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無冠の棋士、幼女に転生する

うほごり

第12話「閉会式」

 勝った。勝った。勝った。さくらちゃん大勝利!
 あの角淵影人を――前世の魔王の世代の一人を倒せた。
 手が震える。身体に力が入らない。
 全身全霊を使い果たした感覚だ。


「はぁ、何ボヤッとしてるんですか。これから閉会式ですよ」
「にゃはは、力抜けちゃって」


 そう言った私に角淵は手を差し伸べる。
 不服だがその手を私は取る。


「あんまり悔しそうじゃないね。歳下の! 女の子! に負けたのに」


 ここぞとばかりに煽る。マナー悪いの分かるけど対局前のあの発言許せないもん。女の子だって男の子に勝てるんだから。


「悔しいですよ。今すぐ家に帰りたいくらいです。でも、閉会式には出ないのは師匠の顔も潰れますし大会関係者に迷惑かけますからね」


 思ったより真面目ちゃん。
 ガリ勉みたいな見た目だし根は真面目なのかな。将棋するときはイキってたけど。
 なんか煽ったの申し訳なくなってきた。


「……ごめんなさい」
「えっ、どうして謝るのですか」
「今、煽っちゃって」
「気にしてません。お互い様ですから」


 そうだよね!
 お互い様だもんね。ノーカンノーカン。
 これで平等だね。


「――あと歳下に負けるのは慣れてますから」


 えっ?
 どういう事。ルナには勝ってるから、それ以外に角淵を日常的に倒している人が歳下にいるって事?
 その人ってまさか……。


「そ、それって誰――」
『閉会式を始めます。参加者の皆さまは集まってください』
「ほら行きますよ、さくら。あなたはボクに勝って優勝した主役なのですからね。遅刻は厳禁です」


 角淵に手を引っ張られて閉会式の会場へ連れていかれる。ちょっチカラ強い。
 というかいつまで手を握ってるの!




   ■■■




 閉会式はつつがなく終わった。
 この大会は一位の二位が全国大会に進めるのだが、一応表彰としてはベスト4まであるのだ。
 ということで桜花と一緒に会場の前に立って表彰状を受け取った。
 閉会式が終わると色々な人に話しかけられた。将棋好きなおじさんから、大会運営の人、それから高学年の部と優勝者の人とかまで。


「さくらちゃん良い将棋指すね。おじさん感動しちゃった。あっ、サインいいかい?」
「さ、サイン!?」
「ボクはサインおじさんって呼ばれてて全国の将来有望な将棋っ子にサイン貰って将来を楽しみにするのが趣味なんだ」


 ロリコンの変態じゃなかったけどなんか変なおじさん!
 とりあえず色紙にサインしておいた。教科書の裏に書く名前のように平仮名で『そらなき さくら』と丸っこい字。女の子っぽい字は練習したんだよ。


「空亡姉妹は研修会に入る気はあるかい? よかったらこれに連絡してね。歓迎するよ」
「うーん、親と相談して決めます」


 今大会の運営していたお兄さんは研修会の方にも関わりがあるらしい。いつかは行きたいからこの名刺は無くさないようにしないと。


「地域新聞なんだけど、インタビューいいかな? あっ、神無月さんも一緒にどうかな。小学生の女の子の大躍進って感じで」
「ルナちぃ、一緒に写真撮ってもらおう!」


 うちの地域新聞社の人。
 桜花の可愛さが世の中に知らしめて人気になったらどうしよう。アイドルになっちゃったり!?


「去年の神無月さんの小学一年生での準優勝にも驚いたけど、今年は小学一年生の女の子が優勝か。これは女流の将来も安泰だね」
「私は女流になるつもりはありませんけど……」
「えっ?」
「私はプロ棋士になるので」






 そんなこんなで桜花と二人して引っ張りだこだった私達。
 ルナや角淵は元々有名らしいので二人にもかなりの数のインタビューが行われていた。
 そして私が解放される頃にはもう日は沈み外は暗くなっていた。
 私と桜花、ルナそして角淵の4人は最終的に逃げるように会場を後にした。
 この大会は思っていたより注目度が高い大会だったようだ。


「はぁ、相変わらず疲れるわ。ルナもうヘトヘト」
「神無月さんはお父さんがプロだから注目度高いのもあるけどね」
「話しかけないで陰キャ」
「……はいはーい」
「もしかしてって思ってたけどルナちぃのパパさんはあの神無月七段なの?」


