一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

38 何時かは今日でこの時だ!

暴れないようにと倒れた天使を縛り上げ、俺はあの扉の中を調べ始める。その中は中々可愛らしい部屋となってはいるが、あまり綺麗とは言い難い。体を元に戻す手掛かりを探し、色々と物色をすると、テーブルの上の地図が怪しいとにらむ。小道具とかペンを調べ、小さなボタンの様な物を地図に乗せると、スイッチは地図に吸い込まれる。やはりこれだと当たりを付け、なんとか使えないかと地図にペンで書きこみをしてみた…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)
マスティア  (塔の天使)


 これでいけるはずだ。
 いけなきゃ困る。
 だが失敗したとしても、また設置してしまえいいだけの話だ。

「よし、俺の手で実証してやるぜ!」

 俺は部屋の外へ跳び出し、設置した罠のある場所へと向かって行く。
 一応あの天使の様子も見てみるが、外には特に変わった事は見られず、仲間達とあの気絶している天使が居る。
 動きがないのなら、何も気にする事はないだろう。
 さて、俺が書き込んだ罠は色々あるが、真っ先に向かったのは一番近くに作った物だ。
 その罠をカチッと踏み込んだ時、あの警報音は鳴ってはくれなかった。
 音を鳴らす工程も作らないと駄目なのだろうか?
 だが音は鳴らずとも、俺の体に変化が起きる。
 この全身に青色のオーラが立ち昇っていく。

「来たぜ、きたあああああああああああああ!」

 この罠に書き込んだのは、自分の体を元に戻せるという文字である。
 こちらの文字で良いのかとも思ったが、どうやら大丈夫らしい。
 上手く行けば、これ一つで俺の体は元に戻れる。
 その光が収まった時、俺の体は元に戻っていた。
 そう、一つ前の巨大な体に。

「だああああああ、これじゃねぇよ! ……いや待て、考えろ。これを後二回やれば戻れるかもしれない。一応もう一つ作って置いてある。それを使ってもう一回。 ……待て待て、小さくなって何か有ったら不味いかもしれない。もう二つぐらい罠を作ってからにしよう。よしそうしよう」

 巨大化した俺は、あの部屋に戻って再び罠を設置しようとするのだが、使える罠のスイッチも結構少なくなってきている。
 残りはあと三つ。
 一度考え直すべきか、それともやはり二つ使うべきだろうか。

「まあ二つにしとくか」

 俺は二つの罠を設置し、体を戻すという罠を二つ作り出した。
 これで三つの罠が出来たのだが、二つを踏めば戻れるはずである。
 また外に跳び出した俺は、入り口近くに作った罠をまた踏み込んだ。
 やはり音は鳴らず、俺の体から青いオーラが立ち昇る。
 これは先ほどと同じで、終わった時に体に変化が起こるはずだ。

「よし、体は縮んでいるぞ! これでもう一つ前に…………?」

 確かに縮んで元には戻ったのかもしれない。
 だがこれは、罠を踏む前の、さっきの姿と同じである。
 つまりこれは一つ前の巨大な姿と、その前が小さな子供ぐらいの姿、ただそれがループしているだけなのだ。
 二つが交互に入れ替わるだけで、全く意味のない効果なんじゃないのか?
 ということは残りの二つのスイッチを踏んでも、結局今の子の姿に戻るという事だろう。

