一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 小さく大きな物語62

引き続き俺達はチェイニーに追い駆けられ、次の町の前までやって来ている。町に入る前に説得しようと頑張り、ようやく納得して俺達の同行者となった。だが今度はストリアとチェイニーにの戦いが始まり、俺達はそれを放置して町へと入った…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア(村娘)
リッド   (村人)     リーゼ (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール (ジャネスの父親)
チェイニー (マリア―ドの宮廷魔導士)


「うわッ、くさッ!」

 思わず俺がそう叫んでしまうほどに、この町は本当に臭かった。
 足の踏み場もないぐらいにフンだらけで、地面の方が少なく見えるぐらいだ。
 だから馬車の車輪がフン塗れになったりして、永遠に臭いが付きまとってくる。

「あんまり長くは居たくない場所だわね。私も外に居た方が正解だったかも?」

「え~っと、この町はマリア―ドの食糧庫みたいな場所なんだって。ちょっと臭いけど、美味しい食材がいっぱいあるってガイドブックに書いてあるよ」

 リッドが門番から貰ったガイドブックを見ている。
 きっと臭いのことなどは書いていないのだろう。

「ふ~ん、美味い物があるのは良いけど、なんか全部臭いそうだよな。それに、久々にシッカリ眠りたかったけど、この臭いじゃそれも大変そうだ」

「案外宿の中は臭わないかもしれないわよ? 旅の人にはこの臭いはきついからね。宿としても対応してるんじゃないかしら」

「どうだろ? あんまり期待はできないけどなぁ」

「一度行ってみて考えようよ。その方が確実だからね」

「う~ん、そうだな、じゃあ行ってみるか」

 俺はリッドの意見に賛同し、この町の東付近にある宿、聖農場亭へ向かった。
 その中は、思った以上に臭い対策はしてあったけど、それでも微妙な臭いは残り続けている。
 どうも完全になくすのはできないらしい。
 多少気になるけど、なんとか休むことができると、俺達はこの宿へ泊まる事になった。
 そのことは特に問題はないのだが、俺達三人がちょっと休んでいると、隣の一室から怒鳴り声が聞こえてきている。
 争うというよりは、重要な相談をしているという感じだろうか。
 宿の壁が薄いから全部丸聞こえだ。

「このままじゃあ収穫量が足りなくなっちまう。どうにかして泥棒を見つけ出さないと、領主様に怒られちまうだよ!」

「そのぐらいのことは分かっとるのよ! だからこうして話し合いや対策をしとるんでしょうが!」

「まあまあ皆さん落ち着いてください。悪いのは全部あの泥棒なんですから。私達が争ってもしかたないでしょう」

「落ち着いとる場合じゃねぇわい! 町が壊滅の危機なんじゃからな!」

「しかしのぅ、ありゃあ見たこともない動物だわ。もしかしたら魔物なんじゃないのかい?」

「人を襲うのが魔物だって聞いたことがあるんだが? ありゃあ違うんじゃないのかのぅ?」

「あれが魔物で間違いはないよぉ。放って置いたら町が滅んじゃうんだからね」

 なんか多くの町の人達が集まって相談をしているらしい。
 魔物が出たとか言ってるけど、作物を荒らすだけなら魔物とは違うんじゃないかとも思う。
 まあ例外も居ないことはないから、完全に違うとは言い切れないが。

「魔物が出るとなると、儂等じゃぁ対処が出来んのじゃないかい? 領主様にでも相談に行くかぁ」

「いやぁ、今んところ農作物の被害しかないんじゃから、領主様に頼むのも違うんじゃないかぁ?」

「しかしなぁ、その作物がワシ等の生命線なんじゃから、何かしら手を打たないと」

「おお、そう言えば久しぶりに冒険者が来たと聞いたぞ。その方々に頼むのがいいんじゃないのかぁ?」

「おお、なんと丁度良いタイミングで、こりゃあ天の神様がワシ等の為に寄越してくださったんだなぁ。早速頼みにいこうじゃあないか」

『んだな』

 この町に来るまでに、近くに他の冒険者は見かけなかったし、その冒険者ってのは俺達のことだろう。
 隣の部屋の奴等が扉を開けて、多くの足音が聞こえてきている。
 当然のように、この部屋に向かって来ている。
 というか、俺達が来てる事を知ってるから隣の部屋で会議してたんでは?
 そんな疑問が湧いて来るほどにタイミングが良すぎた。 

