一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

32 時間制限付きの剣。

赤い蛇との激闘が始まった。俺達三人はその蛇に向かって攻撃を繰り出すのだが、俺の斬撃は利かず、炎や雷撃の攻撃もダメージがなさそうだった。それだけではなく、その蛇の口内からは、炎や雷撃が発射された。魔法攻撃の類は効かぬと判断し、武器での攻撃にしぼり戦いを続けた。俺は二人から離れて意識を逸らそうともするが、俺には構わず残りの二人を攻撃し始めた。舐められるものかと俺も斬撃を仕掛けるのだが、蛇には効果がなさそうだった。そんな時、残りの三人が合流をしたのだった…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)


「ぬおおおおおおおおお、これでどうだあああああああああああああああ!」

「あてい! あてい! てい!」

 蛇の後方、尻尾の先にダルタリオンの大剣と、バールの槍が当てられている。

「ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 ダルタリオンの渾身の一撃も鱗にはじかれてはいるが、その中の肉にはダメージがあるらしい。
 当てられるたびに身をくねらせ、後方に顔を向けている。
 バールの方は、まあそれなりにと言うレベルだろうか?

「ふぁいふぁああああああい!」 

 残りの一人、ランツは後ろの方で応援をしていた。
 ハッキリ言って戦力外である。
 奴の攻撃は炎以外にも打撃があるが、その打撃も炎の力を宿している。
 攻撃してしまえば蛇に火の力を与えてしまうからだ。
 肉体のみを使うランツでは、この蛇との相性が悪すぎる。
 ちなみにエルも炎の力を持っているが、今はメイの武器を借りて戦っていた。

「今ですエルさん!」

「…………!」

 で、ダルタリオンの攻撃で後を向けられると、今度は後になったメイとエルの攻撃が始まる。
 相手にダメージは与え続けているのだが、体の後方ばかりに集中していた。
 だがこれでは命を奪う為に相手の尻を斬り付けている様なもので、決定的なダメージは与えられない。
 俺の斬撃も効果は薄いとなると、結構拘りがある自身の斬撃も捨てるべきだろう。
 このまま役立たずとなると、隊長としても格好がつかないからな。

「よし決めたぜ! メイ、俺にも武器を貸してくれ。とびっきり切れ味が良い奴で頼むぜ!」

「くッ! 構いませんけど、もう少し待ってください! 相手が逆を向いてからです!」

「ああ、それで構わねぇ!」

 そこから暫くしてダルタリオンの攻撃が蛇の尻尾を捉えると、蛇が痛みにより後方をふり返る。
 何時また気が変わるともしれないが、今がチャンスとメイに近づいた。

「俺に剣を頼む!」

「はい、ですがその体に合うような剣はありませんよ? きっと重いと思います」

「分かってるよ、だがこのまま何もしないよりは随分マシだからな。何でも良いから切れるやつを貸してくれ」

「了解しました! では、ボックス!」

 これもよく分からない魔法だが、たぶん収納したりする魔法だろう。
 空間に穴が開き、そこから目的の剣を取り出している。

「ではこれを使ってください」

「おう!」

 手渡された物は赤黒い刀身で片刃の剣、ファルシオン系統だろうか。
 だがそれを持ってみるものの、やはりこの体ではかなり重い。
 連続で振るのはもちろんだが、一度振るだけでも相当辛いだろう。
 それでもダメージを与えられるのであれば、何かやり様はあるはずだ。

「じゃあ有難く使わせてもらうぜ!」

「あ、でも気を付けてください。その武器は確かに切れ味は良いのですけど、その代わりに五分で全魔力を食い尽くされるという物なんです。長期戦にはハッキリ言って向いていませんから!」

「なるほど、了解だ。魔力がなくちゃ飛ぶことも出来なくなるからな、ギリギリまでは使ってやるぜ!」

 剣を持ち飛び上がるが、真面に持って構えるのも辛いぐらいだ。
 このままじゃ振る事も出来ないのだが、剣の峰を肩に当ててバランスを保つ。
 そのまま体を剣の一部と化し、自身の体ごと回転を加える。
 遠心力は剣の威力を増して、俺を無視する蛇の野郎に直撃を果たした。

 バキイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!

