一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 初めての会合。

 書斎を調べた俺は、ミツハへ真実を伝えてしまった。
 ミツハは少し考えたいと部屋に戻り、俺も書斎に残ってもう一度部屋の中を調べる事に。
 そして朝、ミツハから食事を勧められ、時間は進んで行く。
 昼になり、ミツハの両親が家に帰宅して来たのだった。


 レグルス・ブラックブックス    (教師)
 ミツハ・セリアリス・ヴォ―ドレッド(帝国の令嬢)
 バール・ザ・ウォーリアス     (大昔の英雄)
 サマヨエラ      (ふらっとやって来た天使)
 モーランド      (ミツハの父親)
 リーリアス      (ミツハの母親)


 まだ出会っただけだというのに、この場は強烈な殺気が漂っている。
 悪魔の臭いに敏感な天使サマヨエラが放っているものだ。
 対する悪魔の方も、呼応するように瘴気のようなものを漂わせる。

「ああ、やっぱり……この臭いは悪魔のものですね。じゃあ、死ぬええええええええ!」

「な、天使だと?! むうう、来るのか天使め!」

「ただ生活しているだけだというのに、なぜこんなにまで邪魔をするのです!」

「問答無用だああああああああああ……ぐは!」

 俺は襲い掛かろうとするサマヨエラの髪を掴み、グイっと後に引っ張った。
 人にヤッテはいけないが、頑丈な天使なら何の問題もない。

「おい待て天使、これじゃあ何時も通りで何にもならないじゃねぇか。俺は一度キッチリ話してみたかったんだよ。バール、お前こいつを押さえとけ。暴れないようにな」

「へいへ~い。じゃあちょっと縛っちゃいますから、大人しくしといてくださいね」

「ぎゃああああ、バールさんまで悪魔に寝返ったあああああああああ?!」

「失敬な、俺は女の子の味方というだけです。今の所はという感じですけどね」

 バールがサマヨエラを縛っている。
 口も縛ってあるから、変な魔法とか使って妨害もできないだろう。
 一応悪魔も落ち着きを取り戻し、ミツハに視線を向けている。

 自分達の存在を知られたのかと、少し躊躇っている感じがしてならない。
 ミツハもただ見つめるだけで、何も言葉を紡ぎだせないでいる。
 一度、話合わせてやりたい気もするが、どう話が流れるかも予測がつかない。

「悪いがあの日記は読ませて貰った。これから全員で話合おうと思っているんだがな。そっちの都合はいいのかよ?」

「ああ、話をしようじゃないか。リーリアス、皆様にお茶を入れて差し上げなさい」

「はい、アナタ……」

 俺達はダイニングに通され、前に茶がおかれている。
 しかし俺にとってこの二体の……いや二人の悪魔は、ミツハよりも信用できるものではないのだ。

「おい手はつけるなよバール」

「分かってます。今までの経験からして毒を盛られてもおかしくないですからね」

「信用してくれないのですね。悲しいわ」

「…………」

 俺とバールが躊躇ったお茶に、少女の手が伸びて来ていた。
 悪魔に育てられた少女ミツハの手である。
 二つのお茶を口に運び、一気にお茶を飲み下した。

「毒、入ってません」

「お、おう……」

 コップをダンとテーブルに叩きつけられ、俺は少し面食らってしまった。
 ミツハとは敵対したくはないのだが、判断を誤ったか?

「隊長、なんて酷いことをしたんですか! ミツハちゃん、俺はちゃんと飲みたかったんですよ。信じてください!」

 さっきと言ってることが違うぞオイ。

「お前のアピールなんてどうでもいい。もう本題に入ろうぜ。俺が聞きたいのはな、悪魔がこれからも人を殺そうとするのかって話だぜ。やるってんなら戦うしかねぇんだが、この戦いに終わりはねぇぞ?」

「私達が全て敵だと思わないでください!」

 ミツハの母親リーリアスは、机を叩き怒りの表情を見せている。
 俺達だって散々魔族だなんだと追い駆けられて、その気持ちは分からなくはない。

「リーリアス、落ち着きなさい。ここからは私が話そう」

「え、ええ、分かりました……」

 母親を落ち着かせたモーランドが、厳しい表情で話を始める。

「私達はミツハを愛しています。ですから人間の殲滅には反対しています。これ以上あなた達に敵対するつもりはないので、見逃してはくれませんか?」

「俺としては見逃しても良いですけどね。その前に、この国の政策について聞きたいんですけど。なんで魔物討伐を禁止したんですか?」

「ああ、そうだ、俺もそいつを聞きたかった。国力を落とさせるってのが狙いじゃねぇのかよ?」

「そ、それは……仕方ないのです。首相と言っても、議会を回すのは私一人ではありませんから。……それと、ここだけの話、魔物の軍事利用が行われるという話もあります。必要な魔物を集める為に討伐を禁止させたのでしょう」

「ああん、軍事利用だぁ?!」

「ええ?! それが本当なら大変じゃないですか。」

 軍事利用とは、有り得ない話ではない。
 元々は王国という国が軍事利用する為に生み出したものだ。
 ま、それも実際は悪魔が勝手に作って、暴走してしまったものが魔物となった訳だが。

 それをまた軍事利用しようとは、逞しいのか情けないのかよく分からねぇ。
 これは長く生きてしまったが故の感覚だろうか。
 しかし、その選択はこの国が選んだことで、俺達に出来ることはない。
 できるとすれば、この国の首相である悪魔モーランドぐらいのものだろう。

 この悪魔に頼むというのが、どのぐらいのリスクなのかは分からない。
 だが、それしか方法がないのなら和解して頼み込むべきだろう。

「……分かった、俺達はお前達とは敵対しない。その代わりといっちゃあなんだが、その話を止める努力をしてくれ。それと、他の悪魔見つける手助けも頼む」

「待ったああああああああああああああ!」

 話がまとまるかとそんな時に、強烈な声を上げた者が居る。
 それはバールでもミツハでもなくて、縛っていたサマヨエラだった。

「隊長さん、一体何を言ってるのか分かっているんですか! 悪魔ですよ、そいつは悪魔なんですよ! 殺すべき、滅するべき奴なんです! やらないというなら、僕の手で!」

「チッ、縛りが甘かったらしいな。だが……させるかよ!」

 モーランドに襲い掛かろうとしていたサマヨエラに、俺は防御するように立ちはだかった。
 奴は俺を見ても止まる気配がなく、手には光り輝く剣を携えている。
 真の姿を現した俺は、黒衣の斬撃を翻した。

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