Truth Of Mind

リンシア

救い

前回のあらすじ
ハクダンの森の入口で翔とバトルになった冴夢。
無事勝利を収めたが、トドメのハイパーボイスで怒ったスピアーが襲ってくる。そのスピアーを翔はゲットすることに決め、冴夢、翔はスピアーに向かう。
一方その頃、ハクダンの森の中で倒れているイーブイを発見する透と拓郎。
慌てて冴夢を呼びに戻っていく。果たして透達はイーブイを助けることが出来るのか?そしてスピアーをゲットすることは出来るのか?


〈ドーーーン〉

爆発音が周囲にこだまする。少ししてシュタ、と地面に降りる夢穂。
そこにジグザグマが素早い動きで近づく。それはやがて目にも止まらぬ速さになり、煙が晴れると共に最高速を迎えたジグザグマはスピアーに突っ込む。

〈ズドーーーン〉

今度は低い音がこだまする。
スピアーが突進され怯んだ隙にすかさずモンスターボールを投げ込む翔。
綺麗に回転がかかったボールは、スピアーに向かって一直線に飛んでいく。
そして何事もなくモンスターボールがスピアーに直撃。すぐさまモンスターボールが開き、スピアーがその中へ吸い込まれる。
運命の瞬間だ。
そのまま地面に落ちたモンスターボールが、1回、2回と揺れながら赤い光を放つ。
4人(と2匹)が固唾を飲んで見守る中、3回目が揺れる。そして…

〈カチッ〉

そのまま中からポケモンが出ることはなく、ロックされたような音を立ててボールが静止した。

「や、やった…ゲットできた!!!」
「良かったな、翔!」

柄にもなくポンと肩を叩いて同意する冴夢。本当に何があったのか、という程の仲の良さだ。
ホッ、と翔が安堵していると、夢穂が口を開いた。

「それにしても、まさかあんな作戦を思いつくとはね。びっくりしたわ」

まず高火力のハイパーボイスで一気にダメージを与える。そこにすかさずジグザグマが体当たりを打ち込み、怯んでいるところにモンスターボールを投げる。
字にすると簡単に見えるが、これを実際にやってのけるのは至難の技だ。

「冴夢、本当にありがとう!手伝ってくれて」
「そんくらい気にしなくていいよ。ほら、1回出してやれば? 」

お互いにやった、という顔をしながら冴夢がそう言うと、黙って頷いて翔は先程スピアーをゲットしたモンスターボールを宙に放り投げた。
ポーンと音を放つと青い光が宙に差し込んだかと思うと、スピアーが姿を現した。

「悪いな、手荒な真似をして」

そういってスピアーに謝る翔。もちろん内心は嬉しいが、不意打ちに不意打ちを重ねたような形だ。ポケモン側からしたら納得いかなくても無理はない。

「…気にしてない」

と一言だけいうと、黙り込んでしまった。
当然、ポケモンにも個性があるのだ。こういう無口なタイプがいることも、二人は知っていたので、そこまで強いことも言わなかった。

「まさむうぅぅーー!!」

と、突然森の方からやたら大きな声が聞こえた。
振り返るとそこには、慌てて走ってくる拓郎と透の姿があった。
顔には相当汗をかき、だいぶ疲れているのが目に見えてわかる。
たどり着いた2人は、息を荒くしながら膝に手を着いた。

「と、というか、この、人は、?」

息たえだえに透が冴夢の隣にいる見知らぬ少年のことを尋ねる。

「紹介するよ、トレーナーの翔。さっきバトルしたんだ」

よろしく、と翔も軽く言葉を交わす。
それに2人もよろしく、と言って握手を交わした。
と同時に、2人はこいつ、戦闘狂なのか?と冴夢のことを思ってしまった。が、今はそれどころではない。
それより聞いてくれ!と拓郎が言い出して、事情を4人が聞く。


