転職先は魔王でした

駄菓子オレンジ

契約

「あれからもう半年経つのか……早いのう」
「それはドラゴンとしての感覚だろう。俺達からしたらかなり長い間だ」

 俺たちは、リチムと契約するため、また山頂まで来ていた。
 ジークとリチムの世間話をしばらく聞いて、やっと本題に入った。

「して、タカシ、魔法はどの程度使えるようになったのじゃ?まともに使えなかったら契約は失敗するぞ」
「そうだな……見てもらった方が早いか」

 そう言って俺は、リチムの頭上に直径1メートル程の火の玉を作り出した。そして、赤かった火が青くなるまで温度を上げた。両方無詠唱だ。
 温度の変化は「熱」に適性があると言われただけあって、覚えるのが他の魔法よりも早かった。

「ほう……ここまでできれば契約は成功するじゃろう。少なくとも、失敗はしないじゃろうな」
「ちなみに、失敗するとどうなるんだ?」

 俺は興味本位で聞いてみた。

「両方魔力が暴走して死ぬ」
「……結構命懸けなんだな」
「その分メリットが大きいということじゃ」
「むしろ、そうでなきゃ困る」

 さて、俺の上達具合を見て、契約の仕方の説明が始まった。
 リチムはどこからか石版を持ってきて、俺に見せた。

「この石版に魔法陣が書いてあるじゃろ?我の身体のどこかに触れながら、我の魔力を操作して、その魔法陣の魔法を我の身体の中で発動する。そうすればすぐに契約は完了じゃ」
「……え?リチムの魔力を操作するって……そんなことできるのか?」
「可能じゃ。まぁ、操作される側が気を許していないとできない事じゃがの」
「なるほど」

 俺はとりあえず、言われた通りにリチムの身体に触れた。前足の足首の辺りだ。

「これで発動すればいいのか?」
「うむ、そうじゃ。……殺すんじゃないぞ?」
「さすがに慎重にやるから安心しろ。……100%とは言えないが」

 お互いに不安になりながら、俺はリチムの魔力を操り、魔法陣を作り上げる。
 ジークとシーノが俺たちを心配そうに見ているが、集中しているので、全く気にせず、俺は魔法陣に俺の魔力を流し込んだ。

 魔法が発動し、契約は無事完了した。

「……ふぅ。これで終わったか?」
「うむ、大丈夫じゃ」

 リチムが何かを思い出したような顔をした。

「そうじゃ、シーノ、あれは持ってきてくれたかの?」
「はい、ここにあります」

 シーノが持っていたのは、腕に抱えるくらいの大きさの、木の箱だった。
 ここに来る時には見なかったから、魔法を教わるときに見せてもらった「収納魔法」を使ったのだろう。
 収納魔法は、別の次元とでも言うべき場所に、物を転移させる魔法だ。その状態を維持するために常に魔力を消費するが、大した量ではないらしい。

「うむ、我の足元に置いてくれ。して、タカシ、ジーク、できればシーノも、少しの間向こうを向いてくれ」
「どうしてだ?」
「説明はすぐにする。じゃから、向こうを向いてくれ。振り向くのもいかんぞ?」

 よくわからないままだが、俺たちは後ろを向いた。すると、背後で何かの魔法の気配を感じた。気になったが、振り向くなと言われたので、我慢した。

「もう良いぞ」
「一体何の魔法を使ってたん……だ?」

 振り向くと、そこにリチムは居なかった。代わりに、青い目をし、赤い髪をポニーテールにした少女が立っていただけだった。

「ど、どちら様でしょうか?」
「リチムじゃ。わかるじゃろ。いや、わかれ」

 どうやら、ジークとシーノは驚いていない様子だ。

「ドラゴンは誰かと契約すると、人間の姿になることができるんですよ。まぁ、見た目は一種類だけですし、性別も変わりませんが」
「なるほど……ん?ということは、リチムって女だったのか。厳つい見た目をしてたから、てっきり男かと」
「よくある勘違いじゃ、許そう」

 許してくれてよかった。怒って攻撃してこようものなら、まともに防御できずに死んでいた気がするからな。……俺が死んだらリチムも死ぬが。

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