一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

12 小さく大きな物語63

農場の町。その町はとても臭い町だった。そこら中に動物が点在し、フンが無数に散らばってとても臭い町である。畑などが多く作られ、他の町などに輸出している。宿でちょっと休んでいると、隣の部屋から言い合いが聞こえて来る。どうも町の危機だという話で、何故だか俺達の部屋にやって来た。報酬は宿代と野菜類や肉類をくれるというし、手伝うことになるのだが、何やかんやで俺とリッド、バールとジャネスの姉ちゃんが組んで行くことになった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)


 臭いだけでもあまり体によくないし、口には布でマスクを着けて外へ出ていた。

「マスクをしてもやっぱり臭いな。早く終わらせる為にも敵の居場所を探さないとだな」

「う~ん、町も結構広いし、何所に出るか分からないよね?」

「探索は任せたわよ。私は適当に見守ってるからさ」

「ジャネスの姉ちゃんも手伝って……いや、やっぱりいいや。あんまり頭よくなさそうだし」

「なんだとおおおおおお?! 一回ぶん殴ってやるからそこに跪け!」

「糞まみれになるから嫌だよ!」

「こんな所で言い合ってても時間の無駄だろう。俺の体に臭いが染み付いたら不味い。全世界の女性が泣いてしまうことになる。まずは情報を集めて、敵の居場所を突き止めようじゃないか。さあ手分けして聞き込みだ!」

 よっぽど嫌なのだろう。
 バールが何時になくやる気を出し、俺達に指示を出している。
 まあ特に間違った事は言っていないし、姉ちゃんと戦うよりはと俺は言うことを聞くことにした。
 俺は西へと向かい、四人が四方向に分散して聞き込みをして行くのだが……

「んだねぇ、家んとこもやられたんけど。地面から出て来てるっぽいよぉ。地面の中に穴でも開いてるんじゃないんかね?」

 と、民家のおばちゃんの意見があった。
 網目のように町中に繋がっているのなら、何処からでも出て来そうな気もする。
 それでも見つける為には、出てくる場所を絞らないと話にならない。
 魔物なのか動物なのかは分からないが、好きな物、頻繁に狙う物ぐらいはあるだろう。

「じゃあ何が一番被害に遭ってるんですか? それがわかれば対処が出来ると思うんだけど」

「う~~んとぉ、家でも色々な野菜を作ってるんだけどねぇ。一番狙われてるのはロマネスコかなぁ」

「ロマネスコ?」

「見たことないかねぇ? 待っててねぇ、見せてあげるからぁ」

 家の奥から持って来られたのは、そのロマネスコという野菜だった。
 緑色の大きな三角にランス状の突起が幾つも生え、そこからもまた小さな突起が生えているというカリフラワーに似た食感と味の野菜らしい。
 食べ方も同じ要領で食えば良いという。

「ああ、そうだわぁ。これお土産に持って行ってよ」

「おっ、おばちゃん、ありがとうございます!」

「いいのよぉ、魔物に食べられるぐらいにあるんだからねぇ」

 お土産にその野菜を貰い、他の人にも聞き込みをして行くと、大体の系統がわかり始める。
 色々な野菜を食い漁っている様だが、特に気に入っているのが今の野菜と、ブロッコリーやカリフラワーと、同じようなものが多いらしい。
 主食がそれで、あとは付け合わせ程度に考えているのかもしれない。
 それに絞って見張りを続ければ、見つけることも可能だろうか?
 俺は他の三人と合流して町の中を周って行くのだが、四人で一ヵ所ずつとはいかないらしい。
 一か所でまとめて栽培している訳でもなく、家庭菜園並に点在しているから、やはり絞り込むのは無理で、結局は領主の家に向かったのだった。

