一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 小さく大きな物語50

洞窟の場所へ戻った俺達、これで終わりかと思ったら、またあの新米共が暴走しだした。人が居るから調子に乗り、洞窟の奥へと進んで行ってしまったのだ。煽られた他の奴らまで中に行ってしまうし、ギリギリまでは追い掛けてみる事にする。あの三人の号令で突撃が開始されたかに見えたそれだが、ゆっくり過ぎてちっとも進んで行かないのである。そんな騒がしさも突如終わってしまう。魔竜の大きな咆哮により、新米三人が逃げて行ってしまったのだ。俺達も撤退しようと後ずさるが、大きすぎる魔竜ヴァ―ハムーティアは倒れてしまったのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール    (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米)  メタリアス  (黒髪の新米)  
アウティーテ(桃色の新米)


「うわわわわわわわわわわ!」

「何だ?! 誰か攻撃したのか?!」

「いや、まだ誰も動いていないぞレティ! あいつが勝手に倒れたんだ!」

「注意しなさい! まだどうなっているのか分からないわよ!」

 俺は、俺達は何が起きたか分かっていなかった。
 もし立ち上がり動き出したとしたら、その余波だけでも死ねるレベルなのだ。
 俺はその魔竜の顔を確認すると、その目は見開いたまま動かず、口元は開いて舌を見せている。
 大きすぎる強大な魔竜は、もうピクリとも動いていなかった。
 まさか死んでいるのだろうか?
 確認したくとも動くのは恐怖しかなかった。
 ここにいる全員が引く事も進むこともできず魔竜を見続けている。
 だが永遠にこのままという訳にもいかないのだ。
 俺はシャインのクロスボウを取り出し、魔竜の大きな目に向かって矢を放つ。

「これでどうだ?!」

 連射された矢は殆どが突き刺さる事もなく弾かれたのだが、たった一本だけはその目に突き刺さっている。
 普通目に何かしらの異物が入れば、瞬きでも何でも反応があるはずである。
 目に矢が突き刺さっているというのに、それでもその魔竜は動く事をしなかった。
 こんな化け物が死んだ振りをする意味はない。
 俺が思うに、これは本当に死んでいるのだろう。
 それに気づいた俺は、魔竜へと近づいて行く。

「レティ君!」

「だ、大丈夫なの?!」

「待てレティ、危険だ! 私も一緒に行くぞ!」

「いやたぶん大丈夫だから。皆そこで待っていてくれ」

 皆は俺のいう事を聞いてくれた。
 九割方大丈夫だとは分かっているが、一応念の為だ。
 俺は一人魔竜に近づきその体に触ってみるも、体には熱を感じず氷のように冷たく変わっている。 
 この魔竜が何故死んだのか、その体を見て俺は気付いてしまった。
 竜というものを他には見た事がないが、この体は大きさの割に痩せすぎていると思う。
 体毛の奥には、この巨体には似付かわしくないぐらいの細い体となっていた。
 この巨大さが故に、物を食べられても栄養が満たせなかったのだろう。
 それでも成長を続けるその体は、自身の体を維持できなくさせてしまったのだ。
 簡単にいえば栄養失調で餓死、それだけの話である。
 あの時俺達を追って来なかったのは、もう動く力もなかったのかもしれない。

「大丈夫、死んでるっぽい。たぶん餓死してるんじゃないかな」

「餓死ね……大きくなりすぎるのも考えものだわね」

「これで依頼達成だね母さん!」

「レティ、まずは戻って来い! 私が抱きしめてやるから!」

「それは大丈夫だ」

 魔竜の死に緊張を解いた俺達だったが、今まで見えなかったその奥に何かが見えた。
 岩の色に擬態するように置かれているのは、たった一つのデカすぎる卵である。
 魔竜よりは当然小さいのだが、そこらの超型と比べても更に大きい物だ。
 生まれ落ち赤ん坊の体ですら、きっと人の脅威となるだろう。
 当然壊した方が人の為になるのだろうけど、リーゼさんはそれを選択しなかった。

「壊す壊さないは残りの人に任せましょう。私達は下山して別の町に行きましょう。これ以上巻き込まれるのは勘弁だからね」

「だな、俺達には俺達の目的があるんだし次の町に進もう!」

「良いの母さん? 僕達は参加しなくても」

「触らぬが吉よ。もしもあの中に体が出来上がってるとしたら、その攻撃で目覚めさせてしまうかもしれないでしょ? 魔竜の大きさで麻痺してるだろうけど、あのぐらいの大きさでも充分に死ねるレベルだわ」

「そうだな私もそれが良いと思う。下山をしよう」

「俺も名声なんかには興味ないからな。きっちりレティについて行く事にしている!」

「私は何時でも師匠について行きます!」

「全員一致で決まりだな。じゃあ下山するか。おい、やりたいなら良いけど、俺達は下山するからな! 聞いてるだろおい!」

 俺達は冷静にそう判断したのだが、もう多くの冒険者が魔竜の卵を狙い動いている。
 夢中になってるのか、聞こえない振りをしているのか、俺達の声は聞いてはくれないらしい。
 もう危険はない物だと思い込み、我先にと卵に打撃を与え、それを割ろうとしていた。

「魔物が出ても知らないからな!」

 最後にそう言って俺達は動き出す。
 残っている奴が攻撃しているが、卵の殻は異常に硬く、簡単には割れそうにない。
 それでも彼等は続けるだろう、魔竜の討伐と卵の破壊は、英雄級に彼等の名声を高めるのだから。
 だが俺は、英雄は英雄では終われないと思っている。
 それは何故か。
 名声とは、大金で国に雇われたり、大量の報酬を手に出来る資格を得られるものなのだ。
 それ程の報酬を得られる依頼とは、常に死の危険性を孕んだものでしかない。
 時に年齢が、運が、努力が、実力が足りなくなれば、英雄としての報いを受けるのだ。
 心が変われば魔王にもなってしまうという、そういうものなのだ。
 だからこそ、それを永遠に続けて生きながらえるのは難しいだろう。
 実力以上の名など持つべきではないと俺達は考えたのだ。
 それに、まだ危険がないとは限らない。
 卵の中にはあの魔竜の子がいて、それが生まれなかったとしても、縄張りを狙って魔物達が集まっていたりするかもしれない。
 まあ流石にそこまでは考えすぎだろうか?
 とりあえず卵を攻撃する全員を背にして、俺達は山を下るのだった。

「「「「「ぎゃあああああああああああああああ!」」」」」

 その途中で何者かの悲鳴が聞こえたなんて話も、あったりなかったり……
 きっと風の所為だろうと、俺達は何事もなく麓にまで戻ってきている。
 麓に到着した俺達だが、どうやらあの新米三人も、ここの場所まで逃げて来たらしい。
 ズゾゾとスープなどを啜って、ノホホンと座り込んでいる。
 しかし担当としての役割は終わっていて、もう関わる必要はないだろう。
 近くに居た人達に事実を伝え、自分達の馬車に乗り込み移動を始めた。
 町に戻れば報酬を受け取る事も出来るだろうが、あの町に戻る事はしない。

 俺達三人とついて来る二人は、次にあるバベルの塔の町へと進んで行く。
 その進路の先には泳いでは渡れないような川が存在していたが、馬車の通れるぐらいの地下を通り、無事に向う側に抜けられたのだった。

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