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秀典

21 終わっていなかった連鎖。(べノム編)

女王に倒された俺達は、玉座の間を掃除させられている。四日も掛かり掃除を終えると、乱暴に玉座の前に転がされた。女王から罪を言い渡されるが、自分の罪だと女王の座から退いた…………


シィヴァ・タナトリス(兄)
ベノム     (王国の兵1)


 イモータル様が退位され、二日が経つ。
 王の代替わりに、たかだか二日で済ませられたのは、イモータル様の手腕によるものだろう。
 イブレーテ様が王の座に就くが、まだ幼い彼女の補佐として、前王イモータル様が手を貸していた。
 その近くには、あの二人の兄弟の姿がある。
 奴等は何の罪にも問われず、むしろその地位を上げ、かなり上位の役職についていた。

 その役職とは、イブレーテ王の補佐と生活の補助、言うなれば執事のようなものだろうか。
 このべノムとしては、あんな奴等を認めるわけにはいかないが、前王の頼みは聞かなければならない。
 俺は今、歯ぎしりしながら耐えている。

 そう言う問題を解決して今に至るが、じつはこの事件、まだ終わってはいない。
 馬鹿兄弟の体を強化した医者を、即座に見つけ出さなければならないのだ。
 だが砂掃除している四日の内に、グレッグから聞いた場所には何一つ残されてはいなかった。
 そこにあった喫茶店も、店の存在自体が無くなっていたという。
 問題はその中に居たというキメラ化の法を知っていた奴である。

 何故そいつが王国の禁忌を使えるのか。
 厳重に封印されて、知識として知っている奴等の管理も徹底している。
 流出はありえないことで、その男が元からそれ知っていたなら話は簡単だ。
 人に化けて紛れて居るのは悪魔と呼ばれる存在である。
 もう残っては居ないと思っていたのだが、それが悪魔ならば早急に対処しなければならない。

 その捜査を命ぜられた俺は、ムカつく兄弟の兄と共に、この現場を訪れている。
 まあ言うなれば、現場百回というやつだ。

「おいコラテメェ、本当にここで在ってるんだろうな? 嘘なんかつきやがったらタダじゃ済まさねぇぞコラ」

「お前のようなクソ野郎と早く離れたいと思っているのに、何故俺が嘘をつかなければならない? イブレーテに一刻も早く会いたいというのに」

「様をつけろや魚野郎! なりたてとはいえ立派な王なんだからな!」

「なんだ、嫉妬しているのか鳥野郎? まあイブレーテのことは俺達二人に任せておくんだな」

「ぐぬぬぬぬ!」

 たかだか二日ではあるが、時間というものは無情である。
 付きっ切りで世話をしているこいつとその弟に、イブレーテ様が気を許してしまわれている。
 前王のイモータル様との仲も特に悪くはないというのだから、その地位は盤石だろう。
 俺が追い出そうとしても無駄に終わる可能性が高い。
 イブレーテ様が真っ直ぐに育ってくれることを願うばかりだ。

「どうした、置いて行くぞ?」

「テメェが先に行くんじゃねぇよ!」

 店があったとも思えないほどに、この場所はなにもなく、この二日で逃げたと見て良いだろう。
 しかし例え悪魔といえど、この国から逃げおおせるとは思えない。
 悪魔自体の強さはそれ程でもなく、魔物に襲われてしまえば一たまりもないだろう。

 輸送隊に紛れ込もうにも、身元がしっかりした者しか行動させていない。
 まだこの国に潜んで居ると考えるのが自然だろう。
 俺が考えを纏めている間に、シィヴァは真っ直ぐに壁に向かっている。

「ふむ、この先に通路があったはずなんだが?」

「ああん? この先に何かあったのか? まあぶった斬ってみれば分かるか。おいそこを退け。いや、やっぱり退かなくても良い。お前はそこに居ろ。壁と一緒に斬ってやるから」

「ふん、何時までもウジウジと、もう一度上下関係というやつを教えてやろうか?」 

「はぁ? たった一人で勝てるとでも思ってるのか。テメェ一人なら軽く捻ってやれるんだぜ?!」

「ほう、試して見るか?」

 バチバチと火花でも散っているのが見えている。
 本気でやってやりたいところだが、ここで争ってしまえば怒られるのは俺の方だろう。

「テメェのことは後で決着をつけてやる! まずはこの建物の調査からだ!」

「……ふん、まあいいだろう。お前と争うのも時間の無駄だからな」

 壁を切り裂いた先には、やはり通路があるのを確認できた。
 ただ通路の先は大きな岩に塞がれていて、このまま進むのは無理だろう。

「手の込んだことをしやがって。俺以外だったらチィと面倒だっただろうよ」

 俺であるなら巨大な大岩であっても、斬り進むのは容易だ。
 下から斜めに斬り上げると、岩は前に崩れてきている。
 そのままでも充分に進めるが、怒りをぶつけるように細かく刻んでやると、岩は細かい石になっていく。
 まず到着したのは小さな部屋で、机とベッド以外は何も置いていない。
 引き出しの中も見るも、何一つ置いていない。
 綺麗サッパリ、手掛かりすらない状態だ。

「まあ、前の店が何もないのに、ここを片付けない訳が無いな」

「うるせぇよ! 俺だってそのぐらい予測してたわ! 良いから先に進むぞコラァ!」

「先は解体部屋と呼ばれる部屋だ。俺達兄妹が戦魔と戦った場所だ」

「戦魔だと?」

「指示を受けなければ何一つ行動できない、ただの道具でしかない物だ」

「は~ん?」

 地下に向かう階段を下り、俺達が到着した部屋は、多量の血で汚されている。
 どう見ても一人や二人分とは思えない量で、魚野郎が解体部屋だと言うのも理解した。
 しかし、今この場所にも何もなく、結局は無駄足だったと引き返して行く。

 ここでの手掛かりは途切れてしまったが、別の道がないわけではない。
 逃げた奴等を追い掛けるように、まずは兵に聞き込みをさせるとしよう。
 この場所を知っていたというグレッグというチンピラである。
 その男が何かを知っている可能性は充分に考えられるだろう。
 俺達はグレッグに会いに、移動を始めた。

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