一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

40 小さく大きな物語71

ブラちゃんがストリアに求婚するが即座に振られる。何故か俺に敵意を迎えて、決闘を申し込まれた。だが俺は断ったのだが、今度はバール達がブラちゃんに襲い掛かろうとしていた。これじゃ駄目だと、俺は間に入って説得したのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)
ブラグマガハ(ドラゴンの人)


「うむ、じつはな……」

 ブラちゃんから村の事情を聞くと、この王国の王は、他国の進行の気配を察知していたらしい。
 何度も戦火を経験したこの国は、情報というのをおろそかにしなかった。
 自国の兵を他国に入り込ませて、情報を得たりとか色々していたらしい。
 そしていよいよ来そうな雰囲気を察知して、この村人や他の民を世界全体に移住させていると。
 俺達が知らせなきゃと意気込んでいたのが馬鹿みたいだ。

「でもどっちみち戦争が止まらないんじゃどうにもならないじゃん」

「ラヴィ―ナ女王陛下はその程度のこをはお見通しであるぞ。国力の落ちた王国では、この戦いに勝っても負けても大打撃であるからに、自らこの国の消滅を望まれたのだよ。国も民も居なければ、誰の犠牲も出さずに済むのだからな」

「はぁ? 国がハイお終いで終われるのかよ? 向うだって納得しないだろ。きっと探し出されて最後には……」

「そこでだ、お前達を英雄にしてやろう。断ることはできんぞ、これは決定事項だ」

「何を勝手な……」

「英雄……詳しく、話しを聞かせてもらうわよね!」

「ふっ、英雄となれば挑み掛かって来る奴もでてくるわよね? やってやるわよ!」

「英雄なら女の子と遊び放題……やろうレティ!」

 バールの馬車の組は、全員やる気らしい。
 しかし内容も分からず頷いて良い物じゃない。

「おおい、勝手に了解するなよ。何やらされるか分からないんだからさ」

「まあおかしなことに巻き込まれるとも限らないし、話しを聞いてからの方が良いわよね。えっとブラちゃん? 作戦を聞かせてくれないかしら?」

 リーゼさんがブラちゃんに話しを聞こうとしている。

「ブラちゃんブラちゃんと軽く呼ぶでないわ。……もういい、教えてやろう。戦争が起こる前に、英雄が王国を解放するのだ。そうなれば攻め込まれる意味もなくなるだろう」

「その英雄として俺達が選ばれたわけか。何で俺達がって聞くまでもないか。この国出身のバールがいるし」

「それだけではないぞ。かつてこの国を救った勇者殿とそのご子息。我が国最強であるフレーレ殿のご息女様。マリア―ドの宮廷魔導士と、最強を目指すバールの娘。そして、偽物の王子殿」

 ブラちゃんは一人ずつ目で追いながらその言葉を発している。
 ストリアの母ちゃんが最強だったとは知っているが、リーゼさんが勇者とはなんだろう?

 いやそれよりも、偽物の王子とは何のことなのか?
 色々と聞きたい事があるのだが、俺達は王国にとって都合の良い存在だったのだろう。

「なぁ、それってどういう意味なんだ?」

「何だ、聞かされていないのか? お前はな、前王のイブレーテ様の子息の……」

 俺は王子に成り代わろうとした、誰の子さえ分からない赤子だったという。
 そこで活躍したのが俺のシャインと、そこに居るバールだと、他に何人かだという。

 俺は生まれながらに、この国にとっての災厄だったのだろう。
 別に俺が自分の意思でやったわけでもないのに、勝手に敵にされるとかなんて話だ。 
 だがそれでも、今更知った所でどうにもならない、ただの昔話である。
 
「で、俺は復讐しに来たとかそんな感じの設定なのかよ」

「うむ、細かく言えば、偽王子が自分が本物だと思い込み、仲間を募って王国を取り戻すという設定だな。王都に残られたラヴィ―ナ様を打ち倒して……そして、英雄と成れ」

「打ち倒しって……俺達にその人を殺せって言ってるのかよ!」

「首をもち英雄となれば、この国を領地として治める事ができよう。そうなれば民がこの国に戻る道筋ができるというものだ。たった一人の王の犠牲でな。安心しろ、お前達が英雄としてまつり上げらる手筈は整っている。悪いようにはならん」

「そんなのできる訳が……」

「いえ、やりましょうレティ君、今はそれしか方法がないわ」

「でもさ、俺達が殺すんだぜ! その王様をさ!」

「レティ君、私達が断ってしまったら、三国の兵が攻め込んでくるわ。そうなればその人は間違いなく死ぬでしょう。命乞いをしようと何をしようとね。彼女にとっての最後の自由は、誰に殺されるのかだけなのよ。レティ君、最後の願い、聞いてあげたいとは思わない?」

「……わかんね。俺には分かんないけど、人を殺して良いなんて言いたくない。だってその人悪者でもなんでもないんだろ?!」

「母さん、僕も出来ないよ……やりたくないよ……」

「私は……」

 リッドとストリアも乗り気ではないらしい。

「……そうよね、子供に任せる仕事じゃないかもしれないわ。……じゃあ私に任せておきなさい! 皆はここで待っててね!」

 リーゼさんはそう言って馬車に乗り込んでだ。
 そして、バールとジャネスの姉ちゃん、チェイニーまでもがそれに同行するようだ。

「ブラちゃん、三人のことを宜しくお願いね」

「うむ、承った。まあ多少予定とは違うが、これで良しとしよう。では頼むぞ」

「ええ、行って来るわ」

「レティ、待っていてくれ俺が終わらせて来てやる」

「まあお姉さんに任せときなさい。ぶっ倒して来てあげるわ!」

 リーゼさんに続き、バールとジャネスの姉ちゃんも自分の馬車に向かって行く。
 そしてもう一人、俺達よりも小さいチェイニーまでもリーゼさんの乗る馬車に乗り込んだ。

「私は戦争を止めるのが使命なのだわね。一人で済むというならそれも止む無しだわね! そこで待っていなさいあまちゃん達」

 チェイニーがそう吐き捨てて、四人が二つの馬車で出発して行く。
 二つの馬車を使うのは、俺達が追って行かない為だろうか……。
 動くのに迷ってしまった俺達は、それを見守るしかなかった。

「…………」

 俺は卑怯者だ。
 勝手な正義感で動く事も出来ず、リーゼさん達にそれを押し付けてしまった。
 ここまで来た俺達は絶対に行くべきだったのに。

 だがもう遅い。
 進む足は無くなってしまった。
 暫く立ち尽くした俺に、リッドが声を掛けて来る。

「レティ、僕達本当に待っていていいのかな……」

「走ったってもう間に合わないし、今更言ったってどうにもならないだろ」

「二人共、喧嘩するのはまだ早い。本当に行きたいのなら手はある。そいつに乗って行けばいいだけの話だ」

「むっ、我を使う気か?!」

 ストリアが指さしたのは、俺達を護ると言ったブラちゃんである。
 ドラゴンであれば、安全に移動できるし、先に到着できるかもしれない。

「……行こう。ここに居たら何にもできない。その場に居れば、他の方法を試せるかもしれない!」

「よかろう、では我の背に乗せてやろう! この背に乗れる事、光栄に思うがいいぞ!」

 ブラちゃんが大きなドラゴンへと姿を変える。
 俺達はその背にまたがり王都へと向かったのだった。

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