一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

33 小さく大きな物語45

ストリアとリッドも助かり、他の三人も一人ずつ助け救い、全員を無事に助けだした。だがそれでも血が足りずに瀕死状態の全員。水と食事を取り少しの休憩の後、また俺達は動き出した。留まる事も出来たのだが動いたのには理由がある。水と少量もなくなり、この場所も安全とは言い難かったからなのだ。元の道までなんとか辿り着いた俺達は、またその場で休みを取る。そして全員が回復すると、俺は下山をしようと提案した。だが新米達は、俺達だけ置いて行かれるのは嫌だと山を登り出してしまう。目的であったヴァ―ハムーティアは見つけたと言うのに。もう放っておこうとも思ったが、俺一人で麓に降りて、水と食料を運び上がる事を決意するのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール    (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米)  メタリアス  (黒髪の新米)  
アウティーテ(桃色の新米)


 斬った一体は油断もあったのかあのまま沈み倒れたが、もう一体は後方から追って来ている。
 やはりこの俺より速いらしく、鋭い角が背後から迫っていた。
 あれに刺されれば着ている鎧程度貫くだろう。
 正面を向いて戦いたいと、俺は後を向いて逃げ続けるた。
 鋭い角を飛び躱し、電撃の波を左右へと避け続ける。
 だがこのまま下山できると思うのは、俺の甘い考えだろうか?
 麓(ふもと)の馬車まで、まだまだ先の先なのである。
 このまま邪魔をし続けられれば、むしろ時間がかかるかもしれない。

「だったら、この一振りで決めてやる!」

 振り向きざまに放った剣の一撃で、バッファローの角の一本を斬り飛ばす。
 しかしそれ以上のダメージはなく、危険を感じたのか避けられて、また角度を変えて俺に迫る。
 この魔物は案外強く、どうやら軽く一発とはいかなかったらしい。
 それでも角の一本は奪ったし、これであいつの攻撃力は少しぐらいは落ちるだろう。
 俺はまた下山に挑み、今度は逆側の角でも奪ってやろうとそのタイミングを待った。
 ダダダと俺の近くには来てはくれるが、剣を振れるタイミングは中々来てはくれない。
 あのバッファローの体からは、さっきよりも強力な電撃がほとばしっている。
 あの電撃の量では、剣で触ったら不味いぐらいかもしれない。
 かなり怒っていると感じるが、その力が永遠に続くものではないだろう。
 続けられるのならば、その力を最初から使っているはずだから。
 地面を滑り体を捻りと困難な下山を続け、思った通りに相手の雷の力は少しずつ削がれている。
 もうそろそろ攻撃出来そうな雰囲気となっているはずだが、まだ安心はできない。
 相手がこちらを誘っているだけとも感じられる。
 まだその時ではないとグッと我慢し、俺は相手の動きを見極めた。

「だったら試して見るか? うおおおおおおおおおお!」

 カウンターを合わせて剣を振るフェイントを仕掛けると、俺を仕留めるような雷撃が膨れる。
 余波だけで俺の体毛が逆立つほどで、まだまだ相手は元気そうだ。 

「やっぱり隠していたんだな。だったらもう少し使わせてやるさ!」

 フェイントを繰り返して相手の力を使わせていくが、どうやらもう魔物も気付いたらしい。
 それからも何度か仕掛けるが、もう中々反応しなくなっている。
 次の接触で、電撃を放つのか放たないのかはフィフティーフィフティーだろう。
 これなら運が良ければ勝てる。
 電撃さえ来なければ、俺の一撃で勝つ事は容易い。
 だが悪ければ…………

「やるしかないんだけどな。でも簡単にやられる訳にはいかないんだ!」

 俺の帰りを待つ仲間達、そのことを考えて安全策を選択……
 …………いや、そうじゃない。
 ただ俺が恐怖したのだ。
 きっとそれが真実だろう。

「そろそろ決着をつけたいんだけどな! もう帰ってくれない?!」

 そう言って帰ってくれれば面倒もないのだけど、この魔物はずっと俺をつけ狙っている。
 一切愛着なんてわかないけれど、魔物としては俺との付き合いも相当長い方だろう。
 だがその付き合いの終わりは近づいていた。
 長く下山し続け、もう山のふもとが見えて来始めている。
 俺達が乗って来た馬車と、それを護衛している冒険者の人達。
 あの場所へ降りれば、この俺の勝利は確定だ。

「よし、もう少しだ!」

 勝つ可能性が高くなって、俺の心は大分落ち着いて来ている。
 だが何故だろう、もう俺を見つけられる距離に居るはずなのに、誰も助けに動かない。
 余程の馬鹿者でなければ見張りぐらいは付けているはずで、俺の事も発見しているはずである。
 この辺りには木もなく、見通しもいいのだから。 
 だというのに、何故誰も支援や助けに来ないのか?!
 まさか山の上は敵を倒して行ってるからと、見張りをつけてないとか?!
 いや充分にあり得る。
 あそこにはベテランも多く居るが、その分新米も多いから!

「おい、たす…………」

 大声ならきっと聞こえる、そう思って声を出そうとした。
 しかし今俺が助けを求めたなら、下で待っている新米達はどう思うだろうか?
 いや、ベテラン冒険者であっても思うかもしれない。
 あいつ怖くなって一人で逃げて来たぜ的な、そんな事を思われないだろうか?!
 事実は違うとしても、そう思われるのは何か嫌だ。

「で、肝心の相手は?」

 結構冷静になった俺は、襲って来るバッファローを改めて見つめる。
 時間が経ち、たまに出る相手の雷撃も、今はかなり落ち始めていた。
 食らってみなければ分からないけど、たぶんまだ危険なレベルだろう。
 だがこの魔物を、あの場所まで連れて行って俺が倒せば、もの凄く恰好良い気がする。
 ついでに雷撃の威力も減らせるし、もしそれで失敗したとしても、あの場には大勢の仲間が居るはずだ。
 失敗したとしても助けが入るだろう。
 うむ、これは良い事だらけなんじゃないのか?!

「おし、やってやる!」

 やることを決めてしまえば覚悟も決まり、出来る限り迅速に移動を続ける。
 敵の攻撃を潜り抜け、やっとの思いで馬車の近くへとやって来た。

「やっと到着したぞ!」

 結局なんにも気付いてもくれなかったこの集団だが、そのおかげで俺の格好良さを見せるチャンスが作れた。
 俺は見張りの背中を追い越し、ズザザっと反転して魔物と向かい合う。

「くっ、何時の間に後ろに! 皆に迷惑はかけられない、アイツは俺が倒してやる!」

 そこそこ大きな声にやっと気づいた仲間達だが、ハッキリ言ってあの魔物はもう弱りまくっている。
 大勢の人間にも目もくれず、俺だけを見つめている。
 だからこそ、俺にしかやれないのだ!

「止めを刺してやるぜえええええええええええ!」

 ワザとらしく大声を上げて、ここで最後の止めを刺そうと剣を振りかぶった。
 タイミングも威力もバッチリある大振りの一撃が、相手の頭上をキッチリと捉える。
 それに対応するかのように電撃が迸るが、もう俺は怯みはしない。

 ザシュッ!

 電撃の波を斬り裂き、剣は後方に突き抜ける。
 余力で動く魔物の体は、止まると共に二つに分かれた。
 格好良く魔物を倒した俺はというと、案外強烈な電撃の為に、ひっくり返って倒れたのだった。

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