転職先は魔王でした

駄菓子オレンジ

予感

「それはさておき、やっぱりこの身体は快適じゃのう。体感では五百年くらいぶりに落ち着ける」
「……あれ?リチムって三百歳ちょっとじゃなかったか?どうして五百年ぶりなんだ?」
「それは、ドラゴンが転生する生き物じゃからじゃの。前世では契約せずに生きて、二百年経たずに死んだからのう」

 転生する生き物か……ちょっと羨ましい気もするな。実質不死身だし。

「今、実質不死身だから羨ましいとか思ったな?」
「……よくわかったな」
「これだけ長く……いや、永く生きていると、同じことを考える人によく会うからの」

 やっぱりみんな同じことを考えてるのか。

「だが、そこまでいいことではないぞ。転生するからこその苦しみもある」
「そうなのか?俺には想像がつかないが」
「例えば、記憶を引き継ぐから、死ぬ苦しみを覚えているのじゃ。それも、今までに死んだ回数分の苦しみを」
「なるほど。たしかにそれは辛そうだな」

 今までに死んだ回数分の苦しみということは、いくつもの死に方の苦しみを知っているということだろう。そしてそれだけ、その苦しみは二度と味わいたくないと思う。
 だが、その苦しみは俺には理解できないことなのだろう。

「そういえば、人間にも何度か転生した者が居ったな。のう、ジーク」
「あぁ、たしかに居たな。たしか、親父を殺した勇者だ。名前は忘れたがな」
「そんな人も居るのか」

 人間でも転生することがあるのか。それはそれでラノベみたいだと楽しむ人もいるのだろう。

「たしか、もともとはタカシと同じ世界で生きておったのじゃ。じゃが、事故で死んでこの世界に転生。そして、先代魔王と相打ちで死んだ後、また元の世界へ転生したらしい。その後はよく知らないが、自殺で死んだと聞いている」
「……そんな人生は体験したくないな。3回も死ぬとか」
「ちなみに、転生した者のことを転生者と呼ぶのじゃが、少し暗い話はこのくらいにしておこう。して、ジーク、まだ用があるんじゃろ?さっきから少しそわそわしておる」

 見てみたが、俺には違いがわからない。そんなにそわそわしているだろうか。

「できるだけ隠していたんだがな……やっぱり付き合いが長いからわかるのか?」
「そういうことじゃろうな。で、本題は?眠いから早めに言ってほしいんじゃが」
「あぁ、そうだな。だが、寝るにはまだ早いな。リチムには、儀式の手伝いを頼みに来た」
「……そうか。ジークもついに引退か」

 儀式や引退とはどういうことだろう。シーノに聞いてみようとしたが、シーノは首を傾けていて、その後何かに気づいたようにハッとして少し頬を赤らめた。

「あぁ、お前には戻ってから説明する。とりあえず魔王の間に戻るぞ」

 よくわからないが、逆らったところで何も無いので、言われるがままに四人で・・・戻った。



「さて、ジーク、タカシに儀式のことを教えてやるのじゃ」
「……そうだな。これは俺から伝えた方がいいだろう」

 という訳で、戻って来るなりすぐに説明が始まった。
 ……この世界に来てから半年間、説明ばかりな気がするのは気のせいだろうか?

「俺はこれから、お前に魔王の位を託す」
「あぁ、引退ってそういう事か」

 にしても早いな。もっと何年もかけて修行するのかと思っていた。

「そして、娘……シーノもお前に託す」
「……は?えっと、つまり……シーノを俺の嫁にするという事か?」
「そういう事だ。前にお前とシーノから了承を得ているはずだが」

 あー……そういえば、半年くらい前にそんな話をした気もするな。

「魔王は、後継ぎが結婚した際に、位も譲る事になっている。逆に言うと、位を譲るには、後継ぎが結婚しないといけないという事だ」
「……うん?その言い方だと、ジークは俺に位を譲りたいように聞こえるんだが」

 俺が結婚しようとした訳でもないのに、位を譲って俺を結婚させようとしているという事は、そうとしか考えられない。

「あぁ、その通りだ」
「どうしてだ?」
「……予感だな」
「予感?」
「そう、悪い予感だ」

 ただの予感で位を譲るのはどうかと思うが、ジークは魔王だ。それ程の実力を持っている。
 剣の稽古をしていた時にジークと軽く戦ったりもしたが、俺は一撃も当てられなかった。ジークが言うには、全て勘で捌いていたらしい。かなりひねくれた手も試したが、それも捌かれたとなれば、俺は信じる他無い。

「どんな予感なんだ?」
「……恐らく、俺はもうすぐ死ぬ。どんな死に方かはわからない。ただ、勇者が攻めてくるのではと思っている。もし攻めてきたら、その時は俺に戦わせてほしい。最後の戦いを、全力で」
「……そこまでわかるのか」
「まぁ、半分くらいはただの予想だ。今までの経験から、そろそろ攻めてくるんじゃないかと思っただけだ」

 俺は少し茶化してしまったが、ジークの顔や声は本気だった。もはや、覚悟まで決めたような顔さえしている。
 半年間共に過ごしてきて、ジークは簡単に嘘をつくような奴ではなかったが、その中でもここまで真剣な顔は見たことが無い。

「……わかった。もし攻めてきたら、ジークに全て託す。無茶はするな、と言いたいところだが、その顔だと、言ったところで無意味だろうな」
「ありがとう。無茶をしてでも必ず止めてみせる」

 この時のジークは、何か悩みが解決した様な、少しスッキリした顔をしていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品