一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
35 お前の姿は見えているぞ!
全く眠った気がしないまま朝になり、私は身だしなみを整えてシャーンが起きるのを待っている。起きたシャーンの髪を直し、ご飯を美味しく食べたのだけど、今日は要らないイベントが待っているのだ。この日は私がお風呂に入れられてしまう日で、フレーレという女に連れられてお風呂場で洗われてしまう。お湯の中に入れられたり、頭をゴシャゴシャ拭かれたりと、色々酷い目に遭った私だけど、次はシャーンの入浴中の護衛を任された…………
モモ (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
ダスク (魔道研究所の職員)
デルルク (浴場の欲情の男)
フレーレが戻って来た、という訳ではなさそうだ。
かなり遠くからこちらの動きを覗いている感じがした。
また青い奴なのかと警戒するも、何だか見たことがある顔をしている。
真っ白な顔と、水色の髪の人は、シャーンのお母さんだった。
一応青が入っているけど、あの色は元の髪の色である。
たぶん心配して見に来たのだけど、近寄ったら青化してしまうから遠くで見つめているのだろう。
私はお母さんに走って行くと、着いた時には居なくなっていた。
シャーンと合わせてあげたいけど、それはサルビアの作る薬が完成してからだ。
今は我慢して貰う他はない。
仕方ないから私はお風呂場の入り口に戻り、再び見張を続けている。
一応中の様子を確認してみるも、中にはシャーンの気配が一つだけで、特に変わった所は見られない。
たぶんだけど、お風呂場の中で走り回って遊んでいると思う。
やっぱり遊んでいたのかと私は納得するのだけれど、どうも中が騒がしい。
何をしているのかと私は耳を澄まし、中の声を確認してみる。
「やだぁ、来ないで!」
「王子、俺はこの時を待ちわびていたのです。さあ恥ずかしがらずにこちらに来てください。同性同士なのですから何も恥ずかしがることはないです。もう逃げるのはやめて、二人で洗いっこしたり触りあっこしたり、色々と楽しいことをいたしましょう!」
「やだああああああああ!」
お風呂場の中からは、シャーンと誰かの声が聞こえる。
気配は相変わらず一つしかなく、さっき私が入った時にも、フレーレ以外は誰も居なかったはずである。
まさか一人で声を変えて遊んでいるだけなのだろうか?
気になった私は、お風呂場の扉を開いてみたのだけれど、中にはシャーンともう一人男が立っていた。
お風呂場なので二人共素っ裸である。
男の姿は目には映るが、やっぱり私には気配を感じない。
髪の色は当然青く、私達の敵なのだろう。
でも気配が感じられないからか、なんか触りたくない。
「シャーン!」
「お姉ちゃん、助けて!」
私はシャーンの前で立ち塞がり、男に警戒して爪を出す。
相手は何も武器はもっていない。
あるのはまあ……腰にある小さな棒ぐらいだろう。
あれに当たっても痛くはないが、なるべく当たりたくはない。
「くぅ、昨日から隠れて待ちに待ったこの時間に、貴様のような邪魔者が居て良いはずもないわ! 俺の前から消えろ、クソ猫が!」
つまり私の時も、お風呂場のどこかに潜んで居たということだろう。
別に見られてどうとも思わないが、敵に潜まれていたのは気分が悪い。
少しお仕置きしてやるとしよう。
「お前、退治してやるぞ。たあああああああ!」
私は力強く蹴りを放つのだけど、相手は全く動かなかった。
私の蹴りは男の額に当たるが、その体の中ををすり抜けてしまう。
一度上半身が消滅するが、まるで湯気のように揺らめき、その体は元に戻ってしまったのだ。
「無駄だ。この青き流麗の一人、青の嗅欲のデルルクの前では、どんな攻撃も無意味なのだ! ここの湯気があるかぎり、俺は絶対に倒せん! ふふふ、この浴場は欲情で満たされるのは決定している事のなのだ!」
「ねぇお姉ちゃん、なんか湯気が必要みたいだよ。お風呂場から出ればいいんじゃないかな?」
「ん、なんかそうみたいだな。じゃあ早く出るぞシャーン!」
「な、何故弱点を知っているのです王子?! 俺の秘密を知られるとは、何てことだ!」
さっき自分で言ったのに、気付いていないんだろうか?
