一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
15 王の間の出来事。
イバスを攫い、大体の準備が完了した俺達は、魔物退治や日中の見張りで兵の少ない昼の時間を狙い、城へ向かって行く。城の門番を越えて内部へと侵入する。正面にある大扉の前の兵士を痺れさせて、玉座の間の扉を開けた…………
シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
イモータル (王国の女王)
サミーナ (次期女王候補)
動けなくなったこの兵士を壁に預け、いよいよ女王と対面できると、巨大な扉を両手で開く。
ようやくかと口元をほころばせ、その部屋の内情を見た時、俺の顔からは笑みが失われた。
「ようこそ、お出で下さいました」
正面の玉座に座るのは、こちらを悠然と見つめる女王の姿。
水色の髪は煌く程で、白美というには白すぎる肌。
左目の金眼が怪しく、まるで造られた人形のようである。
人のそれとは到底思えない。
その左右には百を超える武装した兵士と、ボロ小屋に閉じ込めていた奴等の姿。
それと……家に閉じ込めていたサミーナの姿もある。
全員がギリギリと歯をかみしめ、跳びかかりたい気持ちを抑えるのに必死のようだ。
王の前だからと、我慢でもしているのだろう。
「兄貴……」
「臆するなよハーディ、この程度、想定の内だ。予定通りやればいい」
「ああ……」
敵の戦力は膨大だ。
例え俺達がどれ程の力をもっていたとして、多対二というのは不利に違いない。
普通ならば。
「初めまして女王陛下、シィヴァ・タナトリスと弟のハーディ・タルタリスが参上いたしました。女王陛下におかれましては……」
「戯言は結構。貴方方の口から、ここに来た理由、それに目的を話しなさい。出来ないというのならば、最大戦力をもって叩き潰しますよ?」
「その前に、私達のことは、何時からお気づきになられていたので? 参考にさせていただきたいので是非お聞かせ願いたいのですが」
「貴方達が行動を起こす始まりから。あのグレッグという男は、素行が悪く、私達の監視対象でしたから。兵士の情報を聞きこんでいる時には、何らかの企てを行うだろうと情報が流れていました。貴方方の計画は、最初から破綻していたのですよ。何をするのか分かりませんでしたから、少しばかり泳がせはしましたけどね」
「なるほど、あいつでは魔王には成る事さえできなかった訳か。扱う人物を間違えてしまった俺のミスと言えるだろうな。次回からは気を付けると致しますよ女王陛下」
「さて、そちらの質問に答えたのです。こちらの質問にも答えてもらいましょうか」
「勿論でございます女王陛下。簡潔に述べれば、貴女にはここでその座を退いてもらいましょう。ハーディ!」
「……砂の大地よ……この世界を覆い尽くせ! デザート・ストーム!」
前詠唱を使ったハーディの砂の魔法は、この部屋の中に大量の砂を出現させる。
今回は数メートルどころか、数センチ先さえも見通せないほどだ。
規模として、五倍ほどの威力はあるだろう。
「しまった! またその魔法かよ!」
「べノム、動いてはいけません! 今対処いたします!」
王の扱う暴風が、砂の魔法を中央からこじ開けている。
風と風との戦いは、女王陛下に分があるらしい。
だが、ハーディの風はタダの風ではない。
二つの暴風は、打ち消し合う様に収まり、砂は部屋の中へと降り積もって行く。
「こ、これは?!」
「ま、不味いぞ。砂に体を飲まれる?!」
「今直ぐ脱出しないと動けなくなるぞ!」
その砂は兵士達の膝上にまで達すると、重い鎧を着た者達は動く事さえもできなくなっている。
砂はまだまだ降り積もり、いずれ腰のあたりまで達するはずだ。
まあこれだけでも充分ではあるが、もう少し駄目押ししてやろう。
「……恵の雨よ……彼等に癒しを与えたまえ。スコール・スプラッシュ」
与えるのは水。
少しばかり粘度の高いだけの、ただの水。
サラサラと流れる砂に絡みつき、強烈な重みを兵士達に与える。
固められた砂は、どれ程の強風でも吹き散らす事はできない。
ほとんどはその砂に飲まれて動けなくしてやったが、女王とを含めてサミーナが無事に逃げ延びたらしい。
俺が勝てば女王にしてやろうと言うのに、馬鹿な奴だ。
いや、グレッグを含めて、この女を選んでしまった俺が、ただ見る目が無かったと言うべきだろう。
「あんな辱めをしておいて、ただですむと思うなよこのクソ野郎! 私の純情を汚した分だけ、何度もぶん殴ってやるわよ!」
「純情? 酒を飲みあさって吐き散らしているお前がか? 随分笑わせるな」
「絶ッ対に、ぶち殺す!」
この女の強さは知っている。
しかし俺との相性はどうなのだろうな?
