テンプレ幼なじみに俺は憧れを抱かない

九夜空猫

第22話 水着ハプニング後編

進side

「「「危なかった……」」」

本当にぎりぎりだった。

もう少しで沈むところだったというか、あと少しというところで、沈んだしな……。

「とりあえず、雨宿りできる場所を探すか」
「そうだね、進くん」
「そうね、体が冷えきれないうちに早く探しましょ」
俺達は、徐々に勢いを増して降ってくる雨粒に当たりながら、その場から動きだした。

***
亜梨須side
幸いにも、雨宿りできる場所はすぐに見つかった。
大きな横穴が空いていて、そこに、入ってみると中は空洞になっていた。
その洞穴は、結構広々としていて、三人ともなんなく入ることができた。

「これから、どうする? 
なにか連絡手段を亜梨須と妃愛蕾さんは持ってるか? 」

「ううん、スマホとか濡れるといけないから全て別荘の方に置いてきちゃった……。
亜梨須ちゃんも、そうだよね? 」
「うん……」
「俺も二人と同じく、置いてきちゃったからなあ。
うーん、全く連絡手段かないし、ここで後藤さんや、ほかの船が来るのを待つしかなさそうだな」
「うぅ……、後藤さんが早く私たちのことを見つけてくれればいいなあ……」
沈黙で洞窟内が満たされる。
ときおり、上から落ちてくる水滴が地面に当たる音だけが響き続ける。

私はその沈黙に耐えきれず、
「二人ともごめん! 」
二人に謝った。

「おいおい、なんで、亜梨須が謝るんだよ? 」
「そうだよ、亜梨須ちゃん」
進と妃愛蕾さんは、困惑している。
なぜ、謝られたのか全くわからないといった様子だ。

「だって、私が、ボートに乗ろうなんて言わなきゃ……、今頃は別荘の中だったし……」

それでも、進は否定する。
「いや、亜梨須がボートに乗ろうと言ったのはたしかだけどさ、俺と妃愛蕾さんだって、乗りたかったわけだし。
第一こんなことになるなんて、予想できるはずねえだろ……。
別に亜梨須は悪くないだろ」
進は呆れたように私の方を見ている。
「うん、そうだよ、亜梨須ちゃん。
もし、悪いとしたら私たちみんなが、悪いんだよ。だから、今はなにか出来ることがないか考えよ? 

······進と妃愛蕾さんは、本当にどちらも、いい人だ。

「―――うん、そうね」

「とりあえず、今は体を温めた方がいいかもな。俺たち全員水着なわけだし」
進の言葉を聞き、妃愛蕾さんは、俯いていた顔をおもいきり上げ、
「あ! 
私、ライター持ってるよ! 」
妃愛蕾さんの声が、洞窟内に響いた。


え?


「え、ちょっと待って、妃愛蕾さん。
今さ、何を持っているって言った? 」
進は、今聞いた言葉の内容が信じられないのか、聞き返した。

当然だ。私だって、今の妃愛蕾さんの言葉には、耳を疑った。

妃愛蕾さんは、笑顔で、
「うん! 
ライターを持ってるよ! 」

「妃愛蕾さん、それをどこで……? 」

「うーんとね、さっきボートの中に色々な物が積んであったんだけどね。
その中に、ライターがあったんだー。
それでね、進くんが無人島に行くって行ってたから、一番役に立ちそうで、持っていきやすいそのライターを持ってきたの。
あ、もちろん、水に濡れないように、ボートの中にあった、ビニール袋に包んできたよ」

