一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
22 持って行くなよこの野郎!
退位されたイモータル様の代わりに、イブレーテ様が王位につき、あの兄弟は許されてしまった。俺としてはまだ許せる気にはなれないが、歯ぎしりをして絶えている。その兄、シィヴァの案内で、闇医者が居た場所を探ってみるが、も抜けの殻になっていた。奥まで探ってみるも何も無く、俺は次の手掛かりであるグレッグに聞き込みをしようとしている…………
シィヴァ・タナトリス(兄)
ベノム (王国の兵1)
監視対象であるグレッグの居場所は、兵士により即座に調べあげられた。
そして簡単に拘束され、王門の前に転がされている。
まあこの男も一応首謀者の一人ではあるが、今のところその罪はない。
この馬鹿兄弟を許してしまったから、この男も許さざるを得なかったのだ。
いや、そもそも捕まえることもなかったから、何も気付いていない可能性もあるだろうか。
「な、なんだいきなり。今度は何をする積もりなんだシィヴァ?!」
「グレッグ、残念なことに俺は負けてしまったのだ。お前を魔王にすると言ったが、どうも無理らしい」
「そ、そのことは如何でも良いんだ。それよりこれは一体なんなんだ?! 何をする積もりなんだ?!」
「そりゃあ俺が答えてやるよ。お前にはちょっとばかり聞きたい事があるだけだ。嘘をつかずに話すんなら、すぐ家にもかえしてやるよ」
「わ、わかった、何でも答えるよ。アンタには一回命を救われたからな。ヘヘヘ……」
今思い出したが、そういえばそんな事もあった気がする。
あれは確かグーザフィアという天使が……いやそれはどうでもいいな。
昔の話だ。
「お、俺は……」
グレッグは俺の言葉に素直に答えた。
恐喝した金で飲んだくれていた所に、酒場で男にうまい話があると話しかけられたそうだ。
どんな人間でもいいから、仕事を手伝える人間を探していると。
普通の仕事の数倍の給金、内容もタダの勧誘だけだと、魅力的な話にグレッグは引き受けたという。
グレッグは何人かを連れて行き、そいつらがこの国から姿を消したと知っても金の為につづけていたらしい。
気付いていてやっていたなら、同情の余地もない悪党だ。
それで最後にシィヴァとその弟を選び、今の体の状態になってしまったと。
話しを聞いた限り、この男は信用するには値しないが、ギリギリ雀の涙ほどには期待してもいいだろう。
「よし、一応信用してやる。これから何年か投獄されるだろうが、一応減刑を進言してやるよ。まあたぶん無理だろうがな。じゃあ頑張れ」
「お、おい! 素直に話しただろうが! お、おい、お~い……」
グレッグは兵士に腕を掴まれ、牢の方向へ連れて行かれた。
奴のことは法廷に任せるとして、俺達はまずその男に会ったという酒場に向かってみることに。
向かったのは裏路地にある本当に小さな飲み屋だ。
酒にあいそうな料理も提供しているらしい。
少し遠くから見ているが、人通りも少なく、置いてある椅子も二つしかない。
店は開いているが、まだ客の姿はないらしい。
儲けることを自分で拒否しているのだろう。
「じゃあ俺が行ってやるから、お前はそこで待ってろよ」
「ほぉ、排便も一人出来ないのに、お前一人でやれるのか?」
「出来るわ! 俺を舐めてんのかテメェは! 良いからそこに居やがれこの野郎!」
こんな奴に付き合っていたら、頭の血が上がりっぱなしになってしまう。
それよりはまだマシだと、店の主人に話しを聞きに行った。
「おい、邪魔するぜ親父」
「いらっしゃーい。ご注文は何に致しましょう」
店の主人は、随分と小柄な老人のようだ。
ちょっとばかり頭が寂しいことになっているが、歳の所為だろう。
頭上の毛がない代わりに、横からはもっさりとした毛が生えている。
まあ客には笑顔を向ける、優しそうな男だ。
「俺は飲みに来たんじゃねぇんだよ。チィとばかり話しを聞かせて貰いたいんだがよ」
「それで、ご注文は?」
「……あのな、これは国の重要案件だぜ。話さねぇんなら、それなりの対応をしてやってもいいんだぜ?」
「多少売り上げに貢献してくれれば気持ちよく話せるってもんでしょう。こんな老人に力ずくとはいただけませんな。兵士の悪評が流れてもしりませんよ」
俺を脅す積もりかこの爺。
確かに老人を虐めるのは趣味じゃねぇが、軽い懐が軽くなるじゃねぇか!