「すみませんだ、冒険者さん、部屋にいらっしゃるんでしょう。ちょっとお話を聞いてくれませんかい?」

 その声が聞こえたのは、ほんの数秒後のことだった。
 どうせ部屋に俺達が居るのも知っているのだ。
 居留守を使っても無駄なんだろう。
 はぁ、っとため息をつき、リーゼさんが部屋の扉を開けた。

「え~っと、どなたでしょうか……?」

「ああどうも、私達はこの町の農業組合の者なんですがぁ、さっきの話は聞こえていませんでしたかぁ。実はですねぇ、この町にですねぇ」

「いえ、聞こえていましたから大丈夫ですので……」

 やって来たのは、全員白シャツに胴長の服を着た農家風の人々だった。
 まあ農家風というよりは、普通に農家の人なんだろう。
 中には女性もいるのだが、代表しているのは一番年上そうな五十ぐらいの男だ。
 肌は日に焼けて、小麦色になっている。

「では受けてくれませんか。あまり報酬はだせませんけんど、この宿代と自慢の野菜や肉も無料で差し上げますからぁ。どうでしょうか皆様ぁ」

「魔物が出るとなると心配ですよね。う~ん、じゃあリッドとレティ君の二人を出させますから、それで……」

「えっ? 俺達だけか?!」

「母さん、まさか臭いから外に出たくないだけじゃ……」

「あらやだ、そうじゃないわよ。あんまり凶暴そうな奴じゃなさそうだし、経験値を上げておくのも良いんじゃないかって思っただけよ。ほほほ それに女の子に臭いがついたら嫌じゃないの」

「母さん、女の子って歳じゃ……あ、ちょっとやめて。いたたたた!」

 余計なことを言ってしまったリッドが頭をグリグリされている。
 口は災いの元というやつだ。

「私じゃなくても! 他の子だってそんな臭いがしてたら嫌でしょう?! 二人が嫌なら、あのもう一人の男でも誘って行きなさい!」

 リーゼさんは絶対に来ないつもりだ。
 まあリーゼさんだって女の人だ。
 こんな臭いの中に出たくないというのも分からなくはない。

「それではお二人共、頑張ってお願いいたしますぞ! 期待していますから!」

 結局町の人に頼まれて、俺達だけで行くことになってしまう。
 仕方がないからと、俺とリッドは別の部屋に泊まっているバールを尋ねる。
 一応同行者だし、このぐらいの頼みは聞いてくれると思ったのだけど……

「レティの頼みでも残念ながら無理だ。この俺の体がウンチ臭くなったら女の子にモテなくなるじゃないか。気を付けて二人で頑張ってくれ!」

「いや私は行くわよ、体を動かさないと鈍っちゃうし。じゃ留守番よろしく!」

 やはり臭いというものは重大な敵らしい。
 バールが断るが、代わりにジャネスの姉ちゃんは来てくれるという。

「くぬううううう、娘に臭いが染み付くのは駄目だ。 ……し、仕方ない、じゃあ俺も行ってやるから、その魔物とやらを速攻で倒すとしよう。レティ、その魔物は何所に出るんだ?」

「どこに出るって……作物や動物が居る所全般?」

「え~っと、それ結構広いよね。町の中全部なんじゃない?」

「……レティ、やっぱり俺はやめ……」

「うおおおおおし、さあ行きましょうか! その魔物をぶっ倒しに行くわよ!」

「ジャ、ジャネス……く、首がああああああ」

 バールは言葉を止められ、ジャネスに引きずられて行ってしまった。

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