一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

3 私は二つ目の家族を得る。

シャーンという子供と城の中を歩いていると、青い色の男がシャーンを攫って行ってしまう。私はそれを追い掛けて行き、一つの部屋に到着した。大きなカーテンをめくってみると、その先にはシャーンが裸で立っていた。ジャーキーという物をもらい齧ると、その美味さに衝撃を感じる。くれた男に更に要求してみるが、もう持っていないらしい。シャーンによって食堂に案内されて、花瓶の花を食ったりしていると怒られてしまう…………


モモ     (天使に選ばれた猫)
シャーイーン (王国の王子)
イモータル  (シャーンの母親)
ブロンス   (シャーンの護衛)


 汚れた手をペロペロと舐めていると、シャーンが食べ方を教えてくれている。


「お姉ちゃん、そういうのは駄目なんだよ。僕が食べ方を教えてあげるから、見て居て」

 皿の横に置いてある、ナイフとフォークという物を使うらしい。
 ただ、私としても人がそれを使うのは知っているのだけど、長年の経験というものがあるのだ。
 いきなり物を使えと言われても特に使う気にはならなかったのだけど、もう食べるなと言われると困るので渋々それで納得した。
 使った事のない道具だけど、ある程度は体が理解しているらしい。
 苦も無く肉や野菜を食い進め、皿をペロペロと舐めて完食するが何故かまた怒られてしまう。
 人というのは不思議な生き物だ、ちゃんと皿まで舐めてやったというのに、一体何がいけないんだろうか?
 シャーンの言葉を適当に聞き流して、説教が終わると私は眠くなってきている。
 この部屋は中々に暖かく、寒い風も入っては来ない。
 眠るのには丁度良い場所かもしれない。
 私は寝心地の良さそうなテーブルの上で丸まって目を閉じる事にした。

「お腹いっぱい、寝る」

「お姉ちゃん、テーブルの上で寝たら駄目だよ!」

「王子、もしかしてこの人は駄目な人なんじゃないでしょうか? あまり関わっては王子の品位まで疑われてしまいますよ? もうお礼もしたでしょう、城から追い出してしまいましょうよ」

 気持ちよく寝たかった私だけど、二人は何故か言い合いを始めている。
 ハッキリ言って相当煩い。

「お姉ちゃんは僕を助けてくれたんだよ。もっとお礼がしたいよ」

「しかし王子、こんな素性の知れぬ者を、あまり長く城に入れては不味いです!」

「僕が奴隷だったって知っててそんな事を言ってるの?! ブロンス嫌い!」

「いえ王子、今のは言葉のあやというやつで、許してください王子!」

「やだ! 僕お姉ちゃんに付き人になってもらう!」

「ええええええええええ?! それでは私はどうすれば?! 王子との今後の展開を色々考えていたんですよ!」

 我慢していたけど、これでは凄く煩くて眠れない。
 別の場所を選んだ方が良かったかもしれないと、私は起き上がって床に着地した。
 何処かに良い場所はないかと探そうとするが、ハシっと腕を掴まれてしまう。

「じゃあお姉ちゃん行こ!」

「にゃえ?!」

 城の中を引っ張られ、何処かに連れて行かれるらしい。
 一体私に何をさせるつもりなのだろう?
 後にはあの青い男が泣き崩れている。

「王子、待ってください王子! あああ王子が行ってしまう! 泥棒猫に取られてしまったああああああ!」

 私は別に泥棒なんてしていないというのに、泥棒とはなんだろう。
 私はただの猫……

 ?

 今は人なのだろうか?
 悩んでもどうにもならないし、私はそれについて考えるのを止めた。
 そのまま私はシャーンに連れて行かれ、大きな書斎に連れて行かれる。
 本のいっぱいある部屋で、そこに一人読書をしているらしい。 
 顔も腕も真っ白く、人とは少し違う雰囲気を出しているが、一応人なのだろう。
 でもここならさっきよりは静かに眠れるのかもしれない。

「あらシャーン、お母さんに何か用事かしら?」

 その女性が私達に気付き、シャーンと会話をし始めた。
 言葉を聞くと、女性はシャーンの母親らしい。

「うん、僕の付き人をこのお姉ちゃんにして欲しいんだ。だってブロンスって酷いんだよ、命を助けてくれたお姉ちゃんに、お城を出て行けっていうんだもん!」

「命って、何かあったのですかシャーン?! 大丈夫、怪我はない?!」

「うん大丈夫! お姉ちゃんが助けてくれたから何にも怪我してないよ!」

「その人が? どなたか存じませんが、シャーンをお助けいただきありがとう御座います。宜しければお名前をお聞かせ願えませんか?」

「私はモモ。眠いから寝かせて貰う」

「え? きゃっ!」

 私はその白い人に向かいピョンと跳び、その膝の上に着地する。
 そのまま体を丸めて、目を閉じたのだった。
 体温が温かく、中々弾力があっていい感じである。
 少し窮屈な感じもするが、多少なら我慢しようと思う。

「おやすみなさい」

「いや重いのですけれど、降りてくれません?」

「僕も乗る~!」

「ま、待ってシャーン、流石にそんなに乗ったらお母さん潰れちゃうわ。それよりモモさん、まずは降りて……もういいです。私が降ろしてあげますから」

「にゃ?!」

 私の体に風が巻き付き、フワッと私の体が浮き上がる。
 そのまま床にゆっくりとおろされてしまう。
 頭の中に魔法という情報がながれ、今のがそうなのだと私は知った。
 だからどうしたと言われても、私はどうもしないのだけれど。

「え~っと、その人が悪い人ではないのは何となく分かるのですが、別の人にした方が良いのではないですか?」

「やだぁ、僕はこのお姉ちゃんがいい! ねぇ、お母さんいいでしょ?」

 ああなるほど、この子は私と家族になりたいと言ってるのか。
 確かに美味しいご飯もくれるし、向うの家族とはもう会えないのだ。
 この人達と家族になるのも悪くないかもしれない。
 私はそう納得して、眠気を何とか振り払い、その会話を聞いていた。

「う~ん、じゃあブロンスと一緒でいいなら考えてあげる。それでいいかしらシャーン?」

「それは嫌! 僕はお姉ちゃんだけでいいよ!」

「仕方ないわねぇ、じゃあブロンス以外の人を見つけてあげるから、その人と二人でお願い」

「う~ん、それならいいかなぁ? じゃあそれでいいよ」

「ありがとうシャーン」

「うん、ありがとうお母さん。じゃあよろしくねお姉ちゃん!」

「宜しくお願いしますモモさん」

 二人の話しがやっと決まったらしい。
 これで私達は家族になったのだ。

「うん、ご飯をくれるなら、私はシャーンの家族になる。それよりちょっとトイレに行きたい。少し待っていてくれ」

 私はこの部屋の窓を開けて跳び下りると、庭の地面に座り込んだ。
 お腹に力を入れようとするのだが、シャーンの声が聞こえて来る。

「お姉ちゃ~ん、そこは駄目だよ~!」

「ええっと、これはちょっと常識を教えた方が良いのかしら……うん、そうしましょう」

 それから二週間、私は色々な躾けを強要され、この世界の常識というものを身に着けたのだった。
 もうトイレの場所を覚えて完璧である。

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