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秀典

28 小さく大きな物語67

のんびりと旅を続け、国境の町に到着した。ここは相当に煩い町のようで、誰もかれもが叫んでいる。色々と訳の分からない祭りをしているようで、俺達も強制的に参加させられることになる。チェイニーだけが年齢制限に引っかかって、俺達幼馴染組と、年上組で対戦することになった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)


 俺達幼馴染三人は、他の四人と泊まる所まで別にされて、西軍としてこの変な祭りに参加させられていた。
 最初の一回目は様子見で、軽くぶつけられただけだが、それでもかなりの人数が落ちている。
 地面に落ちた人は打撲や骨折までしている様で、絶対に落ちたくはない。
 ある意味では魔物と戦うよりも恐怖心がありまくる。

「レティ、踏ん張らないと振り落とされるぞ! 私の手に掴まるんだ!」

「おう、リッドも手を貸せ。落ちたら死ぬ可能性が高いぞ!」

「わ、わかったよ!」

 この祭りは、聞いていた話しよりも随分と過激だった。
 大声を出しながら神輿をぶつけ合って、神輿に乗っている人数の多い方が勝ちという謎ルールとなっている。
 因みに俺達三人も神輿の上に乗せられて、冒険者で強いからと、一番前を護らされていた。
 だが護ると言って何を護れば良いのか分からない。
 百人に持ち上げられた神輿のぶつかり合いに、俺達は一体何を護れば良いのだろうか?
 今はただ、踏ん張って飛ばされないようにするだけで必死である。
 これはもう、十字架に張り付けにされて晒し者にされている人の方がマシなんじゃないのかと思い始めている。

『おおおおおおおおおおおおおおおおお!』

「やばい、二回目が来るぞ! 二人共踏ん張れ!」

「クッ……!」

「わわわわわ!」

 今やられた二撃目の衝撃は一撃目の比ではない。
 まるで強力な魔法でもくらったようにバランスを崩し、しがみ付いている神輿から振り落とされそうになっている。
 耐えられなくなって振り落とされた……というか衝撃で空に飛ばされた四人が涙を流しながら落ちて行く。
 顔から落ちたりと、壮絶なことになっているが、運良く治療役に回された人達により回復されている。
 たぶん死ぬことはないのだろう。
 だが、いくら治るとはいっても、あんな悲惨な状態にはなりたくはない。
 因みに向うの神輿の上には、リーゼさん達が乗っているのだけど、バールの伸びる手のおかげで、かなり楽に耐える事が出来ているようだ。
 恐ろしい事に、これをあと三日も繰り返さなければならないという。
 この前日にやった分も含めると、計七日も繰り返すという狂気の所業である。

『おおおおおおおおおおおおおおおおお!』

「また来るぞ!」

「いやああああああ!」

「うあッ……! レティ、私はもう駄目だ、後は頑張ってくれ……」

 バランスを崩し、ストリアが空に打ち上げられて行く。

「す、ストリアアアアアアア!」

 俺は手を伸ばすが、その手は空を掴んでしまう。
 このままではストリアが怪我をしてしまうと、俺は奥歯を噛みしめるのだが……
 ストリアは空中でクルリと回転してスタっと地面に着地している。
 伸ばした手をワキワキさせて、叫んだのが少し恥ずかしくなった。

「レティ、私は無事だぞ! あとは頑張ってくれ!」

「……ああ、そうみたいだな」

「まあストリアだし、そんなこともあるよね」

 俺は肩に手を置かれて、リッドに慰められている。
 俺達もあんな風に降りられたら良いのだけど、やってみたとしても確実に失敗するだろう。
 怪我をしない為には、最後までしがみ付いているしかない。

「ぎゃあああああああああああああ!」

「いやああああああああああああ!」

 それから何度も何度もぶつけられて、残すは最後の一回だけだ。
 今こちらの神輿にしがみ付いているのは、俺とリッドの二人だけである。

『よいしょおおおおおおおおおおおおおお!』

「ふああああああああああああ?!」

「にゃあああああああああああああ!」

 俺達二人は相当に踏ん張って耐えたのだが、結果は十対二の大敗だった。
 この競技に対するバールのチート能力が強すぎるのだ。
 明日、明後日と続けても、たぶん勝ち目はないだろう。
 だから俺達は仲間の西軍に連れ去られ、西軍の陣地である公民館で作戦会議に強制参加させられている。

「これは由々しき事態だぞ! このままでは我等西軍には勝ち目はない! 如何にかして奴を打ち崩さなければ!」

 中心にデンと座ってるこの人が、西軍のリーダーであるオゾラさんだ。
 こんな祭りをしているからか、大きな体で、筋肉とぜい肉が良くついている。
 たぶん四十ぐらいのオッサンだろう。
 俺達に合わせてくれているのか、多少は小さな声で話してくれている。

「で、奴の仲間の皆さんに対策を出して貰いたい! 出来ないとは言わせませんからな!」

 奴とは向うの神輿で活躍していたバールのことだろう。
 もし出来ないと言ったらどんな目に遭わされるのだろうか?
 しかし幸いにも、バールの弱点は充分把握している。
 リーゼさんとジャネスの姉ちゃんには悪いが、俺はそれを伝えることにした。

「あの手の伸びる男のことだろ? だったら簡単だ。薄い服でも着て女を囮にすれば確実に引っ掛かるぞ。あいつは女に目が無いからな」

「それは誠ですよね? もし戯言を言いなさるのならば……」

「嘘じゃないぞ。あいつは仲間だけど仲間じゃないというか、ただの知り合いみたいなものだし、まあ別に死ななきゃどうなろうと構わない。それよりさ、俺もちょっと聞きたい事があるんだけど」

「ほう、なんですかな?」

「この祭り、盛り上がっているのは分かるけど、参加しない奴に罰を与えたりと必死過ぎる。もしかしてこの祭りの勝敗に何か賭けてるんじゃないのか?」

「……フッ、気がつかれましたか? 特に隠すことでもないのでお教えしましょう……」

 俺達が聞かされたのは、この祭りが町の予算分配に関わるという話だった。
 勝った陣営には多く、負けた陣営には少なくと、今後の生活に関わるから必死になってるという。
 それだけなら俺達には関係ない話だが、神輿の上に乗って最後まで参加して勝った方には賞金が出るらしい。
 その程度ではやる気なんて起きないのだが、俺は終わり際にオゾラさんに耳打ちされた。
 何でしたらこちらも女性陣に歓迎させましょうかと。

「やります! やらせていただきます!」

 初心な男の子である俺は、そう返事をせざるを得なかった。
 じつの所、俺もバールと同じぐらいに女に弱いのかもしれない。
 ただ俺は、別にシャインのことを忘れている訳ではない。
 ただちょっとだけ、ちょっとだけ遊ぶのも良いんじゃないかなと思っているだけだなのだ。

 ……そしてこのことは、ストリアにバレないようにしよう。

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