一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

16 小さく大きな物語64

魔物を探す為に町の人達に聞き込みをする俺達。その魔物が好きな物を特定すると、俺達は領主の人に頼みに行く。町中に知らせを出してもらい、俺達は一つの畑で敵の出現を待った。何時間かまった頃に、俺達の前に現れたのは、小さく可愛らしいウサギの一匹だ。これが魔物かとか思いもしたが、リッドがウサギを抱きあげようとすると、ど太い尻尾が地面の中に伸びている。全員で引っ張り出そうと頑張ると、地面の中から何かが出現しそうになっていた…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)


 尻尾の先にある大地がひび割れ、耕された農地を割って行く。
 ウサギの尻尾の先には、円筒状の巨大な物に繋がっていた。
 同じような短い毛が生えそろい、筒に毛が生えているとしか思えないが、小さな目が幾つもあり、可愛いウサギという物に疑問しか感じない。
 その巨大な円筒状の生物からは、他にも何本かの尻尾なのか触手なのか分からない物が伸びていた。
 本数にして八本。
 同じような兎が先端についている物が、地面の中から現れた。

「おうわッ、こんなのがついてるのかよ!」

「気持ち悪!」

「道理で重い訳だ。退治するのに気が引けなくて済むけどな」

「まあ、ウサギよりは遣り甲斐ありそうよね?」

 何方が本体か……
 掴んだウサギが頭だとは思いにくい。
 中央にある生物の目がこちらを捉え、巨大な口までもあらわにさせた。
 これが魔物ではないにしろ、気持ち悪いのは確かである。
 どの道害獣であるから、退治しなければ仕方がない。

「依頼されたし、町の為にはやるしかないな。じゃあ行くぞ皆!」

「僕は何時も通り魔法で援護するよ。三人共頑張って」

「レティと親子での共同作業、充分に楽しませて貰おう!」

「ん? つまり私の弟になるのか。よろしく頼むわよ弟」

「俺はお前等の親子兄弟になったつもりはないし、そんな事実はない! もう良いから行くぞおい!」

 俺達三人は剣を引き抜き、妙な筒の方に向かって行く。

「フリーズ・ラビット!」

 まず初めに攻撃を当てたのは、リッドの魔法だった。
 同じウサギの形をしているが、ちゃんとした氷の魔法である。
 ピョンピョンと空中を跳びはねると、確実に狙った場所へぶつかった。
 筒の奴の一部には、氷が弾けたような物が張り付き、冷気の痛みを与えている。

「ウギョギョギョギョギョギョギョギョギョ!」

 ウサギの鳴き声なんて聞いたことがないが、この悲鳴には可愛らしさなど微塵も感じない。
 攻撃を食らった筒の化け物は、地面から生えた触手を引き抜き、反撃を始める。
 触手についた可愛かったウサギの目は凶悪に見開き、口の端は体の半分近くにまで届いた。
 ウサギという擬態を解いたのだろう。
 そんなものが俺達に向かって、凶暴に襲い掛かって来た。
 だけど、このぐらいは慣れたものだ。

「てやッ!」

 襲い掛かる触手を斬り飛ばし、本体に向かって走り抜ける。
 そのまま本体にある目の一つに、真っ直ぐ剣を突き刺してみるのだが……

「かったいな! 俺の剣じゃ斬れないぞこれ!」

「どうやら、俺の槍も弾かれるみたいだな。俺が防御を担当するから。二人は攻撃を頼む」

「言われなくてもやってるでしょうが! 黙って防御しときなさいよ!」

「あ、はい……」

 流石のバールも、自分の娘には弱いらしい。
 大人しく返事をして言う事を聞いている。
 まあそんな奴の話はどうでもいいのだが、閉じられた瞼でさえ貫く事が出来ないのは面倒そうだ。
 ジャネス姉ちゃんの拳は、本体にガンガンとぶつけら、中の瞳にダメージを与えている。
 瞼の奥の瞳は弾け跳び、ダメージを与えられているのは姉ちゃんだけ。
 だったらいいなと妄想している。
 本当のところはダメージを与えているのかも不明で、目に見えてダメージがありそうなのは、触手を切断した部分ぐらいだろう。
 まずはその部分から片付けるとするか。

「レティ、触手を攻撃するのは待って! それまだ動いているよ!」

「何だってぇ?!」

 見ると先ほど斬り飛ばした触手の先は、意思を持って襲い掛かって来ている。
 リッドは迎撃の魔法の兎を放っているが、同速度で動く兎に追いつけないでいた。 
 そいつがこっちに向かって、大きな口を開いている。
 下手に攻撃をしたら、氷の魔法が仇になりそうだ。

「リッド、ウサギはいいから本体を狙え! 触手の付け根にでも当ててやれ!」

「うん、了解!」

 リッドは氷の兎を動かして、俺の指定した場所へ当てている。
 そしてまた魔法を放ち、出来る限り繰り返していた。
 自由になった兎の化け物は、跳びはねながら誰を狙うのか決めかねている様だ。
 俺はジャネスの姉ちゃんに本体の攻撃を任せ、動きを見定める。
 狙われたのは……ジャネスの姉ちゃんだ。
 俺は襲い掛かるウサギに向かい、姉ちゃんの背のギリギリにまで斬り込み倒す。
 だが、敵に気付いていた姉ちゃんは、背後に向かって裏拳を飛ばして来た。

「ぐふぉおおおおお?!」

 それは俺の頬に当たり、吹き飛ばされて、とても激しい痛みを与えてきた。

「あ、ごめん。敵かと思った」

「出来れば気を付けてくれ……マジ痛いから……」

 敵よりも、連携のとれない味方ほど怖い物はない。
 味方に斬られて、あ、ごめんなんて言われても、それで死んだらうかばれないのだ。
 今後姉ちゃんの後ろに立つのはやめておこう。

「いよっと」

 俺は迅速に立ち上がると、再び戦いに参加する。
 俺達の戦いは、随分と優位に進んでいるようだ。
 リッドの氷の魔法が、敵に対して効果を現し始めている。
 氷で動きを鈍らせた触手を、俺達が一つ二つと倒していき、残るのは最後の一本。

「ウサギはこれで最後だ!」

 防御に専念していたバールが槍で止めを刺し、残るは本体だけとなった。
 本体には、ジャネスの姉ちゃんがずっと叩いているけど、あんまり変化は見られない。
 ただ多くの目玉と大口は持っているが、動かないからただの筒だろう。
 近づかなければ何もして来ないから、別に危険性はほとんどないが、触手が再生しないとも限らない。

「う~む、攻撃が効かないしどうしよう?」

「ぶん殴ってれば何時か死ぬでしょ」

「レティ、口にでも何か詰め込んでみるか?」

「じゃあ全身氷漬けにしとく?」

『…………』

 とりあえず俺達は、徹底的に攻撃を続け、一時間程経った時にこれは無理だと諦めた。
 次に試すのは岩を口の中に頬り込んでみるも、どうにもならず、結局はリッドに氷漬けにしてもらう。
 放っておけば死ぬとは思うが、一応生態を知らせると、後は町の人に任せることになった。 

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