一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
7 シャーンの秘密。
シャーンの仲裁でも止まらなくなった私とウィーレだけど、そこにシャーンのお母さんが現れた。それで収まるかに見えたのだが、ウィーレは諦める事をしなかった。お母さんから窓の外に放り出され、私達は庭に着地すると、本気の殺気が私に向けられたのだった…………
モモ (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
レアス (モモの躾け役)
ウィーレ (シャーンの護衛)
「お母さんとめてよぉ」
「それは駄目よ。あのウィーレを止められないようでは、これから起こる悲劇に立ち向かう事が出来ないわ。彼女の実力を知るためにも、この戦いをやめる訳にはいかないの」
「悲劇ってなに?」
「大丈夫よ、シャーンは気にしなくても良いの。さあ彼女達の戦いを見守りましょう」
「うん……」
二階で見て居る二人の声が聞こえる。
城の中を歩く兵士の靴音も。
地に隠れる虫の騒めきさえ。
そして私の前に立つウィーレの鼓動の音までも、全てがこの耳に聞こえている。
だからこそ怒りで無茶苦茶になったウィーレの動きであっても、手に取る様に分かるのだ。
動きを読んだ私には、かすり傷さえつけられない。
「当たれええええええええええ!」
「そのぐらいじゃ当たらないぞ」
縦横斜めと放たれる、ウィーレの剣を軽く避け、どう料理してやろうかと私は悩む。
首元にガブっと噛みついてやろうかと思ったのだけど、あの青い鎧が邪魔をしている。
やっぱり打撃を与えてやろうと、その場でポーンと跳びあがった。
前に居るウィーレの斬撃を越え、私はその後ろにある城の壁に着地する。
そのままグッと体を沈み込ませ、力を溜めて前に跳ぶ。
足元を狙い低空を進むが、ウィーレの剣がタイミングを合わせていた。
「これで止めだああああああ!」
容赦なく振り下ろされる剣ではあるが、私はこれを狙っていたのだ。
剣を振られるその前に、私は直角に動きを変え、更にもう一度動きを変える。
一瞬で背後に回り、私を見失ったウィーレに対し、背後からの奇襲を仕掛けた。
ウィーレを背中から押し倒し地に倒すと、ガブッと首元に牙を突き立てる。
「ほへへわはひほはひは!」
(これで私の勝ちだ!)
「このぐらいで私が! 愛のある私が、やられるとでも思っていたんですかあああああああ!」
それでも抵抗を見せようとするウィーレに、牙を深く突き入れようとするのだけど、私の体が不意に浮き上がってしまう。
これは風の力だろうか?
お母さんが、これ以上はやるなと言っているのだろう。
私はそれに従い敵意を解くと、フワッと地面に着地した。
「そこまでです!」
二階の窓から降りて来るシャーンとお母さんが、まだ立ち上がろうとするウィーレの前に着地する。
だがウィーレはそれであってもやる気を削がない。
「シャーイーン様に触るんじゃあない!」
シャーンを抱いているお母さんにまで剣を向け、敵意をもって斬り掛かろうとしていたのだ。
お母さんにまで怒りを向けるとは、これはもう異常な愛情と言っていいだろう。
そしてそのお母さんも、シャーンを渡す気はないらしい。
「そろそろ正気に戻りなさい!」
お母さんが手を前にかざすと、ウィーレはドンと城の壁に体をぶつけてしまった。
そのまま目を回し崩れ落ちると、髪の青が茶に変わってしまう。
何だろうこれは、変な病気だったのだろうか?