「これじゃあ無駄足じゃねぇか!」

 いや、まだ作ったスイッチは残っている。
 ハッキリ言えば、次に踏む物こそが本命なのだ。
 収縮と拡大このままそれを繰り返せば、確実に元の状態に戻れるはずである!
 しかし焦りは禁物だ。
 間違えて更に小さくなるような物を踏んでしまえば、罠を踏む事すら出来なくなるほどに小さくなるかもしれない。
 人の目にすら映らない状態になれば、もう積んだも同然なのだ。
 そんな状態となれば、発する声もどうなるのかも分からない。
 俺の聞いた話では、人の耳には聞き取れない音があって、発する音量が満たなければその耳には届かないと。
 その辺りは俺にハッキリわかるものではないのだが、声すら届かなければどうする事も出来なくなる。
 俺は慎重に場所を思い出し、巨大化する罠を踏み込むのだった。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 俺の体は今までの最大値よりも遥かに巨大化し、この階層の天井近くにまで頭が到着してしまう。
 頭が天井にぶつかるんじゃないかと少々の恐怖があったが、これは俺が元に戻る為の大切な過程なのだ。
 寧ろこうならなければ困ってしまう。
 俺の変化に仲間達は驚いて笑っている奴までいるが、今はぶん殴るより先に罠を踏まなければ。
 今の状態で殴ったら真面目に死ぬ可能性があるしな。
 そしてこの大きさならば歩く必要さえない。
 しゃがんでスイッチを押し込めば体は元に戻るはずだ!

「そこだああああああああああ!」

 俺はあまりの嬉しさに、罠へと力いっぱい手を振り下ろす。
 それにより塔を揺らす程の衝撃と爆音が、この階層いっぱいに鳴り響いた。
 やはり力と速さも遥かに上がっているから、どうも力の調整を誤ったらしい。
 だが!
 だがこれで俺の体は戻れるかもしれない!

「こ、これでやっと元に戻れる!」

 グググと縮む体は、一番最初の体のサイズにはならなかったのだ。
 もうあと頭一つ分、まだ足りず、戻る為にはあと一回繰り返さなければならないらしい。

「まだ足りねぇじゃねぇか!」

 ガッカリしている暇はない。
 罠の数はまだ充分にあるし、寝た状態であれば、どれ程巨大になったとしてもきっと大丈夫だ!
 たぶんきっと。
 果てしなく色々あったこの塔だが、後二回できっと戻れる絶対に!
 今度こそはと罠に向かおうとするが、また何か問題が起きたらしい。

「ぎゃあああああああああ、許して下さあああああああああああああああい!」

 仲間の、というかバールの悲鳴が聞こえて来た。
 さっきの音で目を覚ました天使が、縛り上げていたロープをブチブチと千切り、そのままバールの体を抱きしめている。
 抱きしめているというよりは、背骨を折ろうとしている気がしないでもない。
 ロープを千切るような怪力でそんな事をされたら、背骨どころか体までぶった切られそうだ。
 他の仲間は全員避難しているようだし、今はそれより体を戻す事を優先しよう。
 きっとバールなら耐えきれるはずだ。

「バール、お前なら耐えきれる! 俺の体が戻るまで耐えきってくれ!」

「隊長、待ってください隊長! 隊長がやったんですから逃げないでください隊長! ああああああああ隊長が悪いのにいいいいいいいいいいい!」

「おいコラ、俺をアピールするんじゃねぇ!」

 天使の力が増し、バールの背が砕けた気がした。
 舌をだして白目をむいているが、あれはタダの演技だ。
 あの馬鹿がそう簡単に死んだりはしない。
 天使がバールを投げ捨て、捨てられたバールは地面に痛くないように受け身をとってるのがその証拠だろう。
 そのまままた白目をむくという器用な事をしている。
 心配する必要がないならと、俺は罠の場所へ急ごうとするのだが、あの天使は俺を殺しそうな目で見てきやがった。
 あいつは確実に俺をやる気だろう。
 だが怒っているのは俺の所為で、仲間達にも手伝えとも言えないし、ハッキリ言ってやりずらい。
 戦うのも何だか悪い気がするし、とりあえず次の罠を踏んでデカくなってしまえばダメージ軽減ぐらいにはなるだろう。
 よしそうしよう!
 俺はもう動き出しているのだ、それを追って俺へと向かって来ている天使マスティア。
 スピードじゃあ普通に負けているし、このままでは追い付かれてしまうだろう。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「死刑です!」

 俺は足を掴まれそうになりながらも、必死で罠を手で押し込み、体を巨大なものへと変えるのだった。

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