 桜花が驚きの声を上げる。
 神無月七段と言えば順位戦B級1組に所属するプロ棋士だ。タイトルはまだ取ってないけど、それでも中堅としてかなりの実力を誇るプロだ。


「そうよ。去年はパパ応援に来てくれたんだけど、会場がプチパニックになっちゃったから今年はお家でお留守番してるの」


 神無月七段はイケメンで有名で、メディアにも露出してる事もあり将棋を知らない層にも人気なのだ。
 最近引退した、独特のキャラクターで人気な武藤むとう九十九つくも九段や現役最強の竜王と並んで有名な将棋指しの1人なのだ。
 女流で有名なのは久遠寺女流名人かな。アイドルみたいに可愛いのに、身体が悪いからメディアにはあまり顔出ししてないけど。


「ちなみにボクは神無月先生の弟子です」
「……へぇ」


 角淵の発言に興味なさそうに桜花が言った。
 なんか角淵可哀想になってきた。
 まぁ桜花にしてみれば自分を負けさせた相手だし忌避感出るのはわかるけども。


「ルナはお前がパパの弟子だなんて認めてないからね!」
「あれ、話しかけないんじゃなかったんですか?」
「ルナから話しかけるのはいいの!」
「そんな理不尽な……」


 この2人が仲が悪い原因が垣間見えた気がする。
 陰キャであるかとか以前に、角淵が自分の父の弟子であることが根本的な要因でしょこれ。
 2人が言い合いをしているので、私は桜花に話しかける。


「桜花。角淵くんと仲良くする気ない?」
「やー」
「負けて悔しいかもしれないけど、将棋をしていると負けることなんて良くあること。強い人とは仲良くして相手を利用するべきと思わない?」
「むぅ〜…………わかった」


 おっ、素直。
 角淵に桜花が負けた後に言った『強くなりたい』って言葉は本気のようだ。
 桜花は渋々といった感じで角淵に近づいていく。
 そして角淵を指差して一言。


「ぶっちー」
「ぶ、ぶっちー……」
「うん、あだ名。今日は負けたけど今度は負けないもん。だから握手……」
「……なぁ、さくら。お前の妹頭おかしいのじゃないですか? 流石にぶっちーは……」
「あん? 私の妹がせっかくつけてくれたあだ名拒否するの? ひっどーい」


 妹をまた泣かせたらどうなるかわかってんのか角淵。私の流星の拳が降り注ぐことになるよ。バシバシッ。


「角淵、諦めなさい。ルナはルナちぃよ」
「お前のあだ名も大概ですね。…………はぁ、分かりましたよ。ぶっちーでいいですよ。はい握手」


 うん、いいね青春。
 桜花はもう少し嫌そうな顔を隠せるといいね。


「そうそう角淵くん。さっき聴き損ねたけど、君が負けてる歳下の子って誰?」


 ドクン。
 私の想像通りなら角淵を日常的に負かしている人は……。
 あの男が思い浮かぶ。絶対的なあの男が。
 この世界で角淵が私と同年代ならあの男もいるはずなんだ。


「ん、あぁ。……個人情報なので秘密です」
「……そう」


 残念なようなホッとするような。
 私はまだあの男と会う勇気はないのかもしれない。まさか転生してまであの男と会うことになるとは思って見なかった。


「彼は全国に必ず出場してくるので急がなくても、八月の会場で会えますよ」


 全国大会は八月。今から三ヶ月後。
 もっと強くならなくちゃ。あの男だけには負けられない。絶対に絶対に。


「角淵くん、スマホ持ってる?」
「一応持ってますが」
「『将棋対戦』やってる? 暇な時やりましょ」
「ボク、ネット将棋は変な癖が付くのでやらないようにしているのですが」
「いいじゃん、私とやる分には変な癖なんてつかないでしょ」


 見知らぬ人と気軽に打てるネット将棋では失敗しても気にしなくなる人もいる。角淵は実践主義なのだろう。
 顔見知り同士の対戦なら実践と変わらない。


「はい、これ私のラインね。登録して」
「……はぁ、まあボクは今日は負け犬ですからね。従いますよっと」


 よし、これでルナに続き角淵とも将棋が指せるようになった。強い人といつでも将棋ができる環境っていいね。ビバ、ネット社会。
 超速攻のルナ。
 捕食受けの角淵。
 終盤の鬼の桜花。
 ふふふっ、いいね。みんな個性があっていい練習ができそうだ。


「よーし、じゃあ帰ろっか桜花。ルナも角淵くんも家帰ったら連絡するねー。あとよかったら対局も」
「お前まだ将棋する気かよ!」
「ルナは構わないわ。負けたままなのは癪だしね」
「おねぇ、わたしが先。今日まだおねぇと将棋してないもん」


 さて、まずはひと段落。
 今日は優勝という結果もだけど、もう一つ大きなことを知れた。
 ここが過去の世界であること。そして、あの名人とまた対局できるチャンスがあること。






 今度こそ――――私は勝つ。そしてプロになり




 『名人』になる。

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