一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 二人目の猫人間。

私達は家に帰り、美味しい肉を食べようとしていた。食堂に向かい、またあの肉を注文すると、お肉のお皿がやって来る。完璧に覚えたナイフとフォークを使って口に運ぶが、熱さのあまり口から肉を吐き出した。これでは食えないと冷めるまで待つのだけど、ウェイターが温めるからと、私の肉を持って行ってしまう。腹の減った私はそのウェイターに跳びかかるのだが、帽子の中だけ髪の毛が青くなっていた。私はこの意地悪な男を、ぶっ叩いて元に戻したのだった…………


モモ       (天使に選ばれた猫)
シャーイーン   (王国の王子)
レーレ      (シャーンを狙う女)


 七日が経ち、青い人達の襲撃がピタッと収まっている。
 私はのんびりと日を過ごし、美味しい食事を食べたりシャーンと遊んだりして何時も通り過ごしていた。
 平和なのはいいのだけど、まだクラウムを入れなくても七人しか倒していない。
 クラウムを居れて二十人なのか入れなくて二十人なのか、その辺りはよくわからないけど、まだ十三人は居るということだろう。
 やきもき待っているだけなのも面倒なので、来るなら早くして欲しいのだけど、向うにも何か都合でもあるのかもしれない。
 その間にも、私もなんとなく人として成長をした気がする。
 お城の中もバッチリ覚えて、もう迷ったりもしないのだ。
 そしてこの日、部屋に閉じこもりッきりのシャーンの為に、学校の友達がやって来ると聞いている。
 シャーンもそれを楽しみに待っていた。
 ついでにもう一つ、またシャーンの護衛が増えるらしいとお母さんから聞かされていた。
 それも確か今日である。

「お姉ちゃん、今日お友達が遊びに来るんだよ!」

「うん、私も聞いてるぞ。あとなんか護衛も来るらしいぞ」

「あ、うん、僕も聞いてるよ。確かレーレさんが来るんだよ!」

「レーレさん?」

「うん、お姉ちゃんみたいな猫の力を持ってるんだよ」

「ネコい人が来るのか、う~ん……」

 同じ猫だからと、必ずしも仲良くできる訳でもない。
 猫の中でも上下関係とか縄張り争いとか色々とあるのだ。
 ここは私の縄張りだけど、向うの方が強ければ力づくで追い出される場合もある。
 縄張り争いはそこまで激しくはやり合わないのだが、負けたら私は出て行かなければならない。
 だから私は少々緊張していた。

「お姉ちゃん?」

「大丈夫だシャーン、私は絶対負けないぞ!」

「?」

 私はやる気をだして、レーレという女を待ち続けている。
 タイミング的には、シャーンの友達が来る前には来るだろう。
 部屋の中で遊んで待っていると、部屋の前の廊下に何者かの気配が現れた。
 人の形をして居るが、なんとなく同じ猫の気配を漂わせている。
 私はその動きを追い、この部屋の入り口にまで来ると、そこで扉が叩かれた。
 コンコンコンコンと柔らかい音が鳴り、声が聞こえて来る。 

「失礼いたします、シャーイーン様。レーレ・プロミネンスが参上いたしました。お部屋に入れてもらってもよろしいでしょうか?」

「うん、今開けるね!」

 シャーンが走り扉に向かうと、私も警戒しながらシャーンの後ろに進んで行く。
 ガチャッとシャーンが扉を開けると、レーレという女の姿が見えてきた。
 簡単に言えば、人の服を着た人型の猫だろう。
 手の指は五本に分断しているけど、それ以外は猫と変わらない。
 体にはフサフサとした体毛が覆っている。
 オレンジと茶色のトラジマみたいで、瞳は丸く警戒はしていない。
 でも私は警戒しながら、何時でも跳びかかれる体勢を維持している。

「レーレさんこんにちは!」

「シャーイーン様、ごきげんよう。そして……貴女がモモさんですね?」

「そうだ!」

 いきなり舐められてはいけないと、私はちょっと怒気を強める。
 でも相手はそんな事を気にしないで手を差し向ける。
 これはたぶん握手というやつだろうか?
 何故こんな事をするのか分からないけど、握ると良いらしい。
 争う気がないのなら、こちらも攻撃的になる必要はないのかもしれない。
 私は出された右手を左手で掴んで、軽くフリフリしてみた。

「……これは、おちょくられている訳ではないのでしょうね? 人として生活していくのなら今後指導を徹底するべきでしょうか?」

 何となく嫌な予感がして手を放そうとするのだけど、私の手は左手で掴まれてガッチリとホールドされてしまう。
 このレーレという奴は、レアスと同じ感じがしている。
 また私は厳しく躾けられてしまうんだろうか。
 少し怒ろうかとも思ったけど、このレーレからは、お母さん的な何かを感じてしまう。
 逆らうのは不味いと心が警鐘をならしていた。

「わ~、二人共仲良くなったんだね。これからよろしくね!」

「ええ、どうぞよろしくお願いいたしますシャーイーン様」

「は、放せ」

 手を引っ張っても、私の肩の方が抜けそうになる。
 力も強くて手に負えない。
 これは私の負けだろう。
 毛繕いして気を逸らそうにも、手が塞がってしまっている。
 私は争うのを諦め、力を抜いて大人しくするのだった。

「握手はこうですよ!」

 私は無理やり握手のやり方を教えて貰い、一応それで事なきを得るのだけど、今度はまた別の気配が近づいて来ている。
 気配は三つあり、走って来る足音は、たぶんシャーンの友達のものだろう?
 この部屋の扉の前に来ると、ノックもなくバンと扉が開けられた。

「シャーン、遊びに来たぜ!」

「ハロー! あいに来たよシャーン」

「シャーンちゃん、元気ー?」

 入って来たのはシャーンと同じぐらいの子供達、等ではない。
 ピチピチの小さい服を無理やり着て、パッツパツの半ズボンを着た野太い声の大人の男だ。
 当然のように髪が青く、この機会をのがさないようにと三人がシャーンに近づこうとしている。

「こ、怖い……」

 そんな物体を見せられて、シャーンが怯えている。
 こんなのでも元護衛の人なのだ。
 知り合いが変になって襲って来るのは、かなり恐怖があるだろう。
 シャーンの為に直ぐ倒してやらなければと、私は掴まれた手を外そうとするのだけど、もうその手は自由になっていた。
 もうレーレが一人の男に向かって行ってる。
 私もそれに続き、逆側の一人に蹴りを放つのだった。

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