一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

35 大魔獣撃滅戦。

城で治療を受けた俺は、寝ていた馬鹿兄弟を叩き起こして再び戦へ向かって行く。戦いはこちらが押しているのだが、ダメージとしては通っていなかった。あの硬い外皮を破壊しなければどうにもならないと、エルとシィヴァの力で頭の外皮を破壊した…………


ベノム      (王国の兵1)
ゲオルム・ファウス(悪魔ゲルトハイム)
シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
フルールフレーレ(王国の最強兵士)
サミーナ    (酒好き兵士)


 魔獣の硬い外皮に亀裂が入った瞬間、天動兵器アストライオスにより強烈な斬撃が入った。
 その強烈な一撃は、二つの頭に同時にぶつけられ、ひび割れた硬い外皮をバラバラに破壊する。
 魔獣の頭二つは、皮膚の下の赤い肉が見えていた。
 あれならば攻撃も通りそうだ。

 しかし魔獣の奴も、自分の危険を察知して、腕でアストライオスの攻撃を防いでいる。
 だったら俺達が行くしかないだろう。

「テメェ等二人も悪魔に操られて災難だが、話し合いもできやしねぇ。もし改心しても国で暮らして行くのは無理だぜ」

「なんだ、俺に言ってるのか?」

「テメェじゃねぇよ! 目の前の奴等に言ってるんだ! ……奴等だってこの国の民には違いねぇ。本当なら護ってやるべきだが、あの体じゃあ住まわせてやることも出来やしねぇからな。お前だって言う事ぐらいあるんじゃねぇのかよ?」

「そうだな、確かに俺は民の為に戦った。だがそれもこの国があるからこそなのだ。奴等を護って国が無くなったでは話にならん。悪いが害獣として始末させてもらう」

「そうかよ。どの道やるしかねぇんだけどな。……じゃあ俺がやらせてもらうぜ」

「誰がお前なぞにやらせてやるか。止めは俺がやってやる!」

「そんなフラフラでできんのかよ。見ているだけでいいんだぜ?」

「俺はもう充分に回復している。先に行かせてもらうぞ!」

「あっ、コラ、俺より先に行くんじゃねぇよ!」

 シィヴァは右の首へ向かっている。
 だったらと、俺は左の頭を狙い動き出す。

「おおおおおおおおおおおおおッ!」

 奴の頭上へと突撃し、肉の見えた頭へと斬撃を繰り返した。
 硬い外皮が無くなった今、俺の斬撃は止まらない。
 斬撃は傷を増やし、その傷は更に深い傷へと変わっていく。
 手を出さず見ていた仲間も、俺の突撃に合わせて攻撃を開始している。

 こうなってしまえば、もう止められる術はないだろう。
 頭はドンドンと破壊され、そして……。

「これで、どうだああああああああああ!」

「グオオオオオオオオォォォォォォ…………」

 頭の内に潜り込んだ俺は、生き物の中核を司る脳へとダメージを与える。
 その一撃により、左の頭は機能を停止した。
 これで残りは一つ。
 シィヴァの方はどうなっている?

「……気にするまでもなかったな。全く、強情な奴だぜ」

 丁度今、もう一つの頭が崩れ落ちるところだった。
 これでこの魔獣は退治できたと喜ぶのは早い。
 頭が二つなくなっても、まだ魔獣は動き続けているのだ。

 まだ魔獣の中には、まだ悪魔が潜んで居る。
 奴を倒さなければ決着はつかない。
 倒すには……

「あの厄介な煙は無くなっているよだな。じゃあ体の中からぶった斬ってやるぜ! うおおおおおおおおおおおら!」

 頭の天辺から侵入した俺は、魔獣の体内を刻み尽くす。
 奴がどこに潜んでいようと、全部斬っちまえば問題はない。
 首を下って胃を貫き、心臓を斬り裂きなおも下がる。
 やれるだけやった俺は、入って来た場所から脱出したのだった。

