモールに遊びに行かないか、だってさ」
「ルナちぃが? いくいくー」
「ちなみにこのイベントに行きたいんだって」


 桜花に送られてきた画像を見せる。
 途端に桜花の顔がぱぁと光が差すように輝いた。


「えっ、つくもん! つくもん来るの? 絶対にいくー」


 ルナから送られてきた画像はこうだ。
 『つくもんがやってくる! トークショー&将棋イベント』
 ショッピングモールに将棋棋士武藤九十九さんこと、つくもんがやってきます!
 トークショーの後にはサイン&撮影会が実施予定!
 またその後休憩をはさみ、10組限定で将棋対決ができるイベントも実施予定!
 さらにさらにつくもんのサポートとしてこの街出身のイケメン棋士神無月稔七段も来場予定。


 武藤九十九むとう つくも九段とは最近引退した元トッププロだ。若い頃には名人位にもついたことのあるほどだ。
 引退してからはこんな感じに各地を転々と周りイベントを開催して将棋界を盛り上げてくれている。
 見た目は優しげな好々爺で、メデイア露出も多く少し天然な発言でお茶の間を楽しませている。
 桜花もそんな武藤九十九さんのファンの一人だ。


「ルナちぃが遊びに誘ってくるなんて初めてだね」
「将棋の話題しかしないもんね」


 ルナと連絡先交換して一ヶ月経つけど、どこかに遊びにいく約束するのは初めてだよ。だいたい将棋のお話しかしないグループだったし。まぁ、これもほぼ将棋なんだけどね。
 とりあえず返信しよう。


さくら『桜花も行きたがってるし、いいよ』
ルナ『そう! 良かったわ』
さくら『そう言えば私たち三人だけ? 角淵くん誘わなくていいの?』
ルナ『は? なんであいつ誘うのよ。いらないでしょ』
桜花『そーだそーだ!』


 いつのまにかスマホを持ってライングループの会話に参戦してきた桜花。
 本当に角淵可愛そう。一人だけ仲間ハズレだね。まあ女子三人の中に男子一人だけってのは、角淵も嫌だろうしこれで良かったと思う。
 しかし桜花よ。私に内緒で将棋をする仲になっても、角淵のことはまだ好きじゃないのね。お姉ちゃんとしてはもう少し仲良くしてほしいと思う。


ルナ『じゃあ、朝に迎えに行くってことでいいかしら。ママが車出してくれるって』
さくら『ありがとう。自転車で行くと時間かかるしどうしようかなぁと思ってたの』


 サムズアップしてサンキューと言っているゴリラのスタンプを送る。最近お気に入りのラインスタンプだ。桜花には不評だけど。
 その後何度かメッセージを送りあってラインを終わらせる。


「つくもん! つくもん!」
「こんな田舎にまで来てくれるなんてすごいね。私としてはルナのパパに会えるのも楽しみなんだけど」


 この広告を見る限りルナのパパはなんかオマケみたいな書き方になってるけど、神無月七段は女性人気も高くつくもんとは別の層にウケがいい。土曜のイベントめちゃくちゃ、混雑しそうだなぁ。


「さて、じゃあ桜花。続きしよっか」
「つくもん! つくもん!」


 念仏のように何度も唱える桜花。
 子供はすぐテンションあがるよね。私はビークールだからそんなことないけどね。ワクワク。










「あー、私の負け。参りました」


 桜花に負けてしまった。テンション爆上げ効果なのか知らないけど、今日の桜花の将棋は鋭かった。長考のする回数も多かったし。


「…………」
「ん、どうしたの桜花。そんなに見つめて」


 ジーッ私の顔を見る桜花。つくもんつくもんと呪文を唱えてた時のテンションはもう収まってる。
 桜花は、はぁとため息。そしてプイっと顔をそらして「べーつにー……」とだけ桜花は言った。
 何か桜花の機嫌を損ねることやったかな?
 というかここ一年くらい、桜花は私に勝ってもあんまり嬉しそうじゃないんだよね。ネット将棋で勝った時の方がよっぽど嬉しそうだ。


「おねぇは…………悔し…………かぁ……」


 なんか小声でボソボソと言ったのであまり聞き取れなかった。最近隠し事多くてお姉ちゃん悲しいぞ。反抗期かな。


「ん、おねぇ。雨も止んだし帰ろー」


 いつのまにか雨は止んでいた。雲の切れ目から注ぐ太陽の光が校庭の水たまりに反射してきらめいている。
 そんな校庭を泥だらけになりながら小学生が奇声をあげながら走っている。


「あぁ、うん。帰ろっか」


 どうして桜花の機嫌が悪くなったのか分からなかったけど、なんかもう治ったみたいだ。ランドセルを背負って教室の入り口で「はーやーくー」と手招きする桜花には先ほどの憂いは見えなかった。



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