一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

39 小さく大きな物語70

王国の領地に入った俺達は、新な村に到着したのだが、その村には誰も存在しなかった。仕方なく王都へ向かおうとするも、空から黒っぽいドラゴンが現れた。訳が分からない内に戦闘となり、俺は三人を説得したのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)
ブラグマガハ(ドラゴンの人)


 ブラちゃんは落ち着きを取り戻し、人の姿へと変わっていた。
 ダンディなオッサンという感じで、あのドラゴン形態よりは話し易い。
 だがそんなオッサンも、ストリアの前で膝まづいて格好つけている。

「このお方がフレーレさんのご息女か……ならば話は早い、この私と結婚していただきたい!」

「断る!」

 ブラちゃんの告白にも、ストリアは一瞬で断ってしまった。
 あんなドラゴン相手にも怯まないとは根性が座っている。
 いやそれよりも、ドラゴンの年齢というのがどうかはしらないけど、ずいぶんと歳の差があるストリアを誘うとは……。

「あの、ストリア殿、もう少し考えてもいいのではないだろうか? 我は相当に優しいし、記念日などは絶対忘れたりせぬぞ」

「誰が蜥蜴の嫁になるものか。私はレティともう結ばれているんだ、他の奴を当たるんだな」

「何いいいいいいいい?! 貴様はストリア殿の体を弄んだのかあああああああ?!」

「違う違う違う違う」

 おい、俺を巻き込むんじゃない。

「師匠がフレーレの娘か。何だか運命を感じるわね。まあ私はトレーニングしてるから、戦いになったら呼んで頂戴」

「ああもう何なのこの茶番は、こんなのに付き合ってられないのよね!」

 姉ちゃんとチェイニーは興味すらないらしい。

「母さん、僕達はどうしようか?」

「まあ見守っていればいいんじゃないかしら?」

 誰一人この茶番に付き合ってくれないようだ。

「我と決闘しろ! もし負けたらストリア殿を諦めてもらうからな!」

「レティと戦うというのならば、この俺も相手になろう」

「はぁ?! 戦うのなら私もやるわよ! ぶっ飛ばしてあげるわ!」

 バールと姉ちゃんが手を貸してくれると言うが、ドラゴンなんて相手にしたいとは思わない。

「無理無理無理無理! やりたいなら三人でやってろよ。というかドラゴンなんだからドラゴンの女と結婚すればいいじゃん。というかそれが普通だろ。なんでわざわざ人間と結婚するんだよ」

「ふっ、貴様は知らぬのだ。雌のドラゴンは気性が荒くてな。奴等と契ろうとするならば平気で腕の一本や二本食われてしまうのだぞ。そんなの怖いではないか! それにな、この世界にドラゴンはこの我一人しか存在していないのだよ。諦めるしかないではないか」

 このドラゴン、見た目に反して案外弱かったりするのではないのだろうか?
 まあドラゴンの中でいくら弱かろうと、俺が勝てるという保証なんてない。
 ただの気のせいである。

「それでどうするのだ。やるのか、やらないのか!」

「ああ、やらないよ。どう考えても勝てないし」

「ふん、ただの腰抜けだったか。ではストリア殿、我と一緒に参りましょうぞ」

 ストリアがスタスタと歩いて行く。
 まさかこのまま連れ去られてしまう?

「待てストリア、そいつに付いて行くな!」

「ふっ、いくら呼ストリア殿を呼んだところで……いたああああああああい!」

 止めなければと俺が手を伸ばした時、ストリアの拳がブラちゃんの眼球に直撃した。
 ドラゴンと言っても眼球直撃では痛がるのも無理はない。

「私が欲しいというのなら、腕の一本や二本程度で済むと思うなよ? 貴様の下腹部を引き千切って、二度と使えぬようにしてやろうか?」

「うひいいいいいいい!」

 ブラちゃんが股間を押さえて怯えている。
 気性の荒さならストリアも相当なものだろう。
 俺は手を引っ込めて成り行きを見守る事にした。

「わ、分かった。この我としても嫌がる娘と無理やりとか、そういう状況を望んでいるわけではない。キッパリ諦めるとしよう。しかしそうだな、ただ諦めるのでは我の心情的にもできはしない。どうだろう。二人の接吻でも見せてくれれば即座に諦めるのだがな」

「そうか、では仕方ないな。早速するとしよう」

 ストリアがその言葉に促され、こちらに向かって来ている。
 接吻を実践するつもりなのだろう。
 逃げようとする俺の頭をガッチリと両手で掴まれた。

「待て、俺はやると言っていない! うおおおおおおおお?!」

「大丈夫だ、私がリードしてやるからな」

 リードとか言って自分もした事がないくせに。
 ストリアの手が俺の頭をガッチリと押さえている。
 力強く、抵抗して逃げようがない。

 だが、ストリアが暴走するのは良くあることだ。
 俺はこんな時の対処方を知っている。
 迫って来る顔に対して、俺は脇腹の辺りをさすってやった。

「ひゃああああん」

 相当に可愛らしい声を出し、ストリアの力が抜けて行く。
 俺はその間にサッと身を躱し、無事立ち上がったのだった。
 ストリアが恨めしそうな顔をしている。

 さっさと話題を変えなければ。
 だが俺が言葉を発する前に、我慢できなかったチェイニーが怒り出した。

「この茶番は一体何時までつづくのよね! いいこと、この村の惨状がどうなってるのか知ってることを言うのよね、エロドラゴン!」

「いやいやお嬢ちゃん、本来この私はエロい男ではないのだよ。その辺を勘違いしてはいけないよ。いいかね、この我は上位種の竜であるから……」

 子供相手だからと、ブラちゃんは優しく言い聞かせようとしているが……。

「そんなどうでもいい事は、どうでも良いのよね! 言わないのなら実力行使で言わせてやるのよね!」

「……バールよ、我はふと思ったのだが。この世界の女というのは、こんな戦闘狂の奴等しかいないのだろうか?」

「今更?! 結構長く住んでるんだから、もっと早く気付いてほしかったぞブラちゃん」

「だから、言いなさいって言ってるだわね! 言わないんなら……ドラゴンサイクロン!」

「おっ、やるっていうなら私もやるわよ! はっはー、戦いだわ!」

「ふむ、このまま付きまとわれても面倒だ。今決着をつけるのも悪くないな」

「ぬうううううううう、穏便に話し合ってるというのに、何て狂暴な奴等だ」

 いきなり襲われて戸惑っているブラちゃん。
 同情せざるを得ない。

「ふぅ、若いっていいわよね。私ももう少し若かったら行ってたんだけど、歳かしらね?」

「母さん?!」

 一度は落ち着いたというのに、なんかまた滅茶苦茶になってきている。
 このままでは話を聞く所ではない。

「ちょっと待ったあああああ! 三人共落ち着いて話し合おう。ブラちゃんが可哀想だろ」

 俺はブラちゃんを庇い、三人の前に立ちはだかった。

「お主、まさか我の事を好いて……残念だが我は女の方がいいのでな。諦めてくれぬか?」

「違うわ! お前だって女と争いたくないだろ。サッサと知ってる事を話せよ」

「確かに、じつはな……」

 俺は、やっとのことで話を聞く事が出来たと安心したのだった。

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