ウィーレは兵士によって城の中へ運ばれて行き、私は二人の元へ駆けよった。
「シャーン、私勝った!」
「お姉ちゃん強いね! でもウィーレも大丈夫かな?」
ウィーレの事も心配しているようだけど、シャーンは私の力を認めてくれたらしく、喜んでくれている。
「心配しなくても大丈夫です。この国の兵士はあの程度で怪我もしないでしょう。そしてモモさん、貴女の実力は分かりました。それ程の動きが出来るのならば、危険なことにも対応できるでしょうね。ではシャーンの事をよろしく頼みましたよ」
「にゃい」
「私はモモさんと少しお話をしています。シャーン、貴方はお部屋に戻っていなさい」
「僕もお話したい!」
「もうそろそろお勉強の時間でしょう。先生をお待たせしては申し訳ないわよ。さあお部屋で戻って勉強して来なさい。モモさんとはいつでも会えるでしょ」
「う~ん、分かった~。じゃあまた後でねお姉ちゃん! お母さんも!」
「ええ、また後でね」
「ばいば~い」
シャーンがお城の中へ帰って行き、私はお母さんにお別れの挨拶をして、シャーンを追い掛けて行くのだが……
「お待ちなさい!」
襟首を掴まれて止められてしまった。
そういえば、私に話しがあると言っていた気がする。
「レアスから聞きましたが、貴女本当に猫なのですね?」
「うに、私は猫だよ。 ……たぶん?」
「人として生きていけと言われませんでしたか? 貴女はもう生まれ変わったのですから、これからは……いえ、もしかしたら猫ということに利点があるのかもしれません。今は猫、それでいくとしましょう!」
「うにゃい」
「それでですけど、異世界から来た猫の貴女ならば、我が息子シャーイーンを助けられるかもしれません。実は……」
私はお母さんから、シャーンに関わる事情というものを聞かされた。
なんかキメラ化という手術により、自身の力を制御できていないそうだ。
その事情とは、ブロンスとウィーレにも関わる話しなのだが、シャーンの近くに居ると、体と心に変化が起こるのだとか。
まず髪が青くなり青色が好きになって、シャーンの事を溺愛するのだと。
それだけでは済まず、段階的にシャーンの体を求めるようになり、最終的には男であっても本物の女になってしまうという恐ろしい呪いのようなものだそうだ。
これが始まったのは最近の事らしく、もう何人かの犠牲者が出ているらしい。
最初はただの子供好き何かと思われたその現象だったけど、シャーンに襲い掛かり牢に入れられた者は、既に二十人を超えるのだとか。
これはおかしいと調べだし、それがシャーンの特性だと知れたのだと。
その二十人は病院に担ぎ込まれたのだが、全員で協力して逃げ出したのだとか。
まだ今でもシャーンの事を狙っているのかもしれない。
「猫である貴女には、もしかしたら効果がないかもしれません。だからシャーンの身を護って欲しいのです。いいですねモモさん!」
「うん、私シャーン護るよ!」
「その状態を解除するには強い衝撃を与えれば戻ります! では行きなさいモモさん、貴女の主人を助けるのです!」
「にゃああああああああああああん!」
私は城に走り出し、普通に道に迷ったのだった。
モモ (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
レアス (モモの躾け役)
ウィーレ (シャーンの護衛)
「お母さんとめてよぉ」
「それは駄目よ。あのウィーレを止められないようでは、これから起こる悲劇に立ち向かう事が出来ないわ。彼女の実力を知るためにも、この戦いをやめる訳にはいかないの」
「悲劇ってなに?」
「大丈夫よ、シャーンは気にしなくても良いの。さあ彼女達の戦いを見守りましょう」
「うん……」
二階で見て居る二人の声が聞こえる。
城の中を歩く兵士の靴音も。
地に隠れる虫の騒めきさえ。
そして私の前に立つウィーレの鼓動の音までも、全てがこの耳に聞こえている。
だからこそ怒りで無茶苦茶になったウィーレの動きであっても、手に取る様に分かるのだ。
動きを読んだ私には、かすり傷さえつけられない。
「当たれええええええええええ!」
「そのぐらいじゃ当たらないぞ」
縦横斜めと放たれる、ウィーレの剣を軽く避け、どう料理してやろうかと私は悩む。
首元にガブっと噛みついてやろうかと思ったのだけど、あの青い鎧が邪魔をしている。
やっぱり打撃を与えてやろうと、その場でポーンと跳びあがった。
前に居るウィーレの斬撃を越え、私はその後ろにある城の壁に着地する。
そのままグッと体を沈み込ませ、力を溜めて前に跳ぶ。
足元を狙い低空を進むが、ウィーレの剣がタイミングを合わせていた。
「これで止めだああああああ!」
容赦なく振り下ろされる剣ではあるが、私はこれを狙っていたのだ。
剣を振られるその前に、私は直角に動きを変え、更にもう一度動きを変える。
一瞬で背後に回り、私を見失ったウィーレに対し、背後からの奇襲を仕掛けた。
ウィーレを背中から押し倒し地に倒すと、ガブッと首元に牙を突き立てる。
「ほへへわはひほはひは!」
(これで私の勝ちだ!)