「ああクソッ、わかった! 注文してやるから全部話すんだな!」
「へい毎度」
この親父は、俺の想定以上の料理をカウンター席に並べて行く。
「おいコラ、随分多いんじゃねぇのかこれ。俺はそんなに手持ちがねぇんだぞ?!」
「はっはっは、若いんだからこのぐらいは食って行ってくださいよ。足りない時は付けにしておきますから後で持って来て下さい」
「はぁ?!」
豆の茹でた物や、クシに刺した鶏肉など色々で、とても俺一人で食いきれる量じゃない。
任務中で酒は飲めねぇが、飯として食ってしまうしかないだろう。
財布の中身を確認してみるも、どうも足りそうもない。
話を聞くのは後でも出来る。
まず待たせているアイツを巻き込むしかないだろう。
「おいシィヴァ聞いてるんだろ、ちょっと手伝え! ……おいコラ、聞こえてねぇわけねぇよなぁ?! 早くこいや!」
幾ら呼び掛けても、奴の返事は返って来ない。
俺は店の外に出ようと動くが……
「お客さん、外に呼びに行くなら先にお代を置いていってくださいね」
「クヌヌッ、これ経費で落ちねぇだろうな……畜生、持ってけこの野郎!」
俺はカウンターに金を置き、外に居る奴を呼びに行った。
奴は俺の話を聞かないどころか、目を瞑って眠っていやがったのだ。
こんな所で眠るなんざ、よっぽど眠かったのだろうか?
だがこれは良いチャンスだ。
少しばかりの怒りを込めて、優しく起こしてやるとしよう。
「死ぬえええええええコラアアアアアアアア!」
俺は思いっきり助走をつけて、奴の顔面に拳を放った。
しかしその拳は奴に直撃する前に、何時の間にか現れた水の壁でガードされてしまったのだ。
俺の声で起きたのか、それともじつは起きていたのかもしれない。
「ふう、乱暴な奴だ。俺の罪は元女王から許されているはずだが?」
「そりゃあ国を混乱させた分で俺の分じゃねぇ。一発で許してやるから、その水を退けろ!」
「嫌だね」
やっぱり気に入らねぇ。
先にこいつから片付けてやろう。
「店の親父に話しを聞く前に、まずはテメェからやってやらぁ!」
「まだ聞いていなかったのか。ノロマな奴」
「ああん、俺に対してそれを言うか?! いくぞコラアアアアアアア!」
「ちょっとお客さん、店の前で騒ぎを起こさないでくれませんか。」
戦いが始まろうとした時、店の親父が顔をのぞかせている。
確かに迷惑をかけるだろうが、一瞬だけ目を瞑ってほしい。
直ぐにすませてやるからよ!
そう意気込んだ俺だが、シィヴァが親父に指をさしていた。
「オイ、そいつ……」
「命乞いなら聞かねぇからな!」
「そいつが探していた闇医者だ」
「……ああ?」
俺が後を確認すると、そこに親父の姿はなくなっていた。
カウンターに置いていた金も、持ち逃げされてしまったようだ。
「俺の金返せやあああああああああああああ!」
店にある金でも持って行ってやろうと考えたが、奴を逃がしてしまう。
まずは絶対に追い着いて取り返す!
シィヴァ・タナトリス(兄)
ベノム (王国の兵1)
監視対象であるグレッグの居場所は、兵士により即座に調べあげられた。
そして簡単に拘束され、王門の前に転がされている。
まあこの男も一応首謀者の一人ではあるが、今のところその罪はない。
この馬鹿兄弟を許してしまったから、この男も許さざるを得なかったのだ。
いや、そもそも捕まえることもなかったから、何も気付いていない可能性もあるだろうか。
「な、なんだいきなり。今度は何をする積もりなんだシィヴァ?!」
「グレッグ、残念なことに俺は負けてしまったのだ。お前を魔王にすると言ったが、どうも無理らしい」
「そ、そのことは如何でも良いんだ。それよりこれは一体なんなんだ?! 何をする積もりなんだ?!」
「そりゃあ俺が答えてやるよ。お前にはちょっとばかり聞きたい事があるだけだ。嘘をつかずに話すんなら、すぐ家にもかえしてやるよ」
「わ、わかった、何でも答えるよ。アンタには一回命を救われたからな。ヘヘヘ……」
今思い出したが、そういえばそんな事もあった気がする。
あれは確かグーザフィアという天使が……いやそれはどうでもいいな。
昔の話だ。
「お、俺は……」
グレッグは俺の言葉に素直に答えた。
恐喝した金で飲んだくれていた所に、酒場で男にうまい話があると話しかけられたそうだ。
どんな人間でもいいから、仕事を手伝える人間を探していると。
普通の仕事の数倍の給金、内容もタダの勧誘だけだと、魅力的な話にグレッグは引き受けたという。
グレッグは何人かを連れて行き、そいつらがこの国から姿を消したと知っても金の為につづけていたらしい。
気付いていてやっていたなら、同情の余地もない悪党だ。
それで最後にシィヴァとその弟を選び、今の体の状態になってしまったと。
話しを聞いた限り、この男は信用するには値しないが、ギリギリ雀の涙ほどには期待してもいいだろう。
