一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
1 闇纏いの兄弟。
戦争。国と国との戦いにおいて、犠牲者というのは常に民人なのである。それは勝利しようとも変わりはしない。家族や仲間の死を乗り越える為、奴隷や弱者に当たる者も少なくはない。ここにそれを乗り越えられなかった兄弟が存在する。シィヴァ・タナトリスとハーディ・タルタリスという兄弟である。二人が起こすのは王国の絶望か。それとも希望なのか。連黒の魔王編の始まり。
シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
グレッグ (片腕が巨大な男)
戦争。
勝利者は笑い、敗者はただ泣き叫ぶ。
そう考えるのが一般的かもしれない。
だが勝ったからといって、簡単に笑えるかどうかは別である。
親、兄弟、親戚、友達、隣人と何かしらの犠牲の上での勝利なのだ。
一応その中には、運よく何の犠牲も出さなかった者も存在している。
何故自分達だけ、何故あいつは何の犠牲もないのかと怒る者も中にはいるのだ。
勝ったならば相応の対価をと、怒りをぶつけられる奴隷を望む者も居る。
どちらにしろやりきれない気持ちを持っているのは同じだろう。
本当に笑っているのは関係のない国と、地位を得た一握りの人間だけだ。
何処の世界であっても、どれ程の平和な国であったとしても、人の心とは決して一つにはなれないのが現実である。
ここにも二人の兄弟がいる。
何不自由もなくとまではいかないが、家族とそれなりに平和に暮らしていた。
俺の名は、シィヴァ、弟はハーディと言い、家名は持っていない。
黒色の髪に、ほんのりと赤が混じった二人の兄弟である。
運命が変わったのは俺が六歳、ハーディが五歳の時だった。
両親の不慮の事故死。
誰も悪くはない、ただの事故。
馬の操縦を誤って崖への激突により、打ち所が悪く死亡したとそれだけの話である。
ただ、それでも俺達の運命は変わってしまう。
孤児院への入居とそこでの暮らしは、それ程悪い物ではなかった。
同様に引き取られた仲間と、第二の家族と呼べる絆を結ぶのだが、俺達が運良く里親へ引き取られてしまう。
別々の家に引き取られ、シィヴァ・タナトリスとハーディ・タルタリス名を与えられたという。
二人共が今までより美味い飯の代わりに、かなりの厳しさを要求されたが、それでも二人目の両親と普通に暮らしていた。
だが運命は再び俺達を奈落へと突き落とす。
俺が十六、ハーディが十五の頃、この王国に最初の戦争が起こってしまう。
騎士として戦場に出た父親と、魔導士としての力を持った母親が共に討ち死にをしてしまった。
二人共が同様にである。
まだ家督を得ていない俺達は、ただの平民として野に放たれた。
それぞれに兄弟を頼り、事情を知って運命というものを意識したのがその時だろう。
二人で生き延びようと力を合わせ、何とか生き延びられる算段が付いたその日、王国への夜襲、他国の進行が始まってしまった。
なんとか死ぬのは免れたが、貯めていた資金も奪われ、子供の頃暮らしていた孤児院の壊滅を知った。
この国を捨てる資金さえもなく、ただただ絶望の淵にある俺達が、襲って来た二つの国を怨んだのは道理だろう。
それでもただ怨んだだけであった。
王国から帝国への和平がなければだ。
歯ぎしりをして敵意を向けたのが、自分達が住むこの国であった。
そしてまた一つ、前王メギドとその腹心の暴走での町の壊滅。
それが最後の引き金となった。
大破壊を起こした前王と、それを許し、のうのうと王を続けている女王に復讐する為、俺達は動き出した。
現在。
王国の片隅にある一軒のボロ小屋。
素人が手探りで作った様な小さな小屋には、王国を快く思っていない者達が集まっている。
人数は五人と少ないが、その話し合いは不穏なな物ばかりであった。
「まずあの女王の奴だ。このグレッグ様の力でヒィヒィ言わせて従わせてやらぁ。俺のテクニックがあれば、あんな奴簡単に従わせてやれるぜ! それで俺が王よ。そうなればお前達全員大臣にしてやるからなぁ!」
「流石ですグレッグさん! 俺一生ついていきますよ!」
「もちろん俺もですぜ! この国の王になるのはグレッグさんに決まっていますぜ!」
