テンプレ幼なじみに俺は憧れを抱かない

九夜空猫

第25話 お祭り

進side

お祭り。
その起源はその名の通り、神様を祀ることである。
しかし、現代日本では、意味合いが大きく異なり、露店などが立ち並び、大きなイベントそのもののことを祭りと言う。
 
そんな、お祭りの賑やかさや、人々の笑い、露店の明るさなどに照らされ、俺は……、
「気持ち悪い……」
木陰で休んでいた。
どうしてこんなことになったのか……、
それは今から約30分ほど前に遡る……。
***

亜梨須に祭りに誘われた俺は今、寮の前にいる。
待ち合わせ時間よりもまだ少し早いので、亜梨須はまだ来ていない。

待つこと数分……、
亜梨須の部屋の扉が開き、中から亜梨須が出てきた。

「進、お待たせ」
「ん、じゃ、行くか」
「うん……」

俺はそれだけ言い、亜梨須からそっと視線を外す。

亜梨須は浴衣を着ていた。
水着の時みたいに露出している訳ではない。
ないんだが……、
露出している部分は少ないはずなのに、色気を感じてしまうのは俺の気の所為だろうか?
普段と見慣れない格好というのもあるかもしれないが、浴衣という物はどうして、こう……、アレなんだろうか?
何が言いたいのかって?
俺にもよく分からん。

まあ、亜梨須の浴衣姿は可愛かったよ。
······本人に言うと調子に乗るから絶対に言わないけどな。

***
亜梨須と祭りの場所に着いたんだが、
まさか人がこんなにいるとは……。
予想外。

「大丈夫? 進? 」
「ちょっと、大丈夫ではないな」
亜梨須との初めてのデート(仮)の時にも思ったんだが、人はどうしてこうも群れたがる のか……。
ちょっとした哲学だな。
あの大佐のセリフを思い起こさせる。

まずいな、気を抜くと意識がどこかへ飛びそうになる。

「少し、人気ひとけのない所へ行きましょ」
「あぁ、うん……」
亜梨須が俺の手を取り、人気のない所へと俺を引っ張っていく。


「うぅ、気持ち悪い」
「さすがに、これは私も予想してなかったわよ。
あんた、ウイロウモールの時はここまで酷くなかったわよね? 」

「あの時は、ここまで人口密度が高くなかったしなあ……。
後は、俺は夏休み中にほぼ一人でいたから、その反動かもしれないな」

「はあ……、まああんたがそういう奴だってのは知ってたけどねー」
「ごめんな、亜梨須。
せっかく、誘ってもらったのに」
「別にいいわよ。
それより、早く慣れて一緒に楽しみましょ」

はい。
まあ慣れることは出来なさそうなんだけどな。
 
***
そして、冒頭に戻る。
はい、というわけで、俺と亜梨須は今、
お祭りデート(仮)をしていまーす。
······まだ、始まって一時間ぐらいしか経ってないのに俺はダウンしそうだけどね。
「気持ち悪い……」
良くなるどころかますます、ひどくなってきた。
だって仕方がないじゃん……。
慣れたとしても、さらに人が来るんだから……。
段々と空が暗くなってきた。
亜梨須は俺にずっと付き合わせるのも悪いので俺の事はいいからと自由に行動してもらっている。
なんか、その時とても悲しそうな顔をしていたけど……。
いやね、さすがにこんな俺でもかなり罪悪感感じちゃったよね。

具合が悪いせいで、ネガティブな考えばかり浮かんでくる。


「あれ? そこにいるのって、もしかして進くん?」

なんか、今知っている声が聞こえた気がするんだが。

「やっぱり、進くんだー」
見知った顔が近づいてくる。

「こんな所でどうしたの? 進くん?」

うん、完全に妃愛蕾さんだね。
なんで、ここにいるの?
って思ったけど、お祭りに来てたとしても不思議じゃないよな。
うちの高校の近所の人はほとんど来るよな。
よくよく見ればさっきから、知っている人がちらちらいる気がする。

「んー、人混みに酔って、人気のない場所に避難中ー」
「そっかー。
進くんは亜梨須ちゃんと来たの? 」
あれ、なんかバレてる。
まあ、俺が一人でこんな人混みに好き好んで来るわけないしなあ。
そうなりゃ、必然的に亜梨須と来たって思うよな。
「そうだよ」
「そっかー」
そこで会話が途切れる。

······こういう時って本当に何を話せばいいんだろうな。
俺が困っていると……、

ヒュゥゥゥーーー……、
ドーーーーーーーーン!

どうやら、花火が打ち上がったようだ。

「うわあー、すごく綺麗だねえ」
「そうだなあ、綺麗だなあ」

夜空に何度も咲く花火が辺りを照らした。

「ねえ、進くん」
「ん? 」
「あのね……」



亜梨須side

進と一緒に歩きたかったなあ……。
そう思いながら、私は人混みの中を歩いていく。
本当に進ったらだらしないんだから。
······でも、人混みが苦手なのに、来てくれたのはすごく嬉しい。
進には気にするなって言われたけど、気にしない方が難しいわよね。
そうだ!
進の所に露店で買ったものを持って行って、一緒に食べればいいのよ!
うんうん、それで、一緒に見たかった花火を見れればいいなあ。

私は露店で焼きそばや焼き鳥、かき氷などなどを買って進の所へと駆け足で戻った。

***
「少し買いすぎちゃったかしら……? 」
私の両手で持った袋は二人で食べきれるとは思えないほどの量の食べ物が入っている。

急がないと、花火が始まっちゃうなあ。
辺りも暗くなってきちゃったし、そろそろだと思うんだけど……、

ヒュゥゥゥーーー……、
ドーーーーーーーーン!

その考えを見透かしたかのように、夜空に花火が咲いた。

あー、始まっちゃったか。

まあ、もう進の所に着いたからいいんだけど。

「進ー、買ってきたわ、よ……」

そこにいたのは進と、なぜか、ここにいるはずのない、妃愛蕾だった。

花火が二人を照らしている。

私は咄嗟に近くにあった木の後ろに隠れた。



いや、なんで隠れてるのよ。
私……。
別に隠れる必要は無かったでしょうに……。
私は木陰から出ようとした時、二人の会話が聞こえた。

「ねぇ、―――くん」
「ん? 」
距離が少し離れていることもあってところどころ聞き取れない。
「あのね、―――さ、―――――――――付き合ってくれないかな? 」

え?

「―――あぁ、もちろん、いいよ」

え?

「良かったあ……、断られると思ってたから」
「断らないよ、むしろ、俺からお願いしたいくらいかな」
「それじゃあ、今度……」

私はその先は聞かなかった。
その場から駆け出したからだ。

混乱した頭でめちゃくちゃに走る。
気づいた時には、寮の近くまで戻ってきていた。
周りに人気は無かった。

誰にも見られることの無いその場所で私は一人泣いた。

一人ぼっちの私を色鮮やかな花火の光が照らした。

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