「よし、一応信用してやる。これから何年か投獄されるだろうが、一応減刑を進言してやるよ。まあたぶん無理だろうがな。じゃあ頑張れ」
「お、おい! 素直に話しただろうが! お、おい、お~い……」
グレッグは兵士に腕を掴まれ、牢の方向へ連れて行かれた。
奴のことは法廷に任せるとして、俺達はまずその男に会ったという酒場に向かってみることに。
向かったのは裏路地にある本当に小さな飲み屋だ。
酒にあいそうな料理も提供しているらしい。
少し遠くから見ているが、人通りも少なく、置いてある椅子も二つしかない。
店は開いているが、まだ客の姿はないらしい。
儲けることを自分で拒否しているのだろう。
「じゃあ俺が行ってやるから、お前はそこで待ってろよ」
「ほぉ、排便も一人出来ないのに、お前一人でやれるのか?」
「出来るわ! 俺を舐めてんのかテメェは! 良いからそこに居やがれこの野郎!」
こんな奴に付き合っていたら、頭の血が上がりっぱなしになってしまう。
それよりはまだマシだと、店の主人に話しを聞きに行った。
「おい、邪魔するぜ親父」
「いらっしゃーい。ご注文は何に致しましょう」
店の主人は、随分と小柄な老人のようだ。
ちょっとばかり頭が寂しいことになっているが、歳の所為だろう。
頭上の毛がない代わりに、横からはもっさりとした毛が生えている。
まあ客には笑顔を向ける、優しそうな男だ。
「俺は飲みに来たんじゃねぇんだよ。チィとばかり話しを聞かせて貰いたいんだがよ」
「それで、ご注文は?」
「……あのな、これは国の重要案件だぜ。話さねぇんなら、それなりの対応をしてやってもいいんだぜ?」
「多少売り上げに貢献してくれれば気持ちよく話せるってもんでしょう。こんな老人に力ずくとはいただけませんな。兵士の悪評が流れてもしりませんよ」
俺を脅す積もりかこの爺。
確かに老人を虐めるのは趣味じゃねぇが、軽い懐が軽くなるじゃねぇか!
「ああクソッ、わかった! 注文してやるから全部話すんだな!」
「へい毎度」
この親父は、俺の想定以上の料理をカウンター席に並べて行く。
「おいコラ、随分多いんじゃねぇのかこれ。俺はそんなに手持ちがねぇんだぞ?!」
「はっはっは、若いんだからこのぐらいは食って行ってくださいよ。足りない時は付けにしておきますから後で持って来て下さい」
「はぁ?!」
豆の茹でた物や、クシに刺した鶏肉など色々で、とても俺一人で食いきれる量じゃない。
任務中で酒は飲めねぇが、飯として食ってしまうしかないだろう。
財布の中身を確認してみるも、どうも足りそうもない。
話を聞くのは後でも出来る。
まず待たせているアイツを巻き込むしかないだろう。
「おいシィヴァ聞いてるんだろ、ちょっと手伝え! ……おいコラ、聞こえてねぇわけねぇよなぁ?! 早くこいや!」
幾ら呼び掛けても、奴の返事は返って来ない。
俺は店の外に出ようと動くが……
「お客さん、外に呼びに行くなら先にお代を置いていってくださいね」
「クヌヌッ、これ経費で落ちねぇだろうな……畜生、持ってけこの野郎!」
俺はカウンターに金を置き、外に居る奴を呼びに行った。
奴は俺の話を聞かないどころか、目を瞑って眠っていやがったのだ。
こんな所で眠るなんざ、よっぽど眠かったのだろうか?
だがこれは良いチャンスだ。
少しばかりの怒りを込めて、優しく起こしてやるとしよう。
「死ぬえええええええコラアアアアアアアア!」
俺は思いっきり助走をつけて、奴の顔面に拳を放った。
しかしその拳は奴に直撃する前に、何時の間にか現れた水の壁でガードされてしまったのだ。
俺の声で起きたのか、それともじつは起きていたのかもしれない。
「ふう、乱暴な奴だ。俺の罪は元女王から許されているはずだが?」
「そりゃあ国を混乱させた分で俺の分じゃねぇ。一発で許してやるから、その水を退けろ!」
「嫌だね」
やっぱり気に入らねぇ。
先にこいつから片付けてやろう。
「店の親父に話しを聞く前に、まずはテメェからやってやらぁ!」
「まだ聞いていなかったのか。ノロマな奴」
「ああん、俺に対してそれを言うか?! いくぞコラアアアアアアア!」
「ちょっとお客さん、店の前で騒ぎを起こさないでくれませんか。」
戦いが始まろうとした時、店の親父が顔をのぞかせている。
確かに迷惑をかけるだろうが、一瞬だけ目を瞑ってほしい。
直ぐにすませてやるからよ!
そう意気込んだ俺だが、シィヴァが親父に指をさしていた。
「オイ、そいつ……」
「命乞いなら聞かねぇからな!」
「そいつが探していた闇医者だ」
「……ああ?」
俺が後を確認すると、そこに親父の姿はなくなっていた。
カウンターに置いていた金も、持ち逃げされてしまったようだ。
「俺の金返せやあああああああああああああ!」
店にある金でも持って行ってやろうと考えたが、奴を逃がしてしまう。
まずは絶対に追い着いて取り返す!
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