例え一人であろうと負けるつもりはないが。
「ハーディ、お前とこの女との相性は悪い、そちらを任せていいか?」
「……ただの風に大地は揺るがない。俺一人で充分だ。この手に戻れ、重鉄の槍よ!」
ハーディは門の前に置いていた大槍を鉄分に戻し、扉の隙間からこの部屋へと呼び寄せる。
手に集まると、寸分たがわぬ大槍が出現した。
「兵の命を奪わなかったことだけは感謝いたします。ですから、命だけは救って差し上げましょう!」
「……フン、民を蔑ろにする王に言われるセリフではない。その座を退き、大人しく隠居でもしているんだな」
「……やはり、理由はそれですか…… だからと言って、軽く渡せる様な物ではないのですよ! あのお方の為に、絶対に負けてやる訳にはいきません!」
「そうか、では始めようではないか。王国の運命をかけた戦いとやらを」
「……行くぞ!」
「行くぞこの変態野郎!」
「では、切り刻んであげましょうか!」
王と王候補との戦いが始まった。
だがこの部屋の中には、動けないとはいえ、無数の兵隊が蠢いているのだ。
何らかの魔法や能力を持っている奴なら、脱出してくる可能性もあるだろう。
周りにも気を使いながら戦うとしよう。
シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
イモータル (王国の女王)
サミーナ (次期女王候補)
動けなくなったこの兵士を壁に預け、いよいよ女王と対面できると、巨大な扉を両手で開く。
ようやくかと口元をほころばせ、その部屋の内情を見た時、俺の顔からは笑みが失われた。
「ようこそ、お出で下さいました」
正面の玉座に座るのは、こちらを悠然と見つめる女王の姿。
水色の髪は煌く程で、白美というには白すぎる肌。
左目の金眼が怪しく、まるで造られた人形のようである。
人のそれとは到底思えない。
その左右には百を超える武装した兵士と、ボロ小屋に閉じ込めていた奴等の姿。
それと……家に閉じ込めていたサミーナの姿もある。
全員がギリギリと歯をかみしめ、跳びかかりたい気持ちを抑えるのに必死のようだ。
王の前だからと、我慢でもしているのだろう。
「兄貴……」
「臆するなよハーディ、この程度、想定の内だ。予定通りやればいい」
「ああ……」
敵の戦力は膨大だ。
例え俺達がどれ程の力をもっていたとして、多対二というのは不利に違いない。
普通ならば。
「初めまして女王陛下、シィヴァ・タナトリスと弟のハーディ・タルタリスが参上いたしました。女王陛下におかれましては……」
「戯言は結構。貴方方の口から、ここに来た理由、それに目的を話しなさい。出来ないというのならば、最大戦力をもって叩き潰しますよ?」
「その前に、私達のことは、何時からお気づきになられていたので? 参考にさせていただきたいので是非お聞かせ願いたいのですが」
「貴方達が行動を起こす始まりから。あのグレッグという男は、素行が悪く、私達の監視対象でしたから。兵士の情報を聞きこんでいる時には、何らかの企てを行うだろうと情報が流れていました。貴方方の計画は、最初から破綻していたのですよ。何をするのか分かりませんでしたから、少しばかり泳がせはしましたけどね」
「なるほど、あいつでは魔王には成る事さえできなかった訳か。扱う人物を間違えてしまった俺のミスと言えるだろうな。次回からは気を付けると致しますよ女王陛下」
「さて、そちらの質問に答えたのです。こちらの質問にも答えてもらいましょうか」
