一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 サミーナとの再戦。

城の中に進んだ俺達は、玉座の間へと到着した。しかしその中には、女王の姿と、俺達が捉えたはずの奴等の姿。他にも武装した奴が百人規模で構えている。油断せずに話しを続け、こちらから先制の魔法を放つと、殆どの奴等を動けなくしてやった。その中を逃げ延びたのは、残ったのは先日戦ったサミーナと、女王の二人だけだった…………


シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
イモータル   (王国の女王)
サミーナ    (次期女王候補)


 向かって来るサミーナは、この時の為に用意していたのだろう武器種の数々を取り出している。
 左手の指に苦無を指に引っかけ、右手には短剣を持っていた。
 肩当や腰当てに収納されている投擲用の小型ナイフは、見るだけでも三十本は収納されて、籠手や脛当てにも色々と仕掛けがありそうだ。

 腰には更に通常の剣が差してあり、遠距離攻撃を主体にするのだろう。
 砂の地にも足を取られず、動きを続けている。
 サミーナは、ナイフの一本を器用に引き抜き、こちらに向かって投げ付けて来ていた。
 埋まった奴等に当たる可能性もありそうだが、それなりに計算をしているのだろう。
 かなり鋭く速い攻撃は、俺の体を貫く可能性を秘めていた。
 俺は腕のヒレを使い防御を行うと、魔法の詠唱を始める。

「現れろ、水龍の槍よ!」

 手の中に現れたのは、水分を固めた水の槍。
 質量は変わらないが、剣やムチにも変化する、変幻自在の不形の刃だ。
 仲間の体を踏みつけ、動き続けるこの女には相性のいい武器である。

「……へぇ、最初から使うんだ。だったらこっちも、出し惜しみは無しだわよ! しぬねええええええええええ!」

 その殺意の現れなのか、俺の頭や首元にばかりナイフが投げられている。
 連続で投げられるナイフに、左腕のみを使って防御するが、間に合わなくなってきていた。
 ガードの隙間から傷をつけられ、両腕でのガードを余儀なくさせられる。 

 その一瞬、サミーナの動きが加速した。
 槍を振るうがすり抜けられて、短剣を振りながら後方へ抜けて行く。
 俺の頬には、ザックリと傷が残される。
 更には女王からの風撃が来るが、ハーディの大槍がそれを防いだ。

「……俺を相手に、あちらを支援するとは、いい度胸だ」

「動きの遅い貴方が悪いのでは? 防御力だけで勝てると思わない事ですね」

「……俺が防御力だけだと思うなよ」

 あちらの戦いは、何方が優位ともいえないだろう。
 女王の放つ風の魔法は、ハーディの鎧を傷つける事も出来ず、ハーディはハーディで、空を舞う女王に攻めあぐねている。
 それに、動けない奴等も何もしていない訳ではない。
 戦う女王に当たらないようにと、回数は少ないが、隙あらば手持ちの武器や魔法で攻撃をしてくる。

 この女を相手に、奴等の攻撃は邪魔そのものだ。
 まずは奴等から排除するとしよう。
 俺はサミーナの攻撃を避けながら、動けない奴等へと近づいて行く。
 その体を盾にし、体に少量の傷と爪で振れていった。
 軽く傷をつける程度でも、俺の毒は確実にその相手を昏倒させたのだ。
 サミーナの投げナイフは、その時止んだ。

「お前えええええええ!」

「ハン、無駄な支援などするからこうなる。倒されたくなければ動かなければ良い物を」

 一応盾にしている仲間には攻撃を躊躇っている。
 仲間に当たるからと、簡単には攻撃せずに、位置取りだけを意識して動いている様に見える。
 しかし踏みつけたりするのは躊躇いがないようで、死ななければ良いと考えてるのだろう。
 サミーナは、手に持つ武器も長い剣へと持ち変え、こちらに来るタイミングを計っている。
 黒い奴に手を掛けようとした時、サミーナの奴は行動を起こした。