ーーー少年説明中ーーー


「…という訳だ」

一通り2人が説明を終えると、皆驚いた顔をしてどうしようか、と考え込んでいた。
…ただ一人を除いては。

「冴夢?どうしたの?」

紗羅が冴夢の様子が気になり思わず声をかけたが、下を向いたまま反応がない。
まるで何かに怒りを覚えているような…心配なような…そんな雰囲気を醸し出していた。
すると突然、森の方に向かって走り出した。
今度は何かに必死になるような、そんな表情で。
5人は不意をつかれると共に、あの冴夢が、という驚きを隠せずにいた。
まだ出会って1日目とはいえ、どちらかと言えば興味が無いことには、どうでもいいことには手出しをせず、無視をするタイプのはずなのに。
なのに冴夢は、今までにないスピードで森の中へ一直線に行ったのだから。

「拓郎、透、案内頼む!!」

今までに強い口調で言われ、少し怯んだ2人だが、はっと我に帰り、わかった!と冴夢の後を追う。
それに続いて紗羅、怜那、翔の3人も後を追った。







「お兄ちゃん…!お兄ちゃん…!しっかりして…!」

一方先程のリーフィアはというと、この世の終わったような目で涙を浮かべながら必死に兄のイーブイに声をかけていた。
が、イーブイの返事はない。相当消耗しているのだろう。ピクリとも動く気配はない。
そんなイーブイを見て徐々に涙がリーフィアの頬を伝っていく。
涙が地面にポタン、と落ちた時、何故か、直感的にイーブイの死を予感した。
その感情が更に涙となって溢れ出す。収まらない。収まるはずがない。

「お兄ちゃん…!お願い、死なないで…!!」

そう言ってイーブイにもう一度近づくリーフィア。
溜まった涙がまた、今度はイーブイの体に落ちた、その時ーー

2人が入ってきた方向とは反対方向から足音が聞こえてくる。それも大勢。
もしかして人間…?と期待すると共に、リーフィアの頭の中には嫌な光景が蘇った。
それを思うと…助けを求めたいはずの心が、憎しみ、不信感に変わっていく。
怖い。やめて。これでまたお兄ちゃんに危害を与えられたら…
そんなことを考えていると、足音の根源が姿を現した。
人間…6人…?6人も…?
その人数の多さに、リーフィアは震えるばかりだった。
やめて、襲わないで…!
そう思ったリーフィアの目は再び憎しみの目となり、目に光を失っていく。

「まずいな…だいぶ重症だ…とにかくポケセンだ!近くはどこだ!」
「え、えっと…ハクダンシティ!この森抜けた街にある!」
「よし、運ぶぞ、手伝え!」

運ぶ。ポケセン…?そんな単語が聞こえたが、リーフィアにとっては恐怖でしか無かった。
どんなにいいことを言っていても結局襲われる。捨てられる。そういう不信感から、気を張るように更に目力を強くしていく。

「…このリーフィアも傷負ってるな。こっちも運ぶぞ!」

…運ぶ…?私が?お兄ちゃんまで?
それって、私たちを売りさばいてーー


そう思った瞬間、無意識的にはっぱカッターを繰り出した。
近寄るな、来るな、そういう気持ちで。
私自身、そんなにはっぱカッターの扱いがうまい訳では無い。が、人間を威嚇するにはこれでも十分だ。
何よりも、近づいて欲しくない。お兄ちゃんを守りたい。
そういう思いの積み重なりから、さらに威力があがっていくーー




「ちょっと、いきなり何!? 」

紗羅がそう言うが、原因なんて分からない。そう思っていた。

そんな中、ひとりが口を開いた。

「…人間不信、、?怖いの?」
「…?怜那?何を言って…」

口を開いたのは怜那だった。
そう、忘れていないだろうか。怜那の父は医者だということを。
そしてこの世界の医者は基本的にポケモンも理解している必要がある。
それは、それらにポケモンが関わったりする可能性もあるからだ。
そういうものを見てきた怜那にとって、推測することは難しくなかった。

