一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

14 蜘蛛退治。

ルルムムを倒し、また兵士に連れて行かれようとしていた。その中に青い人が居るんじゃないかと考え、私はちょっと挑発してみる。案の定二人が反応し、動揺している今の内に殴りに行くのだけど、一人を倒しもう一人に行く前にシャーンが攫われてしまった。もう一人を撃破し、攫った女を追うのだけど、森の中に逃げられてしまう。何とか追い着き引き止めると、蜘蛛の魔物の襲撃が来た…………


モモ       (天使に選ばれた猫)
シャーイーン   (王国の王子)
ザドル      (シャーンを狙う女)


 蜘蛛は私達の周りをグルグル回って、糸で逃げ場をなくそうとしている。
 この蜘蛛の糸というのは細さの割に相当な強度があるらしく、同じ細さの鋼鉄なら倍以上の強度があると、知らない知識が頭に流れ込んでいる。
 その太さも蜘蛛の大きさに比例して、小指の半分ぐらいの太さはありそうだ。
 一本二本ならどうとでもなるが、これが重なり続けると厄介だろう。
 私は蜘蛛の動きを見つつ、逃げ道を得る為に、一方向に集中して糸を切っていく。

「お姉ちゃん」

「大丈夫だ、心配するなシャーン。こんな蜘蛛ぐらい軽く倒して護ってやるぞ!」

「シャーン様大丈夫です。このお姉ちゃんが命懸けで助けてあげますから!」

 シャーンが何方に言ったのかは言うまでもないが、この女のやる気があるのは結構なことだ。
 言った通り命懸けで護ってもらうとしよう。
 私達は警戒して蜘蛛の動きを見続けているが、もう随分と餌場が完成しつつあった。
 壁は三方を囲い、遥か上方にまで伸びている。
 
 私一人なら跳びこえるのも不可能じゃないけど、シャーンとあの女を連れて跳ぶのは無理だろう。
 逃げられるのは穴の開いた一方のみだが、そこを狙うような位置に蜘蛛が意識を払っているはずだ。
 逃げようとしたらガブッとやられるのは確実だろうか。
 だがそれはピンチではあるが、私の反撃できるチャンスでもある。
 三人で無駄に動くのは不利になると、私は一人警戒しつつ、餌場の出口に向かう。
 その出口を踏み越えた時、隠れていた蜘蛛の動きがハッキリと感じられた。

「うわあああああ!」

「シャーン王子、天国でもご一緒します!」

 来るかと構えるも、狙ったのは私の方ではなく、餌場にいたシャーンの方だ。
 可能性としてそれは予測していた。
 この出口と、餌場の上方にしか入り口はないのだから。
 だから私は戸惑うこともなく、体を反転させて跳びあがる。

「やああああああああああああああ!」

 襲い掛かる蜘蛛の腹を、シャーンの居る上空にて切り裂いた。
 その腹からは緑色の液体が流れ、かなりの深手を負わせるのだけど、糸を伝って上方へと消えて行く。
 葉に隠れ移動を繰り返し、その姿を見えなくしている。
 でも逃げたわけではないらしく、この近くに気配は残り続けている。

「ぎゃあああああ、緑の血が、血があああああああああ!」

「落ち着いてよお姉さん、臭いけど平気だよ!」

 シャーンは中々肝が据わっているらしく慌てていない。
 その代わりに女の方が慌てまくっている。
 あれで護衛がやれるのだろうか?

 蜘蛛もまだ私達を狙っているのだろう。
 放っておいても死ぬだろうけど、まだ時間が掛かりそうだ。
 でもここは魔物がひしめく森の中で、あまり長居して良い場所ではない。

「もう一度、もう一度降りて来い!」

 また私は檻の出口に移動し、今度は何方に来るのかを予測する。
 シャーンを狙うのか、それとも私を狙うのか……
 いや、今度は私だ、私の方だ。
 あの蜘蛛は傷を負わせた私に、反撃を考えているはずだろう。
 だから、絶対に来る!

 蜘蛛の殺気が増し、頭上からガサっと葉の揺れる音がした。

「来た!」

 蜘蛛の顔が見えた時には、私は後方に飛び退いている。
 そして……

「とりゃあああああああああ!」

 蜘蛛が地上におりきる前に、私はその体を蹴り飛ばす。
 強烈な蹴りは大きな体さえも吹き飛ばし、後方にある作られた壁にぶつかった。
 蜘蛛の体は自身の作った糸にからまり、ギチギチとうごめいているが、強力な粘着動きを止めている。
 もう止めを刺す必要さえないだろう。
 でもシャーンを抱えた女は立ち上がり、剣を抜いて走り出した。

「よくもシャーン様を襲ったな! 地獄へ落ちろおおおおおおおおおお!」

 蜘蛛に斬り掛かり滅多切りにしている。
 でもお前もシャーンをさらったし、地獄に落ちた方が良いんじゃないか?
 とりあえず、この女は味方ではないし、今やっつけとくとしよう。
 私は蜘蛛が動かなくなるのを確認すると、まだ攻撃を続ける女の後頭部に、そこそこ手加減しながら蹴りを放った。

「てええええええい!」

「ゲフッ!」

 女は蜘蛛に顔をぶつけると、後ろに倒れて髪の色が変わっていく。
 白髪となった彼女は倒れて動かないけど、まあ命に別状はないだろう。
 それよりも、女だった体がドンドン膨らみ、鎧がミキミキと変形する。
 背も少し伸び、最後は体が圧迫されるぐらいには変わっていた。
 もう完全に別人と言っていいだろう。
 兎に角これで解決したし、シャーンと一緒に帰るとしよう。

「シャーン、もう大丈夫だ。私と家に帰ろう」

「待ってお姉ちゃん、ザドルを置いていったら駄目だよ。ここに置いていったら危ないでしょ!」

 この男はシャーンの知り合いなのだろう。
 まあ近づかなければ青くならないし、シャーンが知っていても不思議じゃない。
 それは良いとして、女の時よりも随分と重そうだ。
 きっと運ぶのも苦労しそうである。

「ううう、なんか重そうだぞシャーン。本当に運ばなきゃ駄目なのか? 置いていったら駄目か?」

「だめ~!」

「え~、大変なのに~」

 シャーンに怒られた私は、男になってしまった女を担ぐのだが……

「重い!」

 このザドルという男は思った以上に重く、このままじゃあ運びたくないし、移動も遅くなる。
 鎧を何とか引っぺがそうとするのだけど、ガッチガッチに体に食い込んで外れてくれない。

「仕方ない、もうぶっ壊そう」

「お姉ちゃん、ひどい事したらダメだよ?」

「うん心配するなシャーン、ちょっと傷がつくぐらいだから大丈夫だ」

「えっ、ひどい事しちゃダメだよ?」

「うん、私に任せておけ」

 私は鋼鉄をも切り裂く爪を出し、男の鎧を刻んでいく。
 鎧はバラバラになって落ちるのだけど、ちょっと力を込め過ぎたのか、内にあった服までもボロボロになってしまっている。
 体にも薄っすらと傷がつき、下着すらもう無いも等しい。
 ほとんどスッポンポンといっていい。

「……シャーン、私これ運ばないと駄目か?」

「だめ~!」

 私は背中を背にしてなんとか担ぐと、森の中から脱出して行くのだった。
 因みに背中にしたのは、妙な物が背に当たるのが嫌だったからだ。

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