「……ハッ、如何だこの野郎!」

 あれだけやったというのに、魔獣の体は動きを止めていない。
 しかし魔獣へのダメージはあるようで、動き自体は鈍くなっていた。
 そして、もう視界すらないというのに、足を進めて城へ向かっている。

「クソッ、まだ動くのかよ。もう一度やってやるか?」
 
「ふん、やはり貴様では無理だったらしい。では我等兄弟が最後の止めを刺してやろう。行くぞハーディ!」

「おおおおおおおおお!」

『現れよ、水と大地の力よ!』

 二人はその力を束ねている。
 魔獣の上空では砂と水が混じり合い、形を変えて巨大な槍が造り出された。
 槍は魔獣の体半分はあるかという物で、重さを得たように地上へ落下していた。
 二つの首の中心に落ち、ズタズタになった体の内部へと沈んで行く。
 頭が一つ増えた様に見えるが、魔獣は体を動かし続けている。
 一応足を止めるぐらいはしたらしい。

「はん、どうやらそれでも駄目だったらしいな」

「クッ、しぶとい奴だ」

「まああとはアストライオスにでも……あ? あれは……」

 魔獣の後方から、相当な速度で何者かが走って来ている。
 近づくにつれて、それが誰か見えて来た。
 白髪で腹を膨らませた女性は、まあ俺の知っている奴だ。
 こんな戦闘があるなら自分から頭を突っ込む様な奴だが、まさか子供を産もうというこんな時期に来るとは思わなかった。
 フレーレは魔獣の背中を軽く登り、槍の柄の最上部にまで跳びあがる。

「とりゃああああああああああああ!」

 そこに到達したフレーレは、強力なんて生ぬるい破滅的な拳を立っている槍へ叩きつけた。
 普通なら大きさの値も違うような巨大な槍を動かせもしないのだが、拳の力は強烈な速度で槍を動かす。
 そのまま頑丈な外皮までを突き破り、魔獣の体を串刺しにしてしまった。

「うん、絶好調ねー! じゃあ他の相手はどこー? 遠慮せずにかかってらっしゃーい!」

 魔獣は槍の一撃で動きを止めている。
 もう命を失ったかのようだ。
 俺はハァッとため息をつき、喜ぶのも馬鹿らしくなってしまった。
 まあ兎に角、あの妊婦さえ居ればこの国は安泰だろう。
 俺は地面に降り立ち、尻もちをついて休んだのだった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 夜。
 戦いも終わり、住人さえ居ないこの王国の中、たった二人が目を光らせている。
 ゆっくりと呼吸をして、見つめているのは魔獣の体だ。
 これの処理にも相当な時間が掛かるだろう。
 上にある槍も邪魔くさいし。
 今ここに居るのは私達二人の親子、サミーナとバルバスだ。

 魔獣の体は冷たく、もう動きさえみせていない。
 それでも悪魔の死は確認していないのだ。
 その死が確定するまで、私達は油断さえしない。
 それが追跡者としての私の矜持である。

 だが何一つ動きのないまま日をまたぎ、太陽が朝を創り出そうとしている。
 このまま何も起きないのだろうか……それならそれでいいのだけど……。

「……!」

 太陽の光が私の目を刺激し、誰もが行動を開始する時間。
 魔獣の足の肉が盛り上がり、人の形が現れる。
 その肉は魔獣から分離すると、知らない誰かへと顔や体が変わっていく。

 聞いていた親父の姿ではなく、若い女性兵士の姿である。
 自由に姿が変わるのならば、人に紛れれば探し出すのは面倒だ。
 それをさせる私ではないが。

 ヒュンと音もなく距離を詰め、同時に親父から矢が放たれた。
 矢は何も気付いていない女の足を貫き、私は一息に剣を振るう。
 何も気付くことなく崩れ散ったそれは、本来の悪魔へと戻っていた。

 その姿を見て、やっと私は確信を得た。
 これでやっと終わったと。

「あ~、酒飲んで寝よ」

 腰に吊るした酒を飲み干すと、私は道端に寝転がり目を閉じた。
 起きたらきっと何か言われるだろう。
 しかしこれだけ働いたのだ、許して欲しいものである。

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