「怜那。詳しく教えろ」
「詳しくも何も、そのまんまよ。何らかの理由で人間を怖がってる」

流石にこうなるとどうしようも無い。そう怜那は思っていたし、他の皆もそう思っていた。

「そうか…なら俺が何とかする」

たった一人を除いては。
そう言って冴夢はゆっくりとはっぱカッターの中に歩みを進めていく。
徐々に攻撃に当たるようになり、少しづつではあるか傷もでき始めていた。

「おい冴夢!何する気だ!」
「そうよ!こんな時に逆効果…!」

その場にいる誰もが驚いた。普通こんなことしない。ポケモンの攻撃の中に自ら飛び込むなど。だがこの時の冴夢に、理屈など存在しなかった。
大好きなポケモンに、ブイズの一員に、これ以上痛い思いなどさせる訳には行かない。
苦しい思いをさせる訳には行かない。
何とかしないといけない。
そう思うと冴夢の体は無意識に二匹に近づいていった。




なんで…?なんで近づいてくるの…?!
心の中でリーフィアは激しい混乱に飲まれていた。
こういう状況になったら間違いなく人間は引いていった。にも関わらず、この男はそんなの関係なしに突っ込んでくる。
その行動に妙な安心感と絶大な恐怖を感じていた。

「来ないでっ!!」

と言っても、普通伝わるはずがない。モンスターボールに入っていないポケモンの言葉は人間に伝わらないのだから。この世はそういうふうになっている。そんなこと知っていた。知っていても来て欲しくなかったのだ。が…

「…大丈夫、俺に助けさせてくれ」

リーフィアは驚愕した。今、明確に返事をこの人はしたのだ。
もしかしたら偶然タイミングが被っただけかもしれない。が、それ以前にその行動自体に驚きを隠せず、動揺が心の中に走ったーーー


ーーー次の瞬間、リーフィアの中に絶大な安心感が入ってくる。
腕の温かさ。何か保護してくれそうな温度。人の温もり。
気づけばはっぱカッターを打つことをやめていた。
と、次の瞬間、その温もりを帯びた、でも何か違う、そんな存在感が心の中に入ってくるのを感じた。


【シュウゥゥ…】


「…あなたは、誰?」

行き着いたのは、辺りが光に覆われた空間。
そこに、先程抱きしめてきた男が立っていた。
しばらくして、男は口を開く。

「俺は冴夢だ。お前とイーブイを助けに来た」

そう言うと、冴夢は真っ直ぐにリーフィアを見つめる。
それはこの空間と同じ、暖かい目。
守ってくれる目。
優しい目。
救ってくれる目。
無意識のうちにそう感じた。

「…ほんとに?裏切らない?」

少ししょんぼり、疑う目で見つめるリーフィア。だが、冴夢の目が変わることは無かった。

「裏切る?そんな選択肢ないさ。とにかく、話は後だ。あんた達を助ける。分かってくれるな?」

そう言われると…認めざるを得ない、という表現でリーフィアはゆっくりと頷いたーー



【シュウゥゥ…】





「おい、冴夢!」

その声にハッとして振り返る。
そこにはやたら心配そうな顔をしている5人の姿があった。
それもそのはず、外の人から見ているとさっきの状況、音と同時に眩いばかりの光を放っていたのだから。
中で何かあったんじゃ、と思わず心配した顔を浮かべていた。

「こ、この子は一体…?」
「大丈夫。俺が言い聞かせて寝かせた。とにかくポケセン行くぞ!」

そう言うとイーブイを抱きかかえ、リーフィアを急いでモンスターボールに入れると走り出す冴夢。
リーフィアとあんなことがあったとは思えないほど真剣な表情で前を見て走り出していた。
その状況に釣られるようにあとの5人は冴夢の後を追って行った…

〜To be continued〜






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