一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

5 常闇より出でしは、二体の魔食いの魔王也。

力を得る為に戦魔との戦いを挑む俺達。相手は力強く、その防御力も異常に高い。手持ちの剣だけではかなり辛い戦いになりそうだったが、戦魔はゲオルムの命令しか聞かない物でしかなかった。たとえ強くとも俺達が負ける訳がない。ゲオルムに戦魔の攻撃を向けると、やはり停止の命令をくだす。俺達はそこを狙い、戦魔を剣で貫いた…………


シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
グレッグ  (片腕が巨大な男)


 何時ものボロ小屋の前、丁度よく出会ったグレッグと少し話を続けている。

「その姿、まさかアレから生き残ったのか?!」

 この言い分では、最初から俺達を材料にでもする気だったのだろう。
 それでも、この力を得る為の機会を与えてくれたのだ。

「ああ、おかげで力を手に入れたぞ。感謝してもしきれないな」

「……貴様に力というものを見せてやる」

「この魔王グレッグ様に挑もうというのか?! お前等程度が調子に乗りやがって。直ぐに後悔させてやるぞ!」

 本当に恨みなどはなにもない。
 キメラ化していて純粋に筋力という力と、体の硬さは力を試すのには丁度良い相手なのだ。
 片腕の力と防御力は相当なものなもので、弱いというわけでもない。
 しかし力を持っているだけで、戦いなれてはいないのだ。
 大きな片腕はバランスが悪く、それを使う度に体のバランスを崩している。
 それに動きも遅く、的としてもレベルが高い。
 連携を使うまでもなく俺一人でも充分だった。

「このグレッグ様があああああああああああああ?!」

 グレッグを相手に、俺達は自分の力を試している。
 腕の力、脚力、ジャンプ力、そして異能の力の数々を試した。
 あの爺さんには最強というものを指定したのだが……

「最強を求めたというのに、全てがそうとは言えないようだな。そっちはどうだハーディ」

「……同じようなものだな」

 自分の変化した体を見る。
 腕はダークグリーンの鱗で覆われ、水中で動けるようにと鋭い魚のヒレの様なものがある。
 指の間には水かきと爪は鋭く毒性を持つ。
 空中戦にも対応した巨大な翼は、あの戦魔のもので、その硬さと柔軟さは自分でも体験している。
 二つの翼の間には、もう一つの大きな背びれ、胸筋は分厚く太く、剣の突きさえ防ぐだろう。
 俺達にやられたのが悔しかったのか、鳩尾を護るように逆三角の黒いプレート。
 地を踏みしめるのは、しなやかに引き締まった獣の足である。
 ガッチリと地を掴む大きな爪は、足の力を存分に伝えていた。
 歯は鋭く、目を護るような透明なプレート、まるで化物といったところだろう。

「黒の刃を食らってみろ! ダーク・スプラッシャー!」

「があああああああああああ!」

 俺が放ったのは、黒く鋭い水の刃である。
 夜に放ったならば、その形状すらも見えないはずだ。
 グレッグの体にぶつかり、硬い皮膚にも少し傷をつけている。
 数、や威力ともに自由自在で、手加減してこの威力だ。
 充分に使えるものだろう。

 そしてもう一人、ハーディの方は、地上戦に特化した姿である。
 全身鎧を着たケンタウロスと言った所だろうか。
 鎧自体が体に同化し、大槍を軽々と振り回している。
 力強く、硬く、そして駆け抜ける速度も尋常ではない。
 だが俺にしてもハーディにしても、この体で生活するのは相当に苦労が強いられるはずだ。
 寝るのも食事をするのも苦労し、女性と付き合うこともほぼ無理だといえる。
 それだけの物を引き換えにしているのだ、これで弱くては困ってしまう。

「……デザート・ストーム!」

「ぐあああああああああああああ!」

 ハーディの放った魔の力は、細かい砂の粒子が混じった風の嵐を巻き起こす。
 吹き荒れる黄色の壁は、先を見通す事もさせず、開いた目にダメージを与える。
 鼻や口の中は砂だらけにされ、呼吸をするのも辛いはずだ。
 強力な範囲攻撃魔法だが、こちらにまで影響を与えている。
 俺の辺りはかなり弱まってるとはいえ、少し離れると二人の姿が霞み、何方が何方か分からない程だった。
 攻撃しようにも敵の位置が判別しない今、無駄に攻撃してハーディに当たったら意味がないだろう。
 だが、ハーディにとってはそうではないらしい。
 敵の位置を完全に把握し、戦いを一方的に続けている。

「……おおおおおおおおお!」

「おわああああああああああ!」

 どうやらハーディが放った魔法の砂は、あいつに位置や動きを伝えているようだ。
 どれ程の敵が来たとしても、絶対的な優位性を得ることができるだろう。
 まあ俺の近くで使われると少し困ってしまうが。

「ま、参った! もうお前達に命令したりしない。俺の負けだ! だからもうやめてくれ!」

 どうやら力をすべて推し量る前に、向うの方が音を上げてしまった様だ。
 別にこいつに恨みはない。
 これ以上の戦闘はやめてやるとしよう。
 だが、配下にするには丁度良いレベルだろうか。
 この男を真の魔王にするのも悪い話じゃないかもしれない。

「グレッグよ、俺達と配下になる気はないか? お前を本物の魔王にしてやってもいいんだぞ」

「……俺達と組めば、お前の名声も上がるだろう」

「こ、断ったら俺を殺す気か?!」

「お前にそこまでする価値はない。だが、それなりの目には遭って貰うとしよう」

「……!」

「ひっ……」

 ハーディが大槍をグレッグに向けている。
 無謀な反撃の機会も与えてはやらない。

「わかった、わかったよ。あんた達の配下になる! なるからその槍をおろしてくれ!」

「ではグレッグ、これから宜しく頼むぞ」

「……だが、もし俺達を裏切れば、その時は……」

「そそそそそんなことはしねぇよ! 絶対だ、絶対!」

 こうしてグレッグを配下とした俺達は、そのとりまきである二人も巻き込み情報を集め出した。
 集めるべき情報とは、この国に住む兵士の情報である。
 得にキメラ化している兵士の能力と魔法、強い者達の情報だ。
 邪魔になりそうな奴は、連携をとられる前に個別に潰しておかなければならない。

「さて、まずはどいつから相手をしてやろうか」

 集められた情報から俺達が選んだのは、情報伝達の要であるバールという男だった。

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