一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
47 英雄のにちじょう。
魔王を倒し、偽物の魔王も倒して英雄となった俺と他六人。領地を貰ったが人手が足りない町の為に、今日も外へ見回りに行く。
レティ (英雄になってしまった村人)
ストリア (前世で嫁で、今幼馴染)
ラーシャイン(前世で娘で今母親)
俺達は英雄となった。
まあ名ばかりの英雄ではあるが、英雄として名が売れれば、それに憧れる人々が町に押し寄せて来たりもする。
それと合わせて家の村の人を全員呼び寄せても、この町には人手が全然足りない。
百人にも満たない人数で護るには、王都という町は広すぎる。
それにだ。
町の近くにあるマルファーの町も、俺達の領土なのである。
あの町も人は居らず、そこも護れと言われていた。
他に町や村もあるにはあるが、手が回せないので放置状態だ。
それでも二つの町だけは護ろうと、俺達は昼夜を問わず、外へ魔物退治に出掛けているのだが……。
「あかん……これは本当にあかん。魔物湧きすぎじゃないか?」
強烈に強そうな奴は見当たらないが、中型犬ぐらいの魔物はワラワラと湧き出している。
俺達が英雄と呼ばれたとしても、実力なんてそうそう変わりようがない。
やってることは何時も通りで必死に魔物を倒すだけである。
そんな命懸けでやる辛い作業だが、今日は少し運がいい。
「私はそんな情けない男に育てた覚えはないぞ。いいから進め」
隣には娘として育て、母として俺を育ててくれたシャインが居るのだ。
魔物退治とはいえ、二人っきりで出掛けるのは久しぶりなのである。
最後の敵をバシッと退治した俺は、隣に居るシャインに褒美をねだる。
「俺だってやれるだけはやるよ。でもさ、御褒美が欲しいんだ。シャインがキスをしてくれるなら幾らでもやるからさ!」
「はぁ、そんな冗談を言えるようならまだまだいけそうだな。だがストリアちゃんが聞いたら怒るはずだぞ。冗談でも言わない事だ」
「大丈夫だよシャイン、ここにはストリアは居ないんだ! だって別の場所に行ってるからな! わっはっは!」
その言葉を言った時、俺の目が何かに塞がれた。
何かにガッチリと捕まれている感覚がする。
「ちょっと他の人に変わって貰ったんだがな。そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ。一度ちゃんと話をしないといけないようだなレティ?」
「いや待てストリア、俺に反論の機会をくれないか」
「ほぉ、言ってみろ」
「うん、その……ほらあれだ……そう、別の場所に行ってるから俺が頑張らなきゃって話だよ。うん。それだけ、それだけだって」
「フンッ!」
「ぎゃああああああああ!」
割れるような頭蓋の痛みを一分ほど感じ、そこで俺は解放された。
前世から変わらないやりとりもそれなりに心地よくはあるのだが、痛いものは痛いので痛いのである。
それに俺は生まれ変わりレティとなったのだし、ストリアと結ばれる義務も必要もない。
シャインは諦めるにしろ、別の子を選んだっていいのである。
それはストリアにしても同じなのだ。
もう家のしきたりとかもないし、昔の異名とかも気にする必要はない。
器量よしのストリアなら、別に俺を選ばなくったって男は幾らでも居るのである。
だというのに……そんなに俺が必要だと言うのだろうか?
なんだか心が引かれそうに……。
手を伸ばそうとする俺に、ストリアの手がビュンと伸びて来た。
不味い、このまま流されたら同じルート確定じゃないか。
俺はまだ若いんだし、色々経験したいんだ!
「ぬおおおおおおおお!」
俺が手を引き戻すと、ストリアの手は空を切った。
そんな俺とストリアの手を掴み、スッと手をつながせたのがシャインである。
「見ない内に随分仲良くなったんだな。私が許す、二人で夫婦になって子供でも作れ。こんな世界じゃ何時誰が居なくなってもおかしくないからな」
「は?!」
「流石は私の……こういう場合はどう言えばいいのだろう。やはりお母さんと呼んだ方が良いのだろうか? どう思うレティ?」
「知らんし! というか俺はまだ受け入れていない。まだまだ独身状態を楽しむんだ!」
俺は二人の手を振り払おうとするのだが、二人の力は全然俺を放してくれない。
もうガッチガチだった。
「心配するなレティ、私達に任せてくれれば何も問題はない。今日は優しく抱きしめてやるからな」
声がダブって聞こえるのは体が違っても親子だからだろうか?