「んで、オラの家さ来られなすったと? んだば、まあどうぞお上がりくだせぇ」

「お邪魔しま~す」

 やって来たのはこの町の領主、ドドンド・ドビラズドさんというドが多い人の家。
 領主といっても貴族ではなく、町長的立場の農場の責任者代理のような感じだ。
 町に漂うこの臭いがあるから、貴族は嫌がって来なかったらしい。
 家も他の民家と同じような造りで、お金を持っている風には見えない農場の家といった感じだろう。
 その家に入って、俺達は頼みとごとをしていた。

「だから、収穫時期をずらして欲しいんだけど、ダメかなぁ」

「う~む、時期をずらすのはなぁ。輸送隊の日付もきまっとるしぃ、難しぃなぁ」

「ならさ、野菜自体を別の畑に移して欲しいんだけど。それも駄目かな? 一種類の野菜だけなんだけど」

「それも難しいねぇ、野菜にダメージが残るからぁ、味が落ちるんだよねぇ。う~ん、でも手がないわけじゃないかなぁ。一種類だけならぁ、袋でも被せて臭いを押さえるとか、出来なくもないかなぁ。長くはできないけどねぇ」

「うん、でも一日ぐらいは平気だろ? 魔物ってのを見つけるのに必須なんだ、何とかお願いしたいんだけど」

「ん~ん、分かったよぉ。町中にお触れを出してみるからぁ、ちょっと待っててねぇ。それと畑の場所だけどぉ、家の畑を使ってくれて構わないよぉ。他だと迷惑がかかるかも知れないからねぇ」

「お、そりゃありがたい、移動する手間が省けるな!」

 袋でかぶせてしまえば地下に行く臭いも抑えられる。
 完全ではないけど、襲われる可能性も減らせるはずだ。
 そして今、俺達はドドンドさんの畑に潜んで待っていた。
 既に二時間ほど時間が経つが、今の所動きはない。

「レティ、ほんとに来るのかなぁ?」

「来て貰わないと困るなぁ。もうなんか服に臭いが染み付いてる気がするし、もうそろそろ取れなくなりそうだ」

「それは駄目だ! 今直ぐにでも見つけなければ!」

「コラ、大声を出して立つんじゃないよ馬鹿親父! 見つかったら来ないでしょうが!」

「いや、二人共充分に煩いぞ。もうちょっと静かにしてくれ。それにしてもリッド、もうちょっと離れてくれないか? くすぐったくてしょうがないんだけど」

「えっ? 僕はレティの体に触れてないよ?」

「はっ?」

 なんだかくすぐったい腰の辺りを見ると、貰ったお土産を食い漁っているウサギみたいな生物を見つけた。
 どうも穴を掘って出て来たらしい。
 耳も顔も手足体もそのまんまウサギなのだけど、尻の後ろにある尻尾が異常に太い。
 寧ろ尻尾にウサギがついていると言った方がいいだろう。

「うおお?! 居たあああ!」

「お、見つけたのかレティ。じゃあ早速退治しなければ!」

「まあちょっと物足りない気もするけど、魔物はぶっ倒してやるわ!」

「え? こんなに近づいても襲って来ないんだから、やっぱり動物でしょ。殺すのは可哀想だよ」

 そう言ってリッドがウサギを抱き上げた時、何かを感じたらしい。

「あ、あれ? な、何か……すごく重いよこれ!」

 巨大な尻尾は地面の奥にまで続いているらしく、リッドは持ちあげられないでいた。
 それでも頑張って持ち上げようとしているリッドに、俺達も手を貸すのだが……

「お、おい、これ本当にウサギなのか? 絶対なんか違うものなんじゃないのか?!」

「ぬおおおおおおおおおおおおお、重いなこれは! やっぱりこれは魔物だろう!」

「ぬぬぬぬぬ、魔物ならぶっ倒さないとおおおおおおおおおおお!」

 四人掛かりで全力で引っ張っていると、尻尾が入った地面が盛り上がっている。
 盛り上がった地面の長さからして、それはウサギの体の十倍にも達していた。
 続けていると、グゴゴゴゴっと、足元の地面が震動を始めたのだ。

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