私はもう一度攻撃しようと構えをとるが、隣に居たはずのシャーンの姿が掻き消えた。
「今頃気付いたのか? でも無意味。王子は俺の手の中にあるのだからな!」
今シャーンは、前に居るデルルクの横に出現している。
でもシャーンの気配はあそこには感じられず、別の場所へ移っていたのだ。
つまりこの前の男の本体は、シャーンの近くにいるはずである。
私は置いてあった木製の桶を持ち、その場所へ投げつける。
「うおおお、危ない!」
「わわわわわ!」
どうやら、かなり近い場所を通り過ぎたらしい。
男の場所を発見したのはいいが、その姿はまだ見えていない。
姿の見えない相手に、急所を狙うのは大変そうだ。
「何故俺の位置がわかる?! 俺の姿はお前の目の前にしかないはずだ!」
「教えてやんない!」
幸いにも、ここには魔道研究所の職員も入るお風呂場だから、多くの桶や石けんとか色々な物が置いてある。
私は積み上げられた桶の場に移動し、なるべくシャーンを避けて桶を投げ続けた。
かなり強烈に投げつけたが、見えないから全ては当ってくれないらしい。
「うをっ! くぞ、この程度どうとでもなる!」
「うわあ、怖いよお姉ちゃん」
「大丈夫、シャーンには当てないから!」
「えええ?!」
大半の桶は避けられ、壁に当たって弾けて壊れてしまう。
これでは二度投げるのは不可能だ。
「いくらやっても無駄だ。俺にはその程度の攻撃は効きはしないぞ!」
「やああああああああああああああ!」
それでも私は投げ続け、多くの木片が散らばってゆく。
その木片が何処へ落ちたのか。
殆どが湯の中に落ちて、辺り一面には木片の蓋が誕生した。
一応狙ってやってるのだけど、表面を覆い尽くすには足りないようだ。
しかし、ほんのりとは湯気が抑えられただろうか?
本物に見えた幻影が、薄くなって揺らいでいた。
逆に本物の方は、透明からほんのり見え始め、その位置を現している。
姿が見えさえすれば、後は簡単なことだ。
私はまだ自分が優位だと思っている男に、疾風の如く走り出した。
相手は裸で武器もなく、ただ姿をくらますだけの奴だ。
そんな奴に私は負けない。
「シャーンを返せええええええええええええええええ!」
私は大きく足を上げて、頭の部分を狙うのだけど。
「その程度おおおおおおおおお!」
振り上げた足は躱され、今度は下へ向かい振り下ろす。
デルルクは上体を逸らして私の蹴りを躱そうとしているのだけど、私は頭を狙った訳ではない。
躱しても引っかかる部分がこの男にはあるのだ。
シュゴゥと音を立てた踵は、その出っ張っている棒の部分に直撃したのだ。
もちろん棒の部分に衝撃が行けば、その先にあるタマタマにまで衝撃が行く。
「かッ…………」
デルルクは圧倒的な衝撃に意識を失い、髪は色を変えていく。
「…………」
「如何したシャーン、股間が痛いのか?」
「うん、何か痛い感じがする」
?
何だか分からなかった私は首を傾げ、とりあえず倒した男を引きずり出して、通路に放り投げたのだった。
モモ (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
ダスク (魔道研究所の職員)
デルルク (浴場の欲情の男)
フレーレが戻って来た、という訳ではなさそうだ。
かなり遠くからこちらの動きを覗いている感じがした。
また青い奴なのかと警戒するも、何だか見たことがある顔をしている。
真っ白な顔と、水色の髪の人は、シャーンのお母さんだった。
一応青が入っているけど、あの色は元の髪の色である。
たぶん心配して見に来たのだけど、近寄ったら青化してしまうから遠くで見つめているのだろう。
私はお母さんに走って行くと、着いた時には居なくなっていた。
シャーンと合わせてあげたいけど、それはサルビアの作る薬が完成してからだ。
今は我慢して貰う他はない。
仕方ないから私はお風呂場の入り口に戻り、再び見張を続けている。
一応中の様子を確認してみるも、中にはシャーンの気配が一つだけで、特に変わった所は見られない。
たぶんだけど、お風呂場の中で走り回って遊んでいると思う。
やっぱり遊んでいたのかと私は納得するのだけれど、どうも中が騒がしい。
何をしているのかと私は耳を澄まし、中の声を確認してみる。
「やだぁ、来ないで!」
「王子、俺はこの時を待ちわびていたのです。さあ恥ずかしがらずにこちらに来てください。同性同士なのですから何も恥ずかしがることはないです。もう逃げるのはやめて、二人で洗いっこしたり触りあっこしたり、色々と楽しいことをいたしましょう!」
「やだああああああああ!」
お風呂場の中からは、シャーンと誰かの声が聞こえる。
気配は相変わらず一つしかなく、さっき私が入った時にも、フレーレ以外は誰も居なかったはずである。
まさか一人で声を変えて遊んでいるだけなのだろうか?
