転職先は魔王でした

駄菓子オレンジ

結婚の儀式

 さて、少し忘れていたが、今は儀式の説明の途中だ。

「で、結局俺は、シーノと結婚してジークから魔王の位を受け取ればいいんだな?」
「簡単に言えば、そういうことだ」

 シーノはそれでいいのかを聞こうとしてシーノを見てみると、少し俯いて心配そうな顔をしていた。

「シーノ、どうしたんだ?」
「あ、いえ、その……隆司さんはいいんですか?」
「何がだ?」
「えっと、相手が私で本当にいいんですか?」

 どうやらシーノは、自分に自信があまり無いようだ。

「あぁ。それに、シーノ自信が俺を選んで、この世界に連れてきてくれたんだろ?」
「え?えぇ、そうですね」
「それは、俺が魔王になるべきだという自信があったからこそだろ?」
「そう、なりますね」
「そして実際に、俺は魔王になろうとしてるんだ。もっと自分に自信を持て」

 ……料理の腕は別としてな。

「……はい、ありがとうございます。少し自信が持てました」
「なら良かった」

 微妙に、質問に対する回答としては間違っていた気もするが、自信が持てたならそれでいいだろう。

「さてと、結婚するということは、結婚式もあるのか?」
「そうだな、簡単な儀式はある」
「いつやるんだ?」
「できれば、すぐに行いたい。儀式自体もすぐに終わるからな」

 すぐにって……準備も何も無いのか。

「……わかった、俺は大丈夫だ。シーノはどうだ?」
「はい、私も大丈夫です」
「なら、今から行わせてもらう。リチム、頼んだ」
「了解じゃ」

 ジークが取り仕切る訳ではないのか。まぁ、結婚式で父親に取り仕切られたら少し困るだろうしな。自然なことだろう。

「そうじゃな……とりあえず、互いに向き合い、どんな形でも構わんから手を繋ぐのじゃ」
「あ、あぁ、わかった」
「わかりました」

 どう繋ぐか困ったが、結局握手に落ち着いた。

「目を閉じ、この魔方陣を互いの手のひらに描くのじゃ」

 見せられた魔方陣を確認し、目を閉じてシーノの手のひらに写す。描いている間、逆に描かれている感覚もあった。

「描き終わったら目を開けてよいぞ。それで終わりじゃ」
「……え?終わり?」
「うむ、終わりじゃ。早いじゃろ?」

 確かに早い……いや、早いにもほどがある。

「もうちょっと何かないのか?例えば、その、キスとか?」
「したいならしてもよいぞ。どちらにせよこれで終わりじゃから、我は関与せん」
「あぁ、そう……」

 流石にキスするほどの勇気は出ず、そのままで終わった。
 少し気になって手を見てみたが、どうやら魔法陣の跡は残っていないらしい。まぁ、残っていたら残っていたで面倒だったが。
 そんなことを考えていると、別の部屋に行こうとしていたリチムが足を止め、口を開いた。

「そうそう、今の儀式は簡単なものじゃ。言い方を変えれば、口約束みたいなものじゃな。契約ほどの拘束力は無い。その気になれば別の奴とも結婚できるから気をつけるんじゃな」
「え?じゃあ、正式な結婚式はまた別にあるってことか?」
「うーむ……残念じゃが、魔族には無い。ちゃんと結婚したいなら、人間の街まで行ってするか、これから魔王になるタカシが、魔族でもできるようにするかじゃな」
「なるほど……どっちも簡単じゃないな」

 これは仕方がない。しばらくは、結婚していない気分のまま過ごすことになりそうだ。

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