逃げられない……。
前世から続く親子の絆が俺を逃がしてはくれないらしい。
諦めるしかないのだろうか?
俺は二人に連行されて町に戻されるのだが……。
「あ、見て、あそこに英雄様がいらっしゃるわ。あのお方がレティ様なのよね? 私ちょっと声をかけてみようかしら」
「抜け駆けはズルいわですわ。行くならみんなで」
「キャアアアレティ様あああああああ!」
という女の子達の声が聞こえて来る。
どの子も可愛くて俺のことを求めてくれている。
まだ一人に絞るべき時じゃない!
「ここで諦めてたまるかああああああああ!」
俺が生きて来た中で一番の闘志を燃やし、二人の手を振り払う。
だが、二つの手は岩のように動かない。
「「私のレティに何か用か?!」」
「い、行きましょう。あの方にはもう決まった恋人が居られるようです」
「そうですわね、おほほほほ……」
「さよならレティ様、この恋は忘れないわ」
二人に脅され睨まれた女の子達が、そそくさと逃げて行く。
世は弱肉強食時代である。
「お前がそうするであろうことは、この私が読めないとでも思ったのか? 私が、私達が何年お前と一緒に居ると思っている。もう観念して私の物になるんだな!」
「これは母親としての命令だ。ストリアちゃんに恥をかかせるな。さあ行くぞレティ、寝室に連行だ」
「ぎゃああ、おかされるうううううう!」
俺も英雄だがストリアも英雄なのである。
英雄と成ったストリアに、誰も逆らって助けてくれたりはしない。
俺は二人に引きずられ、寝室に運ばれてしまう。
だが俺とて黙ってやらているだけじゃない。
いずれ訪れるこんな日の為に、この部屋には色々と仕掛けを作っているのだ。
ベッドの横にある回転扉から華麗に逃げ出した俺は、今日の日を生き延びたのだった。
また何時こんな日が訪れるとも限らない。
俺は決意を新たに、恐るべき日々を生き延びていくのだった。
END
レティ (英雄になってしまった村人)
ストリア (前世で嫁で、今幼馴染)
ラーシャイン(前世で娘で今母親)
俺達は英雄となった。
まあ名ばかりの英雄ではあるが、英雄として名が売れれば、それに憧れる人々が町に押し寄せて来たりもする。
それと合わせて家の村の人を全員呼び寄せても、この町には人手が全然足りない。
百人にも満たない人数で護るには、王都という町は広すぎる。
それにだ。
町の近くにあるマルファーの町も、俺達の領土なのである。
あの町も人は居らず、そこも護れと言われていた。
他に町や村もあるにはあるが、手が回せないので放置状態だ。
それでも二つの町だけは護ろうと、俺達は昼夜を問わず、外へ魔物退治に出掛けているのだが……。
「あかん……これは本当にあかん。魔物湧きすぎじゃないか?」
強烈に強そうな奴は見当たらないが、中型犬ぐらいの魔物はワラワラと湧き出している。
俺達が英雄と呼ばれたとしても、実力なんてそうそう変わりようがない。
やってることは何時も通りで必死に魔物を倒すだけである。
そんな命懸けでやる辛い作業だが、今日は少し運がいい。
「私はそんな情けない男に育てた覚えはないぞ。いいから進め」
隣には娘として育て、母として俺を育ててくれたシャインが居るのだ。
魔物退治とはいえ、二人っきりで出掛けるのは久しぶりなのである。
最後の敵をバシッと退治した俺は、隣に居るシャインに褒美をねだる。
「俺だってやれるだけはやるよ。でもさ、御褒美が欲しいんだ。シャインがキスをしてくれるなら幾らでもやるからさ!」
「はぁ、そんな冗談を言えるようならまだまだいけそうだな。だがストリアちゃんが聞いたら怒るはずだぞ。冗談でも言わない事だ」
「大丈夫だよシャイン、ここにはストリアは居ないんだ! だって別の場所に行ってるからな! わっはっは!」
その言葉を言った時、俺の目が何かに塞がれた。
何かにガッチリと捕まれている感覚がする。
「ちょっと他の人に変わって貰ったんだがな。そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ。一度ちゃんと話をしないといけないようだなレティ?」
「いや待てストリア、俺に反論の機会をくれないか」
「ほぉ、言ってみろ」
「うん、その……ほらあれだ……そう、別の場所に行ってるから俺が頑張らなきゃって話だよ。うん。それだけ、それだけだって」
「フンッ!」
「ぎゃああああああああ!」
割れるような頭蓋の痛みを一分ほど感じ、そこで俺は解放された。
前世から変わらないやりとりもそれなりに心地よくはあるのだが、痛いものは痛いので痛いのである。
それに俺は生まれ変わりレティとなったのだし、ストリアと結ばれる義務も必要もない。
シャインは諦めるにしろ、別の子を選んだっていいのである。
それはストリアにしても同じなのだ。
もう家のしきたりとかもないし、昔の異名とかも気にする必要はない。
器量よしのストリアなら、別に俺を選ばなくったって男は幾らでも居るのである。
だというのに……そんなに俺が必要だと言うのだろうか?
