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無冠の棋士、幼女に転生する

うほごり

閑話「空亡雅」

 私は空亡雅そらなき みやび
 可愛い嫁と、嫁に似た超絶可愛い双子の姉妹を持つ社畜だ。
 最近は仕事が忙しすぎて可愛い娘たちとふれあえないのが悩みである。本当に悩みである。会社爆発しないかな。


 自慢みたいに聞こえるが私の娘は可愛い。
 何度でも言う、可愛い。
 双子の姉妹で見た目は瓜二つの子達だが、しかしその性格はかなり違う。


 上の子は空亡さくら。いつも冷静で少し大人びている。しかしその中にも子供らしい笑顔を度々みせる。本当に可愛い。
 天性の甘え上手と言うべきか、父心を理解しているのか、さくらにおねだりされると断ることができない。
 最近はどっぷり将棋にハマっているようで、たまに相手をできる日があるので対局して遊んでいる。


 そして下の子は空亡桜花。無邪気で歳相応の元気いっぱいな女の子だ。いつも姉のさくらの後ろをついて回っていて、姉のすることはなんでも真似をする。将棋にハマっている姉に影響されて姉と将棋をよく指しているようだ。ただ、父である私とはあまり将棋してくれないので将棋が好きというよりも姉であるさくらが好きで将棋をやっている気がする。


「パパぁ、今日はお仕事ないの? しょーぎしよしょーぎ」


 ランドセルを背負って学校から帰ってきたさくらと桜花。今年から小学生になって1つ大人に近づき、何か感慨深いものがある。


「ふふふ、社畜のパパにもたまには代休が貰えてね……」
「おねぇ、プリンとゼリーどっちがいい?」
「どっちでもいいよ。桜花が好きな方選んでいいよ」


 さくらはさっそく私の前に将棋盤を置いて駒を並べ始めた。本当にこの子は将棋が好きだ。
 最後に対局したのは3ヶ月くらい前か。平手で打ったがまだあの時は私の方が強かった。それでも小学生に上がる前の子とは思えないほどさくらは強かった。


 私の実力は正直言ってアマチュアに毛が生えた程度。将棋好きのおっさんレベル。
 お義父さんにも負け越す程度だし。
 しかしさくらはあの歳で平手で将棋好きのおっさんと互角に渡り合える……本当に私の子とは思えない。強面の私と違って可愛いし。


「じゃあパパ。私が先手ね」


 さくらは楽しそうに初手を打つ。
 この子は勉強家だ。定跡をしっかり学び、安定した打ち方を好む。まるでプロのようだ。
 あまり冒険やハイリスクな手は好まず、それ故にスキが少ない。
 それでもまだまだ甘い部分もある。
 定跡のない未知の局面での力戦系や、追い込まれた時の切り返しがやや苦手とする。


「それでも……」
「ん、どうしたのパパ。パパの番だよ?」


 最後に対局してから3ヶ月経ち、どのくらい成長したのか楽しみだったのだが……。


 これは……強くなりすぎだろ。


 私は盤面を見て頭を抱える。


「さくら、1つ聞きたいけどこれは定跡か?」
「うん、そうだよ。この前プロの対局見てて覚えたんだよ」


 社畜の私は時間の関係で将棋の知識はひと昔で止まっている。
 しかしこの子はプロの将棋を見て勉強している。私の知らない定跡まで使ってくるようになった。


「でも定跡と言えるまでプロの中で研究がされてるのかなぁ? でも対局上で出てきたってことはプロの中では答えが出てるのかも。いつかプロの人と会ってお話しして見たいなぁ〜」


 そう言いキラキラと眼を輝かせるさくらは、本当に歳相応の子供に見える。
 子供の純粋な向上心は時として大きな力になる……ということか。


 でも……


「まだまだパパは負けられない!」


 強引な一手。
 父親の意地として娘にまだ負けるつもりはない。
 勉強家のさくらを相手に定跡上で指して勝てる可能性は低い。
 なら少し強引でも局面をかき回し、力勝負に持ち込む。
 しかし――


「そう来るならこう!」


 私は何度も何度も引っ掻き回そうと意地の悪い手を打つ。
 さくらはその全てをまるで答えを知っているのかのようにノータイムで返して来る。
 私の将棋はすでにさくらの手のひらで収まってしまう。


 その後は一方的だった。
 一度押され始めた将棋は、相手がミスをしない限り逆転は難しくなる。


「はぁ〜。パパの負けだよ」
「やった! パパに初めて勝った〜」


 さくらは嬉しそうに手を上げて喜ぶ。


「おねぇ、おめでとう! はい、ゼリー」
「ありがとう、桜花。……あれゼリーぬるいね」
「だっておねぇ、将棋に夢中でぜんぜん食べないんだもん」
「むぅ〜。まぁいいか。ぬるくてもゼリーはゼリーだし。うん美味しい」


 正直負けたことはショックだ。
 こう、父親の威厳とか何やらかんやらが無くなりそう。
 でも、娘の才能が凡人では収まるものではないことがわかった。
 教えるか悩んでいたけど、これだけ強いのなら教えない方が娘達に悪い……か。
 そう思って、私は新聞に挟まっていた広告を広げる。


「さくら、桜花。将棋の大会に出てみる気はないかい?」
「「大会?」」


 私達が住む街では一年に一度小学生が出場できる将棋の全国大会の予選が行われていた。
 高学年の部と低学年の部に分かれ、それぞれの優勝者と準優勝者が8月に行われる全国大会に出場できるのだ。


「でるでるー!」


 はいはい! と手を上げて最初に反応したのは意外にも桜花だった。
 さくらはまだ、大きな瞳をさらに大きく見開いて広告を見ていた。


「パパ、この大会めちゃくちゃ大きいね」
「ん、そうなのか? 小学生大会にはそんなに詳しくないからよくわからないよ」
「……この規模だと…研修会員も……」


 さくらはブツブツと独りごちる。
 嬉々して喰いつくと思ったのだけど、どうしたのだろう。


「……うん、パパ。私もこの大会出たい」


 さくらは少し思案したのち、そう答えた。


「おねぇ、2人で全国大会にいこー」
「はははっ、桜花。そんなに将棋は甘くないよ。でもいいね。どうせなら目標は高く、だね」


 姉妹でキャハウフフと盛り上がる。
 喜んで父親として嬉しい。
 まぁ、パパは仕事で付き添い出来ないから嫁にお願いすることになるんだけどね。悲しい。


「じゃあ、パパ。今度はわたしとしょーぎしよ!」


 珍しく桜花が私に将棋を申し込んできた。


「早くおねぇみたいに――いや、おねぇより強くなるの!」


 グッと手を握り、やる気の炎で燃えた目で桜花は見上げてくる。
 『おねぇより』か……。
 桜花は思ったよりも負けず嫌いのようだ。


「おお、言うね桜花。お姉ちゃんだって桜花に抜かれる気ないからね」


 そしてもっと負けず嫌いのさくら。


「ふふふっ……」


 なんだか嬉しくて笑みが漏れる。
 社畜にとって貴重な休日はこうして家族サービスで終わる。それが最高に満たされる。
 先ほどの対局でぐちゃぐちゃになった駒を並べ直す。


「さぁ、将棋をしようか」

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