「このぐらいで私が! 愛のある私が、やられるとでも思っていたんですかあああああああ!」
それでも抵抗を見せようとするウィーレに、牙を深く突き入れようとするのだけど、私の体が不意に浮き上がってしまう。
これは風の力だろうか?
お母さんが、これ以上はやるなと言っているのだろう。
私はそれに従い敵意を解くと、フワッと地面に着地した。
「そこまでです!」
二階の窓から降りて来るシャーンとお母さんが、まだ立ち上がろうとするウィーレの前に着地する。
だがウィーレはそれであってもやる気を削がない。
「シャーイーン様に触るんじゃあない!」
シャーンを抱いているお母さんにまで剣を向け、敵意をもって斬り掛かろうとしていたのだ。
お母さんにまで怒りを向けるとは、これはもう異常な愛情と言っていいだろう。
そしてそのお母さんも、シャーンを渡す気はないらしい。
「そろそろ正気に戻りなさい!」
お母さんが手を前にかざすと、ウィーレはドンと城の壁に体をぶつけてしまった。
そのまま目を回し崩れ落ちると、髪の青が茶に変わってしまう。
何だろうこれは、変な病気だったのだろうか?
ウィーレは兵士によって城の中へ運ばれて行き、私は二人の元へ駆けよった。
「シャーン、私勝った!」
「お姉ちゃん強いね! でもウィーレも大丈夫かな?」
ウィーレの事も心配しているようだけど、シャーンは私の力を認めてくれたらしく、喜んでくれている。
「心配しなくても大丈夫です。この国の兵士はあの程度で怪我もしないでしょう。そしてモモさん、貴女の実力は分かりました。それ程の動きが出来るのならば、危険なことにも対応できるでしょうね。ではシャーンの事をよろしく頼みましたよ」
「にゃい」
「私はモモさんと少しお話をしています。シャーン、貴方はお部屋に戻っていなさい」
「僕もお話したい!」
「もうそろそろお勉強の時間でしょう。先生をお待たせしては申し訳ないわよ。さあお部屋で戻って勉強して来なさい。モモさんとはいつでも会えるでしょ」
「う~ん、分かった~。じゃあまた後でねお姉ちゃん! お母さんも!」
「ええ、また後でね」
「ばいば~い」
シャーンがお城の中へ帰って行き、私はお母さんにお別れの挨拶をして、シャーンを追い掛けて行くのだが……
「お待ちなさい!」
襟首を掴まれて止められてしまった。
そういえば、私に話しがあると言っていた気がする。
「レアスから聞きましたが、貴女本当に猫なのですね?」
「うに、私は猫だよ。 ……たぶん?」
「人として生きていけと言われませんでしたか? 貴女はもう生まれ変わったのですから、これからは……いえ、もしかしたら猫ということに利点があるのかもしれません。今は猫、それでいくとしましょう!」
「うにゃい」
「それでですけど、異世界から来た猫の貴女ならば、我が息子シャーイーンを助けられるかもしれません。実は……」
私はお母さんから、シャーンに関わる事情というものを聞かされた。
なんかキメラ化という手術により、自身の力を制御できていないそうだ。
その事情とは、ブロンスとウィーレにも関わる話しなのだが、シャーンの近くに居ると、体と心に変化が起こるのだとか。
まず髪が青くなり青色が好きになって、シャーンの事を溺愛するのだと。
それだけでは済まず、段階的にシャーンの体を求めるようになり、最終的には男であっても本物の女になってしまうという恐ろしい呪いのようなものだそうだ。
これが始まったのは最近の事らしく、もう何人かの犠牲者が出ているらしい。
最初はただの子供好き何かと思われたその現象だったけど、シャーンに襲い掛かり牢に入れられた者は、既に二十人を超えるのだとか。
これはおかしいと調べだし、それがシャーンの特性だと知れたのだと。
その二十人は病院に担ぎ込まれたのだが、全員で協力して逃げ出したのだとか。
まだ今でもシャーンの事を狙っているのかもしれない。
「猫である貴女には、もしかしたら効果がないかもしれません。だからシャーンの身を護って欲しいのです。いいですねモモさん!」
「うん、私シャーン護るよ!」
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