気になった私は、お風呂場の扉を開いてみたのだけれど、中にはシャーンともう一人男が立っていた。
お風呂場なので二人共素っ裸である。
男の姿は目には映るが、やっぱり私には気配を感じない。
髪の色は当然青く、私達の敵なのだろう。
でも気配が感じられないからか、なんか触りたくない。
「シャーン!」
「お姉ちゃん、助けて!」
私はシャーンの前で立ち塞がり、男に警戒して爪を出す。
相手は何も武器はもっていない。
あるのはまあ……腰にある小さな棒ぐらいだろう。
あれに当たっても痛くはないが、なるべく当たりたくはない。
「くぅ、昨日から隠れて待ちに待ったこの時間に、貴様のような邪魔者が居て良いはずもないわ! 俺の前から消えろ、クソ猫が!」
つまり私の時も、お風呂場のどこかに潜んで居たということだろう。
別に見られてどうとも思わないが、敵に潜まれていたのは気分が悪い。
少しお仕置きしてやるとしよう。
「お前、退治してやるぞ。たあああああああ!」
私は力強く蹴りを放つのだけど、相手は全く動かなかった。
私の蹴りは男の額に当たるが、その体の中ををすり抜けてしまう。
一度上半身が消滅するが、まるで湯気のように揺らめき、その体は元に戻ってしまったのだ。
「無駄だ。この青き流麗の一人、青の嗅欲のデルルクの前では、どんな攻撃も無意味なのだ! ここの湯気があるかぎり、俺は絶対に倒せん! ふふふ、この浴場は欲情で満たされるのは決定している事のなのだ!」
「ねぇお姉ちゃん、なんか湯気が必要みたいだよ。お風呂場から出ればいいんじゃないかな?」
「ん、なんかそうみたいだな。じゃあ早く出るぞシャーン!」
「な、何故弱点を知っているのです王子?! 俺の秘密を知られるとは、何てことだ!」
さっき自分で言ったのに、気付いていないんだろうか?
私はもう一度攻撃しようと構えをとるが、隣に居たはずのシャーンの姿が掻き消えた。
「今頃気付いたのか? でも無意味。王子は俺の手の中にあるのだからな!」
今シャーンは、前に居るデルルクの横に出現している。
でもシャーンの気配はあそこには感じられず、別の場所へ移っていたのだ。
つまりこの前の男の本体は、シャーンの近くにいるはずである。
私は置いてあった木製の桶を持ち、その場所へ投げつける。
「うおおお、危ない!」
「わわわわわ!」
どうやら、かなり近い場所を通り過ぎたらしい。
男の場所を発見したのはいいが、その姿はまだ見えていない。
姿の見えない相手に、急所を狙うのは大変そうだ。
「何故俺の位置がわかる?! 俺の姿はお前の目の前にしかないはずだ!」
「教えてやんない!」
幸いにも、ここには魔道研究所の職員も入るお風呂場だから、多くの桶や石けんとか色々な物が置いてある。
私は積み上げられた桶の場に移動し、なるべくシャーンを避けて桶を投げ続けた。
かなり強烈に投げつけたが、見えないから全ては当ってくれないらしい。
「うをっ! くぞ、この程度どうとでもなる!」
「うわあ、怖いよお姉ちゃん」
「大丈夫、シャーンには当てないから!」
「えええ?!」
大半の桶は避けられ、壁に当たって弾けて壊れてしまう。
これでは二度投げるのは不可能だ。
「いくらやっても無駄だ。俺にはその程度の攻撃は効きはしないぞ!」
「やああああああああああああああ!」
それでも私は投げ続け、多くの木片が散らばってゆく。
その木片が何処へ落ちたのか。
殆どが湯の中に落ちて、辺り一面には木片の蓋が誕生した。
一応狙ってやってるのだけど、表面を覆い尽くすには足りないようだ。
しかし、ほんのりとは湯気が抑えられただろうか?
本物に見えた幻影が、薄くなって揺らいでいた。
逆に本物の方は、透明からほんのり見え始め、その位置を現している。
姿が見えさえすれば、後は簡単なことだ。
私はまだ自分が優位だと思っている男に、疾風の如く走り出した。
相手は裸で武器もなく、ただ姿をくらますだけの奴だ。
そんな奴に私は負けない。
「シャーンを返せええええええええええええええええ!」
私は大きく足を上げて、頭の部分を狙うのだけど。
「その程度おおおおおおおおお!」
振り上げた足は躱され、今度は下へ向かい振り下ろす。
デルルクは上体を逸らして私の蹴りを躱そうとしているのだけど、私は頭を狙った訳ではない。
躱しても引っかかる部分がこの男にはあるのだ。
シュゴゥと音を立てた踵は、その出っ張っている棒の部分に直撃したのだ。
もちろん棒の部分に衝撃が行けば、その先にあるタマタマにまで衝撃が行く。
「かッ…………」
デルルクは圧倒的な衝撃に意識を失い、髪は色を変えていく。
「…………」
「如何したシャーン、股間が痛いのか?」
「うん、何か痛い感じがする」
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何だか分からなかった私は首を傾げ、とりあえず倒した男を引きずり出して、通路に放り投げたのだった。
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