一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

26 静か過ぎても気が散るじゃねぇか!

上の入り口は水で封鎖され、移動することが出来なくなっていた。メイの力で水を爆ぜ差すも、水量は変わっていかなかった。しかしバールの腕が上層に伸ばされると、大量の川の如き水が、上から降って来た。俺は上層の様子を探ろうと飛び上がるのだが、再び入り口は水で閉ざされてしまう。それからちょっとばかりのいざこざが終わり、夜となっていた…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)


 バールとの決着がつくが、これも何時もの事だ。
 朝には変な禍根もなく、また上層へ挑んでいる。
 だが中々上に進む手立てが見当たらず、何度も同じことを繰り返すばかりだった。
 完全に封鎖されているはずもなく、どこかに解除する方法があるはずなのだが、探してもそれが見つからない。
 元の体ならば水の玉の間を抜けるのも出来そうではあるが、今のままでは無理だろう。
 もう殆ど手詰まりの状態だった俺達に、一つの転機が訪れる。
 森の階層出会ったこの場所に、上層階の水が流れた為か、また小さな木が育って来ていたのだ。
 それは植物としては有り得ない速度で成長し続け、今は一メートル近くになっている。
 また襲い掛かって来るのではないかと警戒してみるも、ただそれは襲って来るものでもなく、普通の植物の様なものだった。
 触った所で何もなく、その木が成長し続ける横で、また何度も上層へ挑む。
 もう何度やったか分からないぐらいやり続けるも、結局何も見つからず、横にある木は天井にくっ付いてしまっていた。
 もうバールと俺以外は、カードゲームを始めて気が抜けてしまっている。
 そしてもうバールも疲れ果てて動けなくなった頃、今日はこれで最後だと俺は上階へ飛び上がった。

「おっと、もしかしてあの木が切っ掛けだったのか?」

 俺がその階層にあがると、二百五十九階層では永遠に降り続いていた雨が止んでいたのだ。
 水の玉は相変わらず浮いているが、数は相当数減っていて無暗に襲っては来ないらしい。
 たぶんだが、成長した木が上の階層の水を吸っているとそう考えるのが正解なのかもしれない。
 それを示す様に、もう伸び続けた木の成長が止まり、太い枝が階段状へと変わっていた。
 結局時間ぐらいしか解決の手段がなかったらしい。
 本当に面倒な塔だ。
 だがこれで先に進めると下層を見ると、全員が寝転がってやる気をなくしている。

「おい、もう進めるようだぜ。全員起きろや!」

 俺は本当にだらけきった全員に活を入れるのだが…………

「ふぁいやぁ?」

「…………はぁ」

「おお、やっとなのか? じゃあボチボチやるとするか」 

「隊長、体調が悪いので、もう少し休ませてください。隊長が悪いので」

「皆さん、これで進めるんです、元気を出して行きましょう!」

 全員が起き上がるも、メイ以外はもう緊張感もなくなってしまっていた。
 だが俺としてはその辺は心配はしていない。
 こいつ等なら進む内に、ひり付く緊張感も取り戻せるだろう。

「よし、全員そろったな。じゃあこの階層を進むとしようか」

「ふぁいや!」

「べノムさん、それでどっちに進むんですか? 見る限りここも相当広いみたいですよ」

「うむ、べノムの力もそれなりにあるのだ、ここは二班に分かれるのはどうだ?」

「隊長それは良い考えですね。では俺とエルが一班で、残り四人がもう一班って事で」

「…………死ッ!」

「うごおおおおおおおおおお…………」

 エルの肩を抱こうとしたバールだが、金的に蹴りを受けて蹲っている。
 班を分けるとしても、あの二人を組ませるのは無理だろう。
 最悪バールの奴がエルに襲い掛かり、返り討ちにあって抹殺される未来が見える。
 エルがマジになったらバールは炭も残らないだろう。
 あいつがどうなろうと知った事じゃないが、今は戦力として使えるのだ、やるなら帰ってからやって欲しい。

 さて、班を分けるかだが、今の所目的の罠は階層に一つぐらいしか見当たらない。
 いきなりドーンと増えるとは考えにくいだろう。
 こんな広い場所でそんな少ない罠を踏み込むのは中々ないはずだ。
 そして浮かんでいる水の玉だが、もう武器による攻撃も有効となっている。
 まあ有効になっていると言うよりも、ただ浮かぶだけで普通の水に変わったらしい。
 剣で斬り付けると、普通に崩れて下に落ちていく。
 もう無駄に警戒しなくてもいいらしい。
 これなら時間も半分になるし、班を分けたとしても、危険は少ないだろう。

「じゃあメイとエルはこっちに来い。バールとダルタリオンとランツはそっちの班だ」

「えっ! 待ってください隊長、こっちの班がジジイと色物しかいないじゃないですか! もう一度やり直しを要求しますよ。せめてエルはこっちにしてください!」

「お前今やられた事を覚えてねぇのか? やり直しはねぇよ、もうそのまま行け」

「嫌です、ちょっと待ってください! 誰も女の子が居ないところで働きたくないです! じゃあせめて下行って女の子の冒険者を雇ってください!」

「誰がそんな無駄な金を払うか! もういいから二人共そいつを連れて行ってやれ」 

「ふぁいやぁ!」

「うむ、このジジイが説教してやるわ! このジジイがな!」

「ぎゃあああああああああああああああ!」

 バールが二人に連れて行かれ、場の騒がしさが九割ほどなくなっただろう。
 落ち着いて探せると、エルとメイを連れて探索を始めた。

「………………」

「………………」

「………………」

 三十分、一時間と歩くが、カツカツと足音ぐらいしか音がしない。
 あの煩いバールと、キャラ作りに必死なランツが居ないせいだろう。
 静かなのはいいんだが、むしろ静か過ぎな気がしないでもないな。
 そもそもエルは喋らないし、メイの奴も口数が多い方じゃない。
 普通にまじめに警戒しているから、別に話しかけたりもしないらしい。
 これは俺から話しかけるべきなのだろうか?
 しかし何を話せばいい?
 エルに合わせて話しをしても、一言二言返事を貰えるぐらいだ。
 それでは会話が弾まないし、ここはメイに話しを振るべきだろう。
 いや待て、そもそも俺はこいつの事を異世界から来たぐらいしか知らない。
 兎に角何か話してみるしかないだろう。

「おいメイ、お前食い物は何が好きだ?」

「は? あのべノムさん、いきなりなんですか?」

「いや何だ……お前の事を何も知らないと思ってな。これからもこの世界で暮らして行く積もりなのか?」

「何方かに帰れる手段があるならいいんですけど、現状手が無くて。あの天使に頼めば行けるかもしれないんですけど、百パーセント不安しかないですね」

「あ~、あいつか。まあ異世界に飛ばされて、人さえ居ない世界に飛ばされる可能性は高いな。何度もやらかしてるから信用もできねぇし」

「ですよね。だから僕は、この世界で良い人が現れたらこの世界にいようと思って探しているんですけど中々見つからないんですよね。ダルタリオンさんが紹介してくれるって言ってましたけど、べノムさんも誰か紹介してくれませんか?!」

「あ、女ぁ?」

 紹介してやれる奴は居ない事もないが……いや、居ないな。
 そもそも彼奴(レアス)を紹介してやっても、メイと上手く行きそうなきがしない。
 他の奴はというと、どれもこれも一つどころか四百個ぐらい癖がありそうな奴ばかりだしなぁ。
 う~む、横にはさっき嫌がっていたエルも居るが、まあ一応聞いてみるとしようか?

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