なんだか心が引かれそうに……。
手を伸ばそうとする俺に、ストリアの手がビュンと伸びて来た。
不味い、このまま流されたら同じルート確定じゃないか。
俺はまだ若いんだし、色々経験したいんだ!
「ぬおおおおおおおお!」
俺が手を引き戻すと、ストリアの手は空を切った。
そんな俺とストリアの手を掴み、スッと手をつながせたのがシャインである。
「見ない内に随分仲良くなったんだな。私が許す、二人で夫婦になって子供でも作れ。こんな世界じゃ何時誰が居なくなってもおかしくないからな」
「は?!」
「流石は私の……こういう場合はどう言えばいいのだろう。やはりお母さんと呼んだ方が良いのだろうか? どう思うレティ?」
「知らんし! というか俺はまだ受け入れていない。まだまだ独身状態を楽しむんだ!」
俺は二人の手を振り払おうとするのだが、二人の力は全然俺を放してくれない。
もうガッチガチだった。
「心配するなレティ、私達に任せてくれれば何も問題はない。今日は優しく抱きしめてやるからな」
声がダブって聞こえるのは体が違っても親子だからだろうか?
逃げられない……。
前世から続く親子の絆が俺を逃がしてはくれないらしい。
諦めるしかないのだろうか?
俺は二人に連行されて町に戻されるのだが……。
「あ、見て、あそこに英雄様がいらっしゃるわ。あのお方がレティ様なのよね? 私ちょっと声をかけてみようかしら」
「抜け駆けはズルいわですわ。行くならみんなで」
「キャアアアレティ様あああああああ!」
という女の子達の声が聞こえて来る。
どの子も可愛くて俺のことを求めてくれている。
まだ一人に絞るべき時じゃない!
「ここで諦めてたまるかああああああああ!」
俺が生きて来た中で一番の闘志を燃やし、二人の手を振り払う。
だが、二つの手は岩のように動かない。
「「私のレティに何か用か?!」」
「い、行きましょう。あの方にはもう決まった恋人が居られるようです」
「そうですわね、おほほほほ……」
「さよならレティ様、この恋は忘れないわ」
二人に脅され睨まれた女の子達が、そそくさと逃げて行く。
世は弱肉強食時代である。
「お前がそうするであろうことは、この私が読めないとでも思ったのか? 私が、私達が何年お前と一緒に居ると思っている。もう観念して私の物になるんだな!」
「これは母親としての命令だ。ストリアちゃんに恥をかかせるな。さあ行くぞレティ、寝室に連行だ」
「ぎゃああ、おかされるうううううう!」
俺も英雄だがストリアも英雄なのである。
英雄と成ったストリアに、誰も逆らって助けてくれたりはしない。
俺は二人に引きずられ、寝室に運ばれてしまう。
だが俺とて黙ってやらているだけじゃない。
いずれ訪れるこんな日の為に、この部屋には色々と仕掛けを作っているのだ。
ベッドの横にある回転扉から華麗に逃げ出した俺は、今日の日を生き延びたのだった。
また何時こんな日が訪れるとも限らない。
俺は決意を新たに、恐るべき日々を生き延びていくのだった。
END
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