一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

44 小さく大きな物語75

ルキと話し、色々とラヴィ―ナ様の戦い方などを言聞いた俺達。対策は充分だと隣の城へ向かって行った。城に入ると、広いエントランスの中央に、ラヴィ―ナ様が仁王立ちで待っていた。俺達は説得を試みるも、死んで魔王として名を刻まれたいとか、そんな人を説得するのは無理だった。もう倒すしかないと、ラヴィ―ナ様との戦いが始まった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)
ラヴィ―ナ  (王国の王)


「ぬおおおおおおおおおおお?!」

 俺は接近するラヴィに剣を合わせ、そのまま振り下ろすのだが、剣の腹を左腕で払われた。
 そのまま開いている右の拳が、俺の体へ迫って来る。

「レティ!」

 ストリアはその右腕に剣を落とすのだが、ラヴィはほんの小さな金属部分でその攻撃さえ受け止めてしまう。
 そのまま止めた剣を掴かみ、それを軸に体を捻って剣の奪取と共に、俺に向かって蹴りを放ってきた。
 ガードを……と、俺は腕を上げてそれを防ごうとしたが、嫌な予感が俺を背後に後退させる。

 その一瞬後、足の先が俺の顔の前を通り過ぎて行く。
 蹴りは当っていなかったはずである。
 だというのに、俺の髪の毛がバッサリ切れ落ち、薄く切り傷までが残された。
 あのまま受け止めていたら、腕がどうなっていたのか分からない。

 たった一瞬ではあるが、ラヴィの実力が本物なのだと理解できた。
 しかもまだ魔法を使っていないのだから、まだまだ底がしれないようだ。
 まだ攻撃の手を止めようとしないラヴィだが、こちらには優秀な後衛が控えている。

 ラヴィに奪われたストリアの剣は、遠く後へと捨てられた。

「二人共、援護するよ。行って、フリーズラビット!」

 リッドから放たれた氷の兎は、地を蹴り空中を跳ねて動きを変える。
 逃げるラヴィを追い掛けて、必中するまで動きを止めることはない。

「クッ、追って来る。でも、氷魔法程度、この魔王ラヴィ―ナ様には効かない! 爆炎を纏え、フレイムハンド!」

 ラヴィはその呪文を唱えると、自分の手をよりも大きな炎の腕が現れた。
 その炎の腕で氷の兎を捉えると、二つの魔法が交わる。
 氷の力は炎に負けるが、勝った炎も熱を奪われ力を失った。

「ここだあああああああああああ!」

 だが、片手を防御に回したラヴィに、俺は背後から迫る。
 同時に動くストリアは、捨てられた剣を拾い、俺と別の方向から攻撃を仕掛けた。
 俺の剣はラヴィの背を捉えたが、皮一枚という所で躱される。
 そのまま横を取られ、ストリアの進路を防がれてしまった。
 ラヴィの拳が向かって来る。

「不味い!」

 蹴りであの威力なら、この拳も相当にヤバイだろう。
 だが俺の体勢は躱せるような状態ではなかった。

「フリーズラビット!」

 氷の兎がラヴィの横ろから迫っている。
 ラヴィはそれに気づき、俺への攻撃は中止される。
 拳は空を切り、勢いをつけ身を縮めると、俺の足を払った。
 俺は倒れ氷の兎へ……。

「うぉお?!」

 きっと大丈夫。
 兎を操るのは信頼するリッドだ。
 俺は倒れながらも腕を伸ばし、下に居るラヴィを斬りつけた。

「うぐッ」

 ザンと当たった初めての攻撃は、ラヴィの右肩に切り傷を残す。
 これでダメージを与えられたが、そこまで深い傷にはなっていない。

 氷の兎はというと、俺を回避して、跳び起きたラヴィに走って行く。
 俺はというと、攻撃に集中していた為に受け身も取れず、思いっきり背中を打ち付けてしまった。
 どちらかというと、俺の方がダメージを食らっている気がする。

「この魔王ラヴィ―ナ様を相手に善戦するとはな。それとあの兎だ。まず貴様から倒すべきだろうな」

 ラヴィが見ているのは、後方に居るリッドだった。
 あちらに行かせたら不味い。
 リッドでは動きに対処できないだろう。

「リッド、注意しろ。狙われているぞ!」

「わ、わかったよ」

「彼方に行かせるものか!」

「フッフッフ、確かにそのリッドという奴から倒せば楽に全員倒せるだろう。しか~し! 魔王であるラヴィ―ナ様は、そんな姑息なマネはしないのだ! 正面から打ち破り、全員叩きのめすのみ! この最強……に程近いラヴィ―ナ様の本気を見せてやろう!」 

 ラヴィが両の拳を打ち付け合い、何かしらの魔法を唱えている。
 ルキから聞いていた溶岩の魔法だろうか?

 だがそんな魔法を使わせないと、俺とストリアは走り剣を振りかぶる。
 しかし二つの剣の攻撃は、ラヴィには当たらない。
 ステップのみで二つの剣を躱し尽くすと、唱えていたラヴィの魔法が完成する。

「……大地に眠る蠢くものよ……我が腕に宿り権限せよ……さあ、焼き食らうが良い悪食の両腕よ! マグマ・ガントレットオオオオ!」

 ラヴィの両腕が砂に覆われ、ドロドロの溶岩へと変わっていく。
 その腕からは炎が吹きあがり、離れていても熱を感じた。
 あんなものに掴まれたらどうなるか……いや、攻撃を当てても剣の方が駄目になりそうな予感がする。

 それに、間抜けにも自分の体を焼くようなことにはならないようだ。
 接近するのは不利だと、俺とストリアは後方に下がった。
 だがその力の発動に、リッドだけは対応を済ませていた。

「フリーズラビット!」

 またも発動した氷の兎は、ラヴィの隙を窺うように、動きを変えてフェイントをかけている。
 何時までも動き続ける兎に、注意を払うのは面倒なはずだ。
 俺はそう思っていたのだが、兎の体が少しずつ溶け始めている。

 辺りに漂う熱が氷の体をを溶かしているらしい。
 それを知ってか知らずか、ラヴィはただ前進している。

「ハッハアアアア! これがッ、魔王の力だああああああああああ!」

 その言葉と共に熱量が増し、氷の兎は水になってしまう。
 氷の兎が無力化されてしまってはリッドの攻撃力が相当落ちてしまう。
 だが、リッドの魔法はこの魔法しかないという訳ではない。

「ウォーターボール・バースト!」

「なにぃ?!」

 リッドが使ったのは、飲み水を作る魔法だ。
 本来丸いままで浮かせるのだが、今回はラヴィの上空に作り出し、そこで水の玉が弾けた。
 例え溶岩でも、水で冷やしてしまえばただの岩である。

 この一回で冷えるとも思えないけど、やらないよりは確実にマシだ。
 そのラヴィは直ぐに水から脱出したが、全身ずぶ濡れになっている。

「貴様、このラヴィ―ナ様を濡らすとは、随分エロい奴だ! そんなに濡れた肢体を眺めたいというのか?!」

「ち、違うよ! そういう積もりじゃないんだよ!」

「…………」

「レティ、何かおかしなことを考えていないだろうな?」

「こんな時に考えてないわ!」

 しかし良い体をしているとは思う。
 いやいや、今は戦いのことだ。
 ラヴィは水を浴びて、炎の力がかなり弱まっている。
 それでも素手で触るのは無理そうだが。

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