「勿論でございます女王陛下。簡潔に述べれば、貴女にはここでその座を退いてもらいましょう。ハーディ!」
「……砂の大地よ……この世界を覆い尽くせ! デザート・ストーム!」
前詠唱を使ったハーディの砂の魔法は、この部屋の中に大量の砂を出現させる。
今回は数メートルどころか、数センチ先さえも見通せないほどだ。
規模として、五倍ほどの威力はあるだろう。
「しまった! またその魔法かよ!」
「べノム、動いてはいけません! 今対処いたします!」
王の扱う暴風が、砂の魔法を中央からこじ開けている。
風と風との戦いは、女王陛下に分があるらしい。
だが、ハーディの風はタダの風ではない。
二つの暴風は、打ち消し合う様に収まり、砂は部屋の中へと降り積もって行く。
「こ、これは?!」
「ま、不味いぞ。砂に体を飲まれる?!」
「今直ぐ脱出しないと動けなくなるぞ!」
その砂は兵士達の膝上にまで達すると、重い鎧を着た者達は動く事さえもできなくなっている。
砂はまだまだ降り積もり、いずれ腰のあたりまで達するはずだ。
まあこれだけでも充分ではあるが、もう少し駄目押ししてやろう。
「……恵の雨よ……彼等に癒しを与えたまえ。スコール・スプラッシュ」
与えるのは水。
少しばかり粘度の高いだけの、ただの水。
サラサラと流れる砂に絡みつき、強烈な重みを兵士達に与える。
固められた砂は、どれ程の強風でも吹き散らす事はできない。
ほとんどはその砂に飲まれて動けなくしてやったが、女王とを含めてサミーナが無事に逃げ延びたらしい。
俺が勝てば女王にしてやろうと言うのに、馬鹿な奴だ。
いや、グレッグを含めて、この女を選んでしまった俺が、ただ見る目が無かったと言うべきだろう。
「あんな辱めをしておいて、ただですむと思うなよこのクソ野郎! 私の純情を汚した分だけ、何度もぶん殴ってやるわよ!」
「純情? 酒を飲みあさって吐き散らしているお前がか? 随分笑わせるな」
「絶ッ対に、ぶち殺す!」
この女の強さは知っている。
しかし俺との相性はどうなのだろうな?
例え一人であろうと負けるつもりはないが。
「ハーディ、お前とこの女との相性は悪い、そちらを任せていいか?」
「……ただの風に大地は揺るがない。俺一人で充分だ。この手に戻れ、重鉄の槍よ!」
ハーディは門の前に置いていた大槍を鉄分に戻し、扉の隙間からこの部屋へと呼び寄せる。
手に集まると、寸分たがわぬ大槍が出現した。
「兵の命を奪わなかったことだけは感謝いたします。ですから、命だけは救って差し上げましょう!」
「……フン、民を蔑ろにする王に言われるセリフではない。その座を退き、大人しく隠居でもしているんだな」
「……やはり、理由はそれですか…… だからと言って、軽く渡せる様な物ではないのですよ! あのお方の為に、絶対に負けてやる訳にはいきません!」
「そうか、では始めようではないか。王国の運命をかけた戦いとやらを」
「……行くぞ!」
「行くぞこの変態野郎!」
「では、切り刻んであげましょうか!」
王と王候補との戦いが始まった。
だがこの部屋の中には、動けないとはいえ、無数の兵隊が蠢いているのだ。
何らかの魔法や能力を持っている奴なら、脱出してくる可能性もあるだろう。
周りにも気を使いながら戦うとしよう。
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