「おいコラアアアアアアアア?!」

 余程信頼しているのだろう、しまっていたナイフを取り出し、俺と黒い奴に向かってナイフの投擲を開始しする。
 そのナイフと同時に、こちらに接近をして来た。
 奴の振った剣を槍で受け止めるも、隠された苦無の一撃が、俺の腹部へと投げつけられる。
 熱い痛みが襲うが、この程度で俺は怯んだりしない。

「うッ……」

 お返しにとばかりに、武器を槍は針状の物に変化し、瞬時にサミーナの上腕へ突き刺さる。
 かなり距離があり、少し太いペン先ぐらいの傷しか与えられていない。
 それでも痛みは感じるだろう。
 無理に動こうとしたならば、時間と共に動きも悪くなるはずである。
 そして俺にとってはこの程度の傷は傷の内にも入らない。
 引き抜きさえすれば、自動的に治癒が始まる。

 俺はサミーナが離れた隙に、腹に刺さった苦無を引き抜こうとするが、投げつけられるナイフがそれを邪魔してくる。
 あわよくばそれ以上のダメージを与えようと、俺の体の各所へ攻撃をしていた。
 引き抜くのは諦めて防御を続けるも、そのナイフの何本かは、俺の体に傷を与えている。
 少しずつでも蓄積させようというのだろうか。
 だが無駄である。

 毒という物が水に溶けるとするならば、俺の爪の毒は何所へ流れているのか。
 答えはこの水の槍の内側なのだ。
 例え針の先程度だったとしても、その効果には変わりばえはない。
 サミーナの体は、麻痺の毒に侵されている。
 まあ槍の水量により、多少薄まって入るらしく、まだ効果は表れていない様だが。
 激しい動きは、血流を進ませ、効果をあらわして行く。

「……?! これ……は……」

 体に毒素がまわっていったらしい。
 手に持った武器を掴むのにも苦労をしている。

「この武器にも我が毒は仕込んであるのだよ。動きの落ちたお前にはもう勝ち目はない。そのまま許しを乞うのならば、俺はお前に手を出さないと約束してやろう」

「だ、誰がお前なんかに……」

 そろそろ倒れても良い頃ではあるが、どうも効き目が悪いようだ。
 もう少し毒を流しこんで、完全に無力化してやろう。
 足をガク付かせて崩れるサミーナに、俺は一歩一歩と近づいて行く。
 悔しさに歯ぎしりするこの女に、俺は優しく頬を撫で切った。
 俺は口元をほころばせ、強敵である彼女を優しく寝かしつけようと頭を持つが、サミーナの顔が一気に変わった。
 狙っていたようにギンと目を見開き、こちらの方が優位だと顔に不適な笑みを浮かべる。

「何度も何度も、何時までもそんな毒が効くと思うな! 狙っていたのは私の方だああああああああ!」

「グッオオ?!」

 ガンと気にもしなかった腹の苦無に、強烈な衝撃が走った。
 痺れていたはずのサミーナは、毒の効果を気にもせず、腕に装着した籠手で苦無を叩いている。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 ガンガンと殴りつけられれた苦無が、俺の腹の中へ沈んでいく。
 たかだか苦無の一本であれ、内臓を傷がつくのは不味い。

「この女ああああああああああ!」

 俺は怒りに任せに拳で顔面を殴りつけ、固まった砂の床に強烈に叩きつけた。

「ガハアアッ……」

 サミーナの顔は、見るも無残に傷ついてしまっている。
 これは、ついやり過ぎてしまったらしい。
 だがこの女も兵士なのだ。
 命懸けで戦っているのに、女だからと手加減されるとは考えてはいまい。
 これは成り行きである。
 ……だが、端くれであったとしても、この女は時期女王候補なのだ。
 傷を残してやる訳にはいかないだろう。

「……強敵への手向けだ。少しばかりの塩を送ってやるとしよう。回復しろ水の癒し」

 顔をボロボロにした気絶したサミーナに、俺は慈悲として回復の力を使ってやった。
 ……しかし、俺の爪に対策をしていたとなると、女王にも効き目が無いと見るべきだろう。
 それでも、まだ痺れて動けない奴等を見ると、他の兵士には行き渡ってはいないようだ。
 早急には用意出来なかったのだろう。
 ではまず、女王戦に参加する前に、周りの奴等を完全に沈黙させるとしようか。

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