「ああ、そうだろうそうだろう」
中心に居るのがグレッグという男だ。
片腕だけが巨大なこの男はキメラ化の手術を受けてる、俗に言う魔族と言われる男である。
左右には取り巻きのノークスとバルンが、全力で彼を持ち上げていた。
「で、お前達、お前達ももちろん手伝ってくれるんだよな?」
「俺達はグレッグさんについて行きます。そうだろうハーディ?」
「……当然だ!」
俺達の表情は、全てが真剣そのものである。
本気でこの国を潰そうと考えていたこの二人こそが俺達だ。
幾度もの戦争と襲撃、多くの戦いにより、この国に運命を変えられてしまった俺達である。
「グレッグ、さん。決行日は何時だ? 俺は何時でもやれるから。今からでも行ける!」
「まあ待ちな。やるにしても準備と言うものがあるだろう。一年後かそこらにデッカイ花火をあげてやろうぜ!」
この待ちきれないという感じでグレッグを睨んでいる方がハーディである。
組織と呼ぶには小さすぎる規模のものだが、同じ志を持つ同士などと思っていたのも最初の内だけであった。
この男達はただ粋がっているだけで、本気で王国を潰そうともしていない。
俺達はそれを知っても、まだ利用できるのではないかと付き合いを続けていた。
そんなある日、グレッグが気になる話を持ち掛けてきた。
「そうだ、一つ言い話しを聞いたんだが、お前達、キメラ化というものに興味はないか?」
「当然あります!」
「……ああ、俺はそれを望んでいる!」
キメラ化とは、人である肉体を捨て、身体能力や魔法と呼ばれる力を強化するものである。
この五人の内で、グレッグはその施術を受けていた。
片腕が巨大化しているのがその為だ。
「お前達はどうするよ?」
「いえ……俺達は別に……」
「今のままでも不自由はしていないので……」
ノークスとバルンは自分の体が変わるのが怖いのだろう。
キメラ化。
一時は美容の為と流行りもしたが、それはほんの一瞬のことだった。
結局は禁止され、今はその施術を受ける事はできない。
しかし奴等と戦うには、その力を何としてでも手に入れたかった。
何故ならば、王であるイモータルとその周辺には、キメラ化した奴が多く存在するのだ。
「まっ、ガセかもしれねぇがな。一応場所は教えといてやるぜ。成功したとしても、このグレッグの力には及ばないと思うがな。ガッハッハッハッハァ!」
俺達は躊躇いもなくその場所に向かって行った。
シィヴァ・タナトリス(兄)
ハーディ・タルタリス(弟)
グレッグ (片腕が巨大な男)
戦争。
勝利者は笑い、敗者はただ泣き叫ぶ。
そう考えるのが一般的かもしれない。
だが勝ったからといって、簡単に笑えるかどうかは別である。
親、兄弟、親戚、友達、隣人と何かしらの犠牲の上での勝利なのだ。
一応その中には、運よく何の犠牲も出さなかった者も存在している。
何故自分達だけ、何故あいつは何の犠牲もないのかと怒る者も中にはいるのだ。
勝ったならば相応の対価をと、怒りをぶつけられる奴隷を望む者も居る。
どちらにしろやりきれない気持ちを持っているのは同じだろう。
本当に笑っているのは関係のない国と、地位を得た一握りの人間だけだ。
何処の世界であっても、どれ程の平和な国であったとしても、人の心とは決して一つにはなれないのが現実である。
ここにも二人の兄弟がいる。
何不自由もなくとまではいかないが、家族とそれなりに平和に暮らしていた。
俺の名は、シィヴァ、弟はハーディと言い、家名は持っていない。
黒色の髪に、ほんのりと赤が混じった二人の兄弟である。
運命が変わったのは俺が六歳、ハーディが五歳の時だった。
両親の不慮の事故死。
誰も悪くはない、ただの事故。
馬の操縦を誤って崖への激突により、打ち所が悪く死亡したとそれだけの話である。
ただ、それでも俺達の運命は変わってしまう。
孤児院への入居とそこでの暮らしは、それ程悪い物ではなかった。
同様に引き取られた仲間と、第二の家族と呼べる絆を結ぶのだが、俺達が運良く里親へ引き取られてしまう。
別々の家に引き取られ、シィヴァ・タナトリスとハーディ・タルタリス名を与えられたという。
二人共が今までより美味い飯の代わりに、かなりの厳しさを要求されたが、それでも二人目の両親と普通に暮らしていた。
だが運命は再び俺達を奈落へと突き落とす。