 ギシャアと蛇が飛び上がり、全く歯が立たなかった蛇の硬い鱗にヒビが入る。
 あの硬い鱗にヒビを入れるとは、この剣は中々に良い剣らしい。
 だがどうも斬っているというより破壊している気分だが、斬れているから破壊出来ていると信じよう。
 こうしている間にも時間は経過し、使える時間が減っている。
 俺は急ぎ二撃目を放つも、蛇は一番ダメージを与えた俺を警戒しだした。
 中々に大振りだから仕方ないのだが、回転する俺の剣を軽く避けられ、俺はそのまま遠心力で真っ直ぐ進んで行ってしまう。
 かなり勢いがあったからか、仲間達との距離を開けてしまったらしい。
 そのまま勢い余って地面に剣が突き立てられ、俺はそれを抜こうと必死に引っ張った。

「ぐぬううううううううううううううう!」

 だが剣はガッチリと地面に食い込み、俺の力だけでは抜けてはくれならしい。
 折角借りたというのに、これでは引き抜くだけで時間が終わりそうである。

「シギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 引き抜くのに留まるしかない俺を目掛け、あの大蛇が身をくねらせる。
 そして全身のバネを使い、大きく口を開けて発射されたのだ。
 もうこの剣は諦めるしかないと、バッと手を放し回避に専念する。
 俺は蛇の攻撃を避けるも、再び俺を標的に見据え、真っ直ぐ俺の元へ向かって来ていた。

「テメェ、俺ばっかりに来るんじゃねぇよ!」

「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 文句を言った所で、俺の言葉なんぞ理解もしていないのだろう。
 一つ大問題がある。
 どう見てもあの蛇の方が動きが素早く、このまま避け続けるのも限界が近い。
 武器もなくし、避ける内に仲間とも離れて状況はさらに悪く、このままじゃ食われてしまう。 
 まずはあの武器をどうにかして、仲間の元に戻らなければ。
 いや、仲間の元に戻ってから武器をどうにかする方がいいのか?

「シャアアアアアアアアアアア!」

「グヌッ!」

 だが簡単には合流させてくれないらしい。
 俺の考えを読んだのか、蛇は進路を塞ぐように体をくねらせる。
 こうなりゃ剣を抜くしかないが、俺の力だけじゃ抜けそうもない。
 抜けそうもないなら、仲間に引き抜いてもらうか、この蛇の力を利用するしかないだろう。
 下手すりゃ剣が折れるが、もうやるしかない。

「こっちに来やがれ蛇野郎!」

 俺は近くに刺さったままの剣へ向かい、その柄を掴んだ。
 闘牛でもしてるように蛇の攻撃を避けていると、たまに蛇の体が剣にぶつかり振動を与える。
 地に刺さった剣が動き、少し緩んだ気がした。

「来た!」

 俺は剣の柄に手を伸ばし、それを思いっきり引き抜くと、無駄にデカイ蛇の顔が迫っていた。
 剣を手放せば逃げられるかもしれないし、仲間達ももう近くに来ている。
 だがもう使える時間も少なく、魔力を使い果たせば飛ぶことも出来なくなってしまう。
 だったらこのタイミングに賭けてやろう。

「テメェがどう動くかなんて分かってんだよ!」

 もう何度も躱して相手のタイミングは読めていた。
 大きな口が迫る中、俺は思い切って剣を振りかぶる。

「うおらああああああああああああああああああああ!」

 敵の動き、そしてこちらの動き、それが俺の足りない力を補ってくれた。
 バクっと大きな口が閉じた時、剣を振り下ろした俺は、相手の額を斬り裂いていて後方へと流れていた。
 剣先は硬い鱗までも易々と斬り裂き、蛇からは赤色が吹きこぼれる。
 それでも動き続ける赤い蛇は、また俺を狙って動き始めた。
 残り時間がどのぐらいかも分からず、あと何秒残ってるのかも分からないが、あと一回あの額の傷にぶち込めば終われるはずだ。
 最後の止めを刺そうと動き出した時、俺以外の奴等が到着したらしい。 

「ここが好機! このワシが最後の止めを刺してくれるううううううううう!」

「…………!」

「エルさんに良い所を見せる為にも、止めはこの僕が!」 

「はっ? 何言ってるんですかメイ君、エルと結ばれるのはこの俺ですから! 初めてはこの俺が!」

「誰がテメェ等なんぞにやらせるか! ここまで追い詰めたのはこの俺だ。最後ぐらい花を持たせやがれ!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

 誰一人譲る気配はなく、全員の攻撃が蛇の額へと収束していく。

 ドシュウウウウウウ!

 俺を含め、五人の攻撃は殆ど同時だったと思う。
 蛇の額には五本の武器が突き刺さっていた。

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