そう言い、妃愛蕾さんは、自分の胸の谷間に手を入れ、ビニール袋に包まれたライターを取り出した。

そこに入れてたのね……。
······別に、そこに物を入れることが出来たから、なんだっていうのよ。
別に悔しくないんだからね。
勘違いしないでよね。

私は、自分の心の中で一人で、誰かに対して、弁明をした。

「妃愛蕾さん、ありがとう! 
これが、あれば、体を温めることが出来るな。
なにか、燃やすものが洞窟内にないか、探すぞ」

***
進side
洞窟内には細かい木の枝がたくさん、落ちていたので、それを集めて、燃やすことにした。

ライターから出た火が木に燃え移り、辺りを鈍い炎の光が照らした。

俺たちは、焚き火の周りを囲むようにして、座った。

誰も火を見るだけで、何も喋らない。 
まぶたも次第に閉じていった。
俺はそのうち意識も少しずつ薄れていき……。



***
亜梨須side

「進、寝ちゃったのね」
私も段々と眠くなってきた。
「疲れたんだろうねえ。
進くん、色々と頑張ってくれたしね」

うん、本当に進はたくさん、色々頑張ってくれた。
本来、こうやって誰かを引っ張ったりするのは柄じゃないのに……。
妃愛蕾さんに、いい所でも見せたかったんだろうか?
「······亜梨須ちゃん」
「なに? 」
「亜梨須ちゃんには、言わなきゃいけないなと思ってね……」

一体何をだろう?

「言わなきゃいけない事? 」
「うん、普段あまり喋る機会もないし、今日の海での合宿を利用して言わせてもらおうと思ってたんだ」

そこで、妃愛蕾さんは、一旦言葉を区切った。
焚き火の火が弾ける小さな音だけが聞こえる。
「······その事を言う前に亜梨須ちゃんに、一つだけ、質問してもいい? 」
「うん、いいよ」
私は眠くなった頭で半ば適当に返事をする。



「亜梨須ちゃん、進くんのことが好き・・だよね? もちろん、幼なじみとしてってだけじゃなくてね。
女の子として、進くんのことを好きだよね? 」


私はその言葉で、眠かったのがいきなり吹き飛んだ!

「ふぇ!?
な、なにを!? わ、私があんなやる気のない鈍感なやつのことなんか、す、好きなわけないじゃない! 」

「ふふっ、隠さなくてもいいんだよ」
妃愛蕾さんは、穏やかな笑みを浮かべている。



「亜梨須ちゃん、私ね、多分だけど、進くんのこと好きだよ」

私はその言葉を聞いた瞬間に、固まってしまった。




「今まで、恋をしたことがないから、分からないけど、これが、好きって気持ちなんだと思う」

妃愛蕾さんから、目をそらせない。

「だからね、同じ人の事が好きな亜梨須ちゃんに、ちゃんと伝えようと思って。
亜梨須ちゃんとは、友達だけど、進くんは渡さないって」

妃愛蕾さんは、笑顔で炎の反対側から、こちらを見ている。

「うん、これはライバル宣言になるのかな? 
少女漫画とかでしか見たことないけど……」

真っ直ぐに、私の顔を見てきた妃愛蕾さんの目は、炎の光が反射して、光輝いていた。

私も彼女に真っ直ぐ向き合わなければいけないだろう。

「うん、妃愛蕾さん、私も進のことが好きだよ。
だから、絶対に進のことは渡さない。
私の幼なじみは渡さない。
たとえ、友達の妃愛蕾さんにも」

進のことを好きなのを正直に言ったのはこれが初めてなのに、言葉がすらすらと思い浮かんできた。

「そっか……。一緒だね。
じゃあ、これからは、友達でもありライバルだね! 
あのね、亜梨須ちゃん、これからは、亜梨須ちゃんのことを呼び捨てで亜梨須って呼んでもいい? 」
「うん、いいよ、妃愛蕾さん」
「ありがと、亜梨須、ん、やっぱり、まだ慣れない無いなあ……。
亜梨須ちゃんも、私のことを妃愛蕾って呼び捨てで読んで欲しいな」
「うん、分かったわ。き、妃愛蕾」
何だか、とても照れくさい。

こうして、私と妃愛蕾さんは、本当の意味での友達と正式なライバルになったのだった。

そして、夜は更けていった……。

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