downpour

ノベルバユーザー279823

一話

教室に入ると同時に僕は嫌な光景を見てしまう。それも毎日だ。見たくないなら見なければいい。そう思うのだがそうはいかない、少しばかり状況が普通ではない。
「おい、そこは僕の席だ。」
そういった相手は蛇塚(へびつか)クラスメイト。
こいつは立夏に恋をし、し続けた。恋い焦がれた後に儚く散った。
それ以降僕を逆恨みし嫌がらせをしてきた。
今日は僕の席の独占だ。
「おっ、これは佐竹立夏の旦那様じゃねえかよぉ?何か用かぁ?」
えらく挑発的な態度だ。
よく見るとダサいキャラクターのステッカーが机のあちこちに貼られている。
「お前に構ってる暇はない、退かないなら力づくで行くぞ…!」
そう言い放ち拳を作る。
机の仇だ。
言い忘れたがこれでも空手黒帯の実力は持っている。
「上等じゃねぇか…てめぇなんざ一発だよ五条ぉ…。」
そう言い蛇塚も拳を作る。
よほど腕に自信があるようだ。
まさに一触即発。もう誰も止められない。
止めようものなら巻き添いを食うからだ。
「行くぞ…!」
「来いよぉ?」
---
「「ジャァンケェン」」
「「ポォン!!」」
勝負は唯一度の拳で決着がついた。
武士同士はその一撃を持って語るものだ。
その場に倒れ込んだのは…蛇塚だ。
「俺の負けだ…。」
「我が生涯に一片の悔いなし…。」
「それ俺側のセリフだろぉ。」
笑いながら言う蛇塚。
実はすごく仲がいい。いやそれは誤植がある。言うなれば仲良くなった、が正しい。
立夏を(なぜか僕)巡り蛇塚と因縁の戦いし、僕が勝ちお互いに認め合い今じゃ大の仲良しだ。
もちろん朝にこんな熱い絡みは求めていないので朝は蛇塚と遊ぶのは嫌だ。
担任の先生が来ると同時にお互い席に着いた。
ホームルームが始まる。
窓際の席から雨の降る窓を眺めていた。
「はい、お前たちも見てわかるように今日は記録に残るような大雨だ。このまま警報が出れば午前授業にな…」
なんとも気だるげに先生が言い終わる前に、クラスが喝采に沸く。
みんな午前授業が嬉しいのだ。
そんな僕も勿論嬉しい。
窓の外の雨雲にもっと降れと祈るように念を押す。
「それと最近不審者情報が出ている。これについてはまぁ、帰りのホームルームで詳しく話す。午前授業についてはまた決まり次第の報告だ。以上。」

2限の数学が終わると立夏が教室を訪ねてきた。
「京、もし帰り道に朝の猫がいたら今日だけ預かって!どうしても気になって…だからおねがいっ…!」
そう言い切り勢いよく頭を下げた。
なんだそんな事を言いにきたのかと思いわざと考えるふりをして焦す。
「ね、まだ?ねぇおーねーがーいー!」
頭を下げながらもちらっと顔を見てくる。なんか面白い。
「お前に言われなくてもそのつもりだよ。僕は猫には優しい猫博愛主義だからな。」
安堵した立夏はニコニコしながら顔を覗き込んでくる。
やっぱり顔は可愛いなこいつ。
「京は私の傘に入らないと帰れないでしょ?だから一緒に帰ってあげるっ!」
毎日帰ってんだろっ!
そう口に出すと期限を損ないかねないので心で突っ込み、適当に返事した。
「いいよなぁ佐竹さんと帰れてよぉ…。」
蛇塚が恨めしそうに言う。
半分無視しながら3限目の準備をした。

3限目が終わり担任が教室に入り、数分も経過しずにクラスがまたもや沸いた。
そう早帰りだ。
担任は何か話している。
真剣な表情は見て取れるが特に気にしなかった。
「ー不審者…気を…まだこの街…」
もはや誰も担任の話を聞いていない。
まったくお前らはそれでも人間かよ。人間だよ。僕も嬉しさでまったく話を聞いていない。
ホームルームが終わり帰り支度をしていると
僕の天使が現れた。
「京先輩!僕も帰り同行させてもらってもいいですか?雨で部活はないですし、たまには一緒に帰りましょう!」
なんとも素敵な誘いだ。
「いいけど立夏も一緒でいいか?」
そう言いながらも頭を撫でる。撫で続ける。
「勿論です!それと。京先輩?これでも立派なJKです!子供扱いしないでください!肩パンしますよ!」
流石に人の少ない玄関より教室の、しかも先輩たちの前で僕の腕に善がるのは恥ずかしいのだろう。珍しく怒っている。もっと撫でてあげないとな!
かぁいいなぁ!かぁいいなぁあ!
ボグっ
「痛いっ!」
どうやら調子に乗りすぎたようだ。
可愛い後輩といちゃいちゃしているうちに僕を迎えにきた立夏が合流し学校を後にした。
少し不満気な立夏と嬉しそうについてくる渉。
大雨でも平和だ。寧ろ非日常を望んでしまう。

立夏を雨で濡れないようにカバーしながら歩く。きつい。
「早くしないと子猫達風邪引いちゃう!」
そう言いながらも早歩きをやめない立夏に苦戦しながらも楽しく帰っていた。

最初に気づいたのは渉だった。
「先輩…あれ…ひっ、ひと?」
酷く警戒する渉を宥めながら目を凝らす。
遠くに見えたのは朝見つけた段ボールのそばに立つ、いや立たされてる何かだ。
「少し見てくる。お前らここで待ってて。」
止めようとする立夏を振り切り雨に濡れながら近くによる。
言葉にならない。
後悔した。見てしまった。
目を疑ったと同時にその場に座り込んだ。
見かねた立夏と渉が早足で駆け寄る。
急いで止めようとしたのだが体が動かない。
「京!だいじょう…きゃぁああ!」
「立夏先輩!…ひっ、きゃぁ!」
慌てて駆け寄った立夏と渉もそれを見たと同時にその場にへたり込んだ。水たまりなどとっくに超えた水没気味の道路に。

電信棒に縛られ立っていたのは
2匹の子猫の首が人間の胴体と繋がりまるで1つの生き物のようになっているもの。
「なんだよ…これ。おぇ…。」
吐き気を抑えながらもそれを見る。
体全体が血に染まり雨から察するにまだ完成して新しいことがわかる。
首から上は2匹の猫がくっついており首から下は首のない人間、いや人間だったもの。
肩から切り落とされたであろう腕はその人間だった体の脚に十字架の様に括られていた。

無造作に付けられた2匹の子猫の首は激しい雨に打たれぐらつき地面に転がった。
その2匹の頭は生前よろしく仲良く転がり僕の手にこつんと当たる。
無垢な瞳は抉られ真っ黒な洞窟を連想させる。
目を背けようと前を見た瞬間
フードを目深く被った男が10メートルほど先に立っていた。
この大雨の中傘もささずに。

フード男が愉快そうに笑い左手の何かを踊る様に左右に振り、こっちを見ている。
右手は包帯を巻いている。その手には鉈を持つ
左手には、見たことのある、いや見たことのあった変わり果てた頭部をぶら下げていた。
そして気づく、雨がその人間だったものの血を流していく。
今更だった。見た時点で逃げれば良かった。
警察にでも通報すればよかった。
あの人間だったものは僕と同じ制服。
そして男が持つ頭部の持ち主が同じクラスの蛇塚だという事を…。




















































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