一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

41 小さく大きな物語47

下山して気絶している俺に、女の人が声を掛けて来ていた。何とか目を覚ました俺は、その人の案内で食料が積んである馬車へと移動し、目的の食糧と水を確保した。夜の為に薪やランタンも詰め込むと、背にはかなりの重量の荷物が乗っている。それを持って山道を登り始め、ただひたすら真っ直ぐに進み、約束の時間が来る。どうやらまだ先だと足を進ませ、仲間達を発見すると、腹を空かせた皆と食事をとり、野営の準備を始め、焚き火に火をつけた…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール    (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米)  メタリアス  (黒髪の新米)  
アウティーテ(桃色の新米)


「「「じゃんけんぽん!」」」

 と出したのは俺達三人だけで、新米達は参加していない。
 もし万が一新米二人のチームでも出来上がってしまえば、今までの事からしても信用できないのである。
 だから俺達が分担して一人ずつ担当する方法をとったのだ。

「うぐ、負けてるし」

 そのジャンケンの結果、俺はチョキを出し、二人はグー。
 俺は真っ先に負けてしまい、二人が選んだあとの残りの一人を担当する事になってしまった。
 まずストリアが同性のアウティーテ、リッドがメタリアス選び、必然的にハルバックスが俺の担当になってしまう。
 まあ誰を選んでいた所で、大変さはさほど変わらない気がする。
 で、結局順番はどうなったのかといえば、勝ったストリアが最初の順番を選び、リッドは最後を選らんだ。
 だから俺は、あまりやりたくはなかった二番目になってしまった。

「じゃあストリア、見張りは頼んだ。俺達は先に寝させてもらうぞ」

「頼むねストリア。僕も先に休ませて貰うよ」
 
「ああ、私達に任せておけ!」

 向う側からあの三人の声が聞こえてくる。

「アウティーテ、一番手は頼んだぜぃ!」

「お前に俺達の命を預けよう!」

「ふっ、この美しい私が護ってあげます!」

 仲間同士で信頼し合うのは良いのだけど、初めて野営をするのに自信が有り過ぎるきがする。
 だが高所から落ちたり、化け物みたいな奴にあったりしても、その姿勢を崩さないのは中々優秀なのだろうか?
 過剰な自信は毒にもなりかねないのだが、何時か何かが起こらない事を祈っておくとしよう。
 見張りと火の番は二人に任せ、俺達は残りは寄り添うように集まり眠りについた。
 男同士とか、そんな事は気にしてられないほどに寒いのである。
 それでも今日は中々に動きまくって結構疲れていたらしく、俺は一分もしない内に眠りについた。

「起きろレティ、交代の時間だぞ」

「…………ん、もうか?」

 ストリアに体を揺すられ起こされたのだが、眠りについてまだ一分も経っていないじゃないかと思う程、眠った間隔がまるでなかった。
 だが夜の時間は深まって、周りの景色は真っ暗く変わってしまっている。
 俺の眠った時間とは違うのがそれでわかってしまう。
 起きているのはストリア一人で、もう一人は寝てしまったらしい。
 初めての冒険と緊張もあったかもしれない、それで野営までさせるのは無理だったらしい。
 まだかなり眠気があり、このままではまた眠ってしまいそうである。
 俺は背伸びをして息を吸い込み、頬を叩いて無理やり目を覚ました。

「よし、じゃあ交代するから、ストリアは眠ってくれ。後の事は俺ともう一人に任せとけ」

 俺は立ち上がってハルバックスを起こそうとするのだが、何故か左腕が鎖につながれた様に動けなくなっている。
 その腕を見ると、ストリアの手が力いっぱい俺の腕を掴んでいた。

「私はまだ眠れないんだ。その男の代わりは私がしてやろう」

「いや、寝た方がいいぞ。目を瞑っているだけでもかなり違うからな。かなり血を抜かれてたから、今日は無理はしないほうがいい」

「レティ、私は真剣なんだ。言葉を躱すようなことは言わないでくれ」

 真剣と言った通り、その顔は言葉そのものだった。
 俺の目を真っ直ぐ見つめ、その意思を示している。
 俺だって男で、これ程好きだと言われて、その想いに答えてやりたい気はなくはない。
 シャインへの想いは置いておくとしても、俺はストリアの事は好きなのだ。
 ストリアとの付き合いは、ただの幼馴染と言えるものではない。
 小さい頃には一緒に風呂に入ったり、同じ布団で眠った事さえある。
 一緒に粗相をして怒られた事もあったし、本当に一緒に成長してきていたのである。
 勿論そこにはリッドも居たが、やはり女性であるストリアに対しては、その気持ちが大きい気がする。
 友達、親友さえ超えて、家族、兄妹、それ以上に、自分の一部、自分自身と言っていいぐらいだ。 
 愛を語る言葉は色々あるが、俺にとって彼女を例える言葉はない。
 言うなれば、前向きなものが全てが当てはまってしまう程だろう。
 別に恋人にならなくても、今現在でも充分に満たされているのである。
 ……思い返してみれば、だからこそ俺は彼女には手を出さないのだろう。
 何時までもこの関係が続くとは思わないが、彼女が別の男性を選ぶ日まで、その時まではこの関係を続けて行きたいと思っている。

「本当に体は大丈夫なんだろうな?」
 
 俺はハルバックスを起こすのを諦め、ストリアの横に座り込む。

「ああ、もう全然平気だ!」

 ストリアの顔が笑顔になり、俺もそれに微笑み返した。

「じゃあ次の町でのデートの話だが、私は服を買いたいと思っている。レティは何処へ行きたい?」

「ああ俺は…………? いや待て、俺はお前とデートするとも言ってないんだが?」

「大丈夫だ、恥ずかしがって行きたくても行けないのは分かっているぞ。この私に任せておいてくれ。ちゃんと最後までやらせてあげるからな!」

「あのなぁ、俺は普通に断ってるだけだからな! デートはしないぞ!」

「おいレティ、大きな声を出したら皆が起きてしまうだろう。声量には注意しろ。それと今の発言は利かなかった事にしてやる」

「いや聞けよ」

 デートしてくれという言葉を丁重に断り、付き合ってくれという言葉をひたすら躱し、何時も通りの会話を続けている。
 俺達は時間を忘れるほどには楽しく会話を続け、そのまま忘れすぎて朝になっていたらしい。
 リッド達と交代するのも忘れていたが、もう終わってしまった事だし諦めるとしよう。
 もう気温も随分と上がって来ている。
 俺とストリアは立ち上がり、朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

「~~~~~~はぁ、じゃあ今日も一日頑張りますか!」

「ああ、では全員起こすぞ。レティも手伝ってくれ!」

「おう!」

 俺とストリアは全員を起こし、軽く食事を済ませるのだった。

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