俺が十六、ハーディが十五の頃、この王国に最初の戦争が起こってしまう。
騎士として戦場に出た父親と、魔導士としての力を持った母親が共に討ち死にをしてしまった。
二人共が同様にである。
まだ家督を得ていない俺達は、ただの平民として野に放たれた。
それぞれに兄弟を頼り、事情を知って運命というものを意識したのがその時だろう。
二人で生き延びようと力を合わせ、何とか生き延びられる算段が付いたその日、王国への夜襲、他国の進行が始まってしまった。
なんとか死ぬのは免れたが、貯めていた資金も奪われ、子供の頃暮らしていた孤児院の壊滅を知った。
この国を捨てる資金さえもなく、ただただ絶望の淵にある俺達が、襲って来た二つの国を怨んだのは道理だろう。
それでもただ怨んだだけであった。
王国から帝国への和平がなければだ。
歯ぎしりをして敵意を向けたのが、自分達が住むこの国であった。
そしてまた一つ、前王メギドとその腹心の暴走での町の壊滅。
それが最後の引き金となった。
大破壊を起こした前王と、それを許し、のうのうと王を続けている女王に復讐する為、俺達は動き出した。
現在。
王国の片隅にある一軒のボロ小屋。
素人が手探りで作った様な小さな小屋には、王国を快く思っていない者達が集まっている。
人数は五人と少ないが、その話し合いは不穏なな物ばかりであった。
「まずあの女王の奴だ。このグレッグ様の力でヒィヒィ言わせて従わせてやらぁ。俺のテクニックがあれば、あんな奴簡単に従わせてやれるぜ! それで俺が王よ。そうなればお前達全員大臣にしてやるからなぁ!」
「流石ですグレッグさん! 俺一生ついていきますよ!」
「もちろん俺もですぜ! この国の王になるのはグレッグさんに決まっていますぜ!」
「ああ、そうだろうそうだろう」
中心に居るのがグレッグという男だ。
片腕だけが巨大なこの男はキメラ化の手術を受けてる、俗に言う魔族と言われる男である。
左右には取り巻きのノークスとバルンが、全力で彼を持ち上げていた。
「で、お前達、お前達ももちろん手伝ってくれるんだよな?」
「俺達はグレッグさんについて行きます。そうだろうハーディ?」
「……当然だ!」
俺達の表情は、全てが真剣そのものである。
本気でこの国を潰そうと考えていたこの二人こそが俺達だ。
幾度もの戦争と襲撃、多くの戦いにより、この国に運命を変えられてしまった俺達である。
「グレッグ、さん。決行日は何時だ? 俺は何時でもやれるから。今からでも行ける!」
「まあ待ちな。やるにしても準備と言うものがあるだろう。一年後かそこらにデッカイ花火をあげてやろうぜ!」
この待ちきれないという感じでグレッグを睨んでいる方がハーディである。
組織と呼ぶには小さすぎる規模のものだが、同じ志を持つ同士などと思っていたのも最初の内だけであった。
この男達はただ粋がっているだけで、本気で王国を潰そうともしていない。
俺達はそれを知っても、まだ利用できるのではないかと付き合いを続けていた。
そんなある日、グレッグが気になる話を持ち掛けてきた。
「そうだ、一つ言い話しを聞いたんだが、お前達、キメラ化というものに興味はないか?」
「当然あります!」
「……ああ、俺はそれを望んでいる!」
キメラ化とは、人である肉体を捨て、身体能力や魔法と呼ばれる力を強化するものである。
この五人の内で、グレッグはその施術を受けていた。
片腕が巨大化しているのがその為だ。
「お前達はどうするよ?」
「いえ……俺達は別に……」
「今のままでも不自由はしていないので……」
ノークスとバルンは自分の体が変わるのが怖いのだろう。
キメラ化。
一時は美容の為と流行りもしたが、それはほんの一瞬のことだった。
結局は禁止され、今はその施術を受ける事はできない。
しかし奴等と戦うには、その力を何としてでも手に入れたかった。
何故ならば、王であるイモータルとその周辺には、キメラ化した奴が多く存在するのだ。
「まっ、ガセかもしれねぇがな。一応場所は教えといてやるぜ。成功したとしても、このグレッグの力には及ばないと思うがな。ガッハッハッハッハァ!」
俺達は躊躇いもなくその場所に向かって行った。
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