転職先は魔王でした

駄菓子オレンジ

結界と俺の身体

(魔王様、ちょっと素が出てますよ。召喚が終わったらクールなキャラになるって言ってたじゃないですか)
(す、すまん)

   これは……聞かなかったことにしておいてやろう。そう考えながら、魔王の言葉を待った。

「そ、そうだな……出してやりたいのは山々なんだが、まだ身体が出来上がってないから出してやれないんだ」
「身体?」
「あぁ。今のお前は魂だけの状態だ。お前の周りに張ってある結界がないと維持できない」

   あぁ、これって結界だったのか。結界ってもっとキラキラしてるものかと思っていたが、そうでもなかったんだな。

「ちなみに、維持できなくなるとどうなるんだ?」
「お前自身が魔力となって霧散する。空気中に蒸発する感じだな」
「蒸発……怖いな、それ」

   と、ここまで会話していたはいいが、1つ疑問が生じた。

「……あれ?そういえば、なんで普通に会話できてるんだ?世界自体違うんだし、言語も違うだろ?」
「それは、結界に言語を変換する魔法陣を埋め込んでるからだな。ちなみにだが、お前達が元の世界で使っていた外国の言語も、似た意味の言葉に変換されるから問題なく使えるぞ」

   なるほど。……いや、なんでいきなり魔法とか出てきて納得しちゃってんだ、俺。
   まぁいい。それは置いといてだ、結界に機能を付けてるってことは、俺の身体ってやつにはその機能は無いかもしれないんだよな?

「じゃあ、さっき言ってた俺の身体にもその機能は付けてあるのか?」
「もちろんだ。ちゃんと聞き取れるようにしてある」
「ふむ……発声は?」
「あ……忘れてた」

   忘れるなよ、結構重要だろ。あと、素が出てるぞ。

「魔王様、また素が」
「あ……あー、もういい!このキャラは疲れる!」

   いいのかよ……ここまで維持しといて、結構あっさり捨てたな。

「と、ともかくだ、後でちゃんと担当に付けるように言っておく」

   こうして話が一区切りついたところで、俺の後ろ側にあった道(たぶん廊下)から、レンチのような道具を持ったゴブリンが現れた。
   そして、部屋に入ってくるなり、さっき魔王を呼び出したゴブリンに近づき、ジェスチャーのような感じで何かを伝えていた。

「魔王様!また風呂が故障したみたいです!」
「わかった、すぐに行く。……すまないな、修理が終わったらすぐに戻ってくる」
「お、おう」

   風呂の修理に魔王が直接行くのか……さっきのゴブリンは工具とかいろいろ持ってたから修理専門のやつだったみたいだが、それでも直せないほど複雑な機械なのか?

   体感で30分程経った頃、魔王が大きな箱と共に戻ってきた。ちなみに、さっき居たスライムやゴブリンたちはほとんど居なくなっていた。

「お、修理は終わったのか?」
「いや、まだだ。だが、お前の身体が完成したから先に持ってきた」

   そう言うと魔王は、箱の中身を取り出し、大きな布の上に置いた。それは、元の世界のおれの身体と全く同じ見た目をしたものだった。服も、俺が持ってるシャツや上着、ズボンと見た目が全く同じものを着せてあった。

「おー……ものすごく細かく作ってあるなな。俺はこれにどうやって入ればいいんだ?」
「そういえば、まだ言ってなかったか。じゃあ、俺の言う通りにしてくれ。まずは目を閉じろ」

   俺は言われた通りに、目を閉じた。

「よし。次は、結界をすり抜けて持ってきた身体とぴったり重なるように移動するイメージをしろ」

   今度も言われた通りにイメージした。
   しかし、ちょうど重なるイメージをしたところで「うおっ」といった声や謎のうめき声が聞こえて気になり、目を開けてしまった。
   視界に広がっていたのは、何も